魔王を討伐し、まだ見ぬ強者を求めて眠りについた世界最強の賢者の話
地上界と魔界、分けられた2つの世界を征しようと魔界最強の魔王と名乗る魔界の男が侵攻を開始したのが2年前だ。魔王の力は凄まじく、配下や魔物たちを率いて瞬く間に地上の3分の1を手中に収めた。そこで、単独もしくは少数の精鋭で魔王の支配地域へ潜入し、彼を討伐し世界に平和を取り戻すという無茶な作戦が立てられ、世の人から地上世界最強の賢者と呼ばれている私ルティアがその任務についた。私自身、様々な相手と力を比べる事が好きで、魔界最強の実力に興味が沸いた私は二つ返事でその任についた
が、暫くして間違っていたことに気が付いた。魔王の支配下で地上世界の住人である人間、エルフ、ドワーフなどへの虐殺などを目撃した私の精神は削られた。単純な力比べと戦争は違う。分かっていたつもりでも知識と実体験は違った
そして今、私は魔王と相対している
魔王は魔力に指向性を持たせて巨大な力の奔流として放った。奔流は余波だけでも大地を抉り、山が入る幅と底が見えぬ程の深さを持つ谷を作りながら一直線に私へ向かってくる。私は魔王の放った魔力の前に光の障壁を作る。障壁は魔王の放った奔流をあっさりと受け止めた
驚愕の表情を浮かべる魔王。先の魔力の攻撃は魔王の全力の攻撃だったようで、彼は明らかに消耗していた
「諦めなさい。貴方の全力の魔力の砲でも私には通じないほどの差がある。その様で私に勝てるわけがないでしょう」
魔王は私の言葉に歯ぎしりする。が、実際に差がありすぎるのだ。このまま魔王が世界征服等という馬鹿な願いを諦めて退いてくれるなら良いんだけど
だが、魔王は憤慨して空に飛び上がる。彼の体に先の奔流で使った魔力を遥かに超える力が漲っていく。全ての魔力を解放するつもりだ。そんな事をすれば私に勝てたとしても命が危ない。最早破れかぶれという事だろう
「この俺に諦めろだと…魔界の王たるこの俺に……ふざけるなあ!」
空中に静止した魔王は地上へ向けて、命をかけた最大の魔力砲を放つ。この威力、地上の大陸も海も消滅させるつもりだ
「地上は諦めてやる! ただし、地上の全てを吹き飛ばしてなあ!」
魔王の攻撃に、私は魔力を右人差し指に集中させ、細い光の線として放った。私の光の線は魔王の魔力の奔流を簡単に打ち消し、そのまま魔王の心臓を貫く。力を限界まで使い果たし、致命傷も負った魔王はそのまま落下、駆け寄ると既に事切れていた
「馬鹿な人……」
世界を狙う魔王を倒した私に浮かんだのは全てを守れたという喜びでも、世界最強の魔王という脅威を討伐できたという達成感でもなく、ただの後味の悪さだった
「賢者ルティアよ! よくぞ魔王を討伐してくれた、余も国の民も皆そなたに感謝しておるぞ」
魔王討伐から一月後、母国の城で私は討伐の報告をしていた。国王も周囲の臣下、兵士、騎士たちも皆喜びを浮かべている。私は跪き、王に頭を垂れる。
「私には身に余るお言葉。魔王を討伐できたのは民、そして陛下のご尽力の賜物でございます」
私の言葉に国王は目を細めて頷いている。私が力をつけることができたのも、魔王の元まで行けたのも国を治める諸国の努力と支える民のお陰だ
「そなたには魔王討伐の褒美を取らせようと考えておる。何か欲しいものはあるか?」
褒美……この場合は土地または金、爵位など、後は地位のある方との結婚など……正直そんなもの興味はない
魔王を目指す旅と魔王との戦いを通じて、私は殺し合いや戦争には辟易していた。が、それはそれとして強者と純粋に力を比べることを望む自分は健在だった。だがそんなことを願ったらどんな反応をされるか目に見えている
世間は私を賢者と呼ぶが私の認識としては自分の頭は賢者というには少々……いや、大分野蛮だと思う。そもそも賢者の基準ってなんだろう
「褒美は民たちの笑顔、そしてこの平和な世だけで十分です」
苦し紛れにそれっぽいことを言ってみる。王は私の返答に大きく頷いた
「だが、それでは我々の示しがつかぬ……そうだ、そなたは独り身と聞く。我が息子のカシウスとの婚約はどうかな」
カシウス王子は第四王子だ。確かにまだ縁談は決まっていないと聞いていたが。王族の婚約はそう簡単に決まるものでもないだろう。見ればカシウス王子も苦笑いを浮かべている。王も本気ではないのは分かるが、迂闊な事を言わないで欲しい。大臣がかなり慌てていたよ
「では…禁書に指定されている魔導書を読む許可をいただきたいのですが」
特別な力を持つ高位の魔導書が幾つも禁書に指定されて城の地下に封印されていた。機会があれば読みたいと思っていたので丁度良い、賢者っぽい願いで王も納得したらしくあっさりと許可を貰えた
しかし、戦争とは終わった後も色々ある。私は城の地下に籠もる間もなく各地を転々とする事を余儀なくされた。戦争で街を無くした人々への支援、新たな街の再建、魔界の住人との交渉、後進の育成。賢者と呼ばれ、魔王を倒した張本人である私のやるべき事は多かった
長い年月が流れ、私も年を取り、カシウス王子が貴族の令嬢と結婚し子供を産み、その子供が家を飛び出して旅に出て一悶着起こし、王が崩御し第一王子が王位を継ぎ、私も沢山の弟子を輩出し、その弟子の子供が私の元へ弟子入りし一人前になり、戦禍の爪痕も傍目には分からなくなり私も第一線を退いた頃。私は駄目元で城の重鎮宛に王との約束は未だ有効か尋ねる手紙を出した。戦後のバタバタで私の小さな約束なんて忘れ去られているかもと思っていたが公的な文書で残されていたらしく、暫くして城からの使者がやってきた。私が出ると使者はルティア殿は居られるかと聞いてくる
「私がルティアです。遠路はるばるありがとうございます」
使者と護衛の兵士がざわめいている。エルフでもない人間が何十年も前と変わらぬ姿でいたら驚くだろう。頭が野蛮とはいえ、私も女だ。年老いて皺が増える自分の顔や体に思うことが無いわけではない。若返りの術を作るのもわかってくれ
「す、すいません。ルティア殿。私たちが王城へご案内いたします」
「よろしくお願いします」
使者と兵士たちと一緒の馬車に乗る。しばらく無言の時間が続いたが、使者が意を決したように話しかけてきた
「そのお姿は、魔法で…?」
「はい。私が編み出した魔法です……やはり…若くありたいものですから…」
兵士はへえと素朴な反応を示す
しかし、この魔法は自然の摂理に逆らうため、高位の魔法に匹敵するほどの難易度と儀式の手間がかかる。希少な物品を多数使わなければならず、金とコネと暇と膨大な魔力と確かな技術を持ち合わせなければ使えない術だ
つまり、若返りの術は現状では使えるのが私くらいしかいない。今後の課題は魔法をより簡単に使えるようにすることだろう
王城に着いた早々に禁書庫へと案内してもらう。何十年も待たせたということで手続きもそこそこに通してくれた。ありがたい
それから私は禁書を読み漁った。大地さえ作れる創造魔法、神と対話する魔法、未来へと移動する魔法などとんでもない情報がたくさんある。神と対話する魔法か……ふむ
この瞬間、私にあの野蛮な考えが持ち上がってきた
神であれば、強者と戦いたいという私の願いを叶えてくれるのでは。そう考えると私はすぐに行動に移した。まず、神と対話する魔法を復活させること、そして若返りの魔法の難易度を低下させることだ
私は元弟子の中で時間を取れる者の元へ行き、若返りの術の研究を開始した……が上手くいかない。なので、魔法を細分化し小皺を取る魔法、髪を生えやすくする魔法などを作り美容魔法として体系化した。弟子に元の若返りの術の研究開発の経緯を記した書を託して私は全ての準備を終えた
神と対話する魔法は禁書の魔法なので私一人で、誰にもバレないようにやらなければいけない。だが、魔導書にはやり方も書いてあるし、後は私の才能が魔法に届くかどうか
神を呼ぶ魔法はその辺で使えるわけではない。絶大な魔力を蓄えた土地、神が住まう場所に最も近いとされる場所。そこに行かなければならなかった。そこは地上世界で最も高いとされる山の上に建てられた長い塔の天辺であり、死出の旅と言える。目的が目的だけに誰にも告げず、夜に逃げるようにして旅立った
旅は困難を極めた。今では誰も入らない土地で道なんて存在しない。山を登るにしても体を慣らせながらでないと死ぬ。寒さ、風、氷、岩、霧、全てが死を齎す想像を絶する世界だ。何度も引き返し、何度も挑戦する……やはり私は賢者というには馬鹿過ぎると思う
旅立って数年後、私はついに塔へと辿り着いた。そして最後の力を振り絞って塔の最上階へと登りきる。体力は既に尽きているが根気と願いへの執着だけが今の私を支えている。塔の最上階は神殿のようになっている。神殿の奥に魔法陣があった、あれだ!
魔法陣の元へ行き、儀式に必要な水晶を設置する。全ての準備が完了し、私は神を呼び出す呪文を詠唱する
「デウス アッペア、エト クエスティオニ メエ レスポンデ!」
その瞬間、私の周囲が光に包まれた
私は白い空間にいた。目の前には金髪碧眼の美しい女性が立っている。彼女には見覚えがある…教会に立てられ、私たちが崇める世界を創造した女神の像にそっくりだ。彼女は私に微笑みかける
「よくここまで辿り着きました。私はセティーネ、貴女のことは見ていましたよルティア、頑張りましたね」
私の世界の創造神と同じ名前だ。やはり同一の存在だろう。私は跪き頭を垂れる
「セティーネ様、私の呼び掛けにお応えくださり感謝いたします」
「貴女の行いはそれだけの価値があるということですよ。顔を上げてください。私に問いたいことがあるのでしょう?」
彼女の声が私の心に染みる。安心感を覚える優しい声だ。私はセティーネ様に目を合わせて口を開いた
「私は…自分の力を試す場所、相手を欲しています……どうすれば私の望みは叶うのでしょうか?」
セティーネ様は無言になった。あ、多分呆れているな。神様視点でも強い奴と戦いたい! って願いでこんな無茶やらかすのはヤバい奴って判定なんだろうな
「願い……それなんだあ……分かっていたけど……違って欲しかったあ…世界平和とか…幾らでもあるでしょ……」
何かボソボソ言っている。さっきまでの神秘性を全く感じない。まさか、さっきの雰囲気は作っていたもので今の彼女が本来の姿なの?
セティーネ様はコホンと咳払いをする
「貴女が生きている時から長い長い時が過ぎた時代であれば貴女の願いは叶うでしょう。驚くでしょうが……封印魔法は使えますね、この塔で貴女を保存します」
驚く……そんな時間が経てば世界も様変わりするよね。でも望みは叶うのか、私は自然と笑顔を浮かべていた
「セティーネ様、ありがとうございます、早速取り掛かります」
セティーネ様は何か言いたそうな顔をしていたが、結局何も言わずに私を元の塔へと送り返した
塔へ戻った私は自身に封印魔法を施す。この封印が解かれた時、私の前にどんな光景が、そしてどんな強者との出会いが待っているのか。楽しみだ
魔法の詠唱と共に私を結界が覆う。そして、私は意識を失った
光を感じ、私は意識を取り戻した
身を起こすと周囲が激変している。氷に覆われていたはずが草原になっていて、私は塔の残骸と思わしき岩の列に挟まるようにして倒れている。大規模な地震でもあったのだろう。よく無事で……セティーネ様のご加護だろうか
と、私の感覚が何か途轍もない力を捉えた。どこからかは分からない。ただ、途方もない強大な存在がこの世界にいる!間違いなく今の私では相手にすらならない。私はその力に恐怖し、憧れを抱いた
力は一瞬で消えてしまった。取り敢えず人里を目指そう
暫く草原を進んでいると石のようなものでできた広い道に出た。中心には線が引かれている。道に沿って進んでいると、背後から巨大な鉄の箱が走ってきて私の横を通り過ぎた。驚いたが、よく見れば車輪が付いている。どうやら何らかの動力で車輪を動かしているらしい
それだけではなかった。遠くに街が見えたが、塔のような建物が建ち並んでいる。文明がかなり進んでいるようだ。その上、人が空を飛んでいる。私も飛行魔法は使えるが、速さが段違いだ。マントを羽織り、体に張り付くような薄い生地の服を着た筋肉質な男性や、全身を鎧に身を包んだ戦士、剣を背負った少年、金属の体と思われる巨人など様々な存在が私の上を通過していく。同じ方向だ。何かあったらしい
正直引くほど驚いた
街に辿り着く。まずは情報収集か……見える範囲に公園と思われる広場があった。あそこなら暇人がいそうだ
……!
街を歩く人々も多種多様だ。人間、エルフ……緑肌の人間達、頭から兎の耳が生えた女性、二足歩行のカエル
変わりすぎじゃない?
……い!る…
呆けたように周りを見渡す。ひいっ!船まで空を飛んでいる!?
…ーい!ルティ…
わああっ!建ち並ぶ塔に掲げられた絵が動いてる!?
おーい!ルティア!
ぎゃあああっ!地中からモグラが!あっ、普通か……でもモグラは戻してあげないと死ぬな。ほら、頑張って戻れ……よしっ
「さっきから呼んでんの気付けえ!この脳筋賢者あっ!」
ひええええっ!何?何!?慌てて声のした方を見るとそこにはセティーネ様が立っていた。服が……随分と、何その肩を出した服に生足剥き出しのスカート。はしたないのでは?それに野菜が入った紙袋を持っている。自ら買い物とは庶民的ですね神様
というか?ノーキン…賢者?セティーネ様はなんかやっちまったという顔をしている
「神としての威厳が……」
また何かブツブツと呟いている。確かに女神という存在にはふさわしいとは言えない態度にも思える。というか、私に何か用事だろうか
「セティーネ様、私に何か御用ですか?」
彼女は慌てて居住まいを正す。取り繕っても遅いぞと思いますよ女神様
「この世界についてお話します。私についてきてください」
紙袋を抱えた神に連れられて街を歩く。空中に絵や文字が浮かんでいる。魔法でも似たようなことはできるが魔力は感じない。家ほどの大きさの鉄の巨人が建物を作っている。よく見れば胴体部がガラス張りになっていて中には人が居る。あれは乗り物なのか
目に入るすべてが奇異に見え、ついつい私の歩みは遅くなる。するとセティーネ様が私の手首を掴んだ
「ついて来てくださいと言いましたよね?」
ごめんなさい……
セティーネ様に連れられてついた場所は飲食店のような建物だった。石のようでそうでない建材が使われていて、中にはテーブルと椅子が整然と並べられており、多種多様な種族が思い思いに過ごしている。なんだここ
私とセティーネ様が建物に入ると壮年の男が出迎えた。店主だろう。セティーネ様はその男に紙袋を渡す
「お疲れ、セティーネちゃん」
「着替えてきますね」
セティーネちゃん!?
店主の言葉に愕然とする。流石に信仰上の主神格にその辺の町娘と同じ感覚で接するとは信じられないことだ。この世界に何かとんでもない変革が起こったのは間違いない。神の威光も失墜するほどの
落ち着いて店内を探れば神性と思わしき存在も何柱か見つけられた。しかし、私の知るセティーネ神話に該当する神ではない。艶やかな黒髪の女神、雷を纏う神……どこの神性なのだろうか
緊張して固くなっていると、セティーネ様が戻ってきた……随分可愛らしい姿をしている。メイドのようだが装飾過多で先の服装と同じく生足を晒す丈のスカートだ……彼女は水が入ったコップをテーブルへ置き、頭を下げる
「多元宇宙にようこそ。ここは多元宇宙で戦う者達が集うギルドです」
セティーネ様から聞いた話をまとめると
1.世界……宇宙は無限の数存在している
2.宇宙には私の知る法則、現象とは全く違う法則、現象から成り立つ宇宙が存在する
3.宇宙には私が辿る別の可能性を持つ宇宙が存在する
4.それらをまとめて多元宇宙…マルチバースと呼ぶ
5.本来はそれぞれの宇宙は独立して存在していたが、どこかの宇宙で問題が発生し複数の宇宙を繋げてしまった
6.繋がってしまった宇宙の住人達は新たな世界秩序を構築した
7.多元宇宙を探索、守護することを生業とする戦士達もいて、ここはそんな戦士達を助けるための組織
8.マルチバースにおいては各宇宙の神性も他の種族と同じ扱いである
9.神性存在を上回る能力を持った住人や兵器も多数存在する
と、いうことらしい
……はあ、そうですか
取り敢えず、私が生きてきた世界とはまるで異なる世界になったのは確かだ。可能性が無限にあるというならこの世界を探索する気持ちも良く分かる
私はこの世界で目覚めた直後に感じた気配について尋ねてみた
「貴女が感じた気配はこの世界の住人の中でも最上級の力を持った戦士です。今の貴女では彼に指一本触れることすらできないでしょう」
やはりそうか……
「今の……と言うことは私はまだ強くなれると?」
セティーネ様は頷く
「この世界にも悪は存在しています。ルティア、過去の戦争で貴女が心に傷を負っているのは分かっていますが、この世界のため、力を貸して貰えませんか?貴女も強くなることができますよ」
確かに私は殺し合いや命の奪い合いは忌避している。だが、それでも悪意ある力によって苦しめられる人々が居るなら戦う覚悟はあった
それから
ある日は星を軽々破壊する化け物と戦った。私は気絶はしたが、何とか生き延びた
自分の力不足を痛感し、組織にいる多元宇宙を守護しているという魔法使いから魔術を学び、力を付ける
ある日、女神の言う最上級の戦士の親友という人に出会った。背は低い男性だったが、その実力は素晴らしい物だった
私自身は件の戦士と共闘することは無かったが、話は聞いた。何度も世界を救ってはいるが、戦士本人は殺し合い等は好まず、より高みを目指す武人とのことだ
私が復活して数年後、ついに私はその戦士の家を訪ねた。彼は普段は農家らしく、私もまずは農作業を手伝う。豊かな黒髪が針のように突き出しているその男は、私が手合わせを頼むと「ちょっと待ってくれ」と訛り混じりに言った。さすがに農作業時の服装で戦うというのはしないらしい
派手な色合いの袖無しの服に身を包んだ彼に向き合う。凄まじい圧力を感じるが、このために自分は生きているのだ!
私は彼に向けて全力の魔法を放った
結果は惨敗。手も足も出ない。この世界に来て強くなったと思っていたけど、まだまだ足りないようだ。地面に倒れる私の傍らに彼がしゃがむ
「おめえはまだ強くなれっぞ、そしたらまた手合わせしような」
彼はそう言って笑顔を見せる
まだ強くなれる……その言葉に私はワクワクしていた