とある物件について
地味に好評だったので、外伝的なエピソードを追加しました。
メインであまり語られてない部分を掘り下げてます。
俺は永谷。 〇〇県の不動産屋の社員だ。
今日はとある物件のハウスクリーニング・・・ という名の消臭剤散布を終えたところだ。
うちが抱えている3つならんだ一戸建て。
この家には1年以上人が住み続けたことが無い。
それはここが、事故物件だからだ。 だから値段も破格。
新興住宅地のバス停に近い場所にあり、小・中学校に徒歩20分。
外観も内観も奇麗にはしているので、事故物件だと説明したとしても、入居希望者は多い。
だが、長くいられない。
それは、“この家は絵と写真が飾れない”からだ。
「何なんだろうなぁ・・・ この家」
営業車に戻って、俺はそうぼやく。
俺は2週間前までこの家に住んでいた家族を思い出していた。
『すいません・・・ 絵が飾れない程度、どうってことないと思ってました・・・』
奥さんは泣いていた。
『でも・・・ 見てください・・・ カレンダーの絵も、子供が好きなアニメのポスターも・・・ 赤黒いシミがついてるんです・・・!!』
その後ろにいる旦那とお子さんも、顔色が悪かった。
その土地に、昔豪邸が建っており、芸術家が住んでいたというのは聞いた。火事で豪邸が焼けたときに、その芸術家も死んだというのも聞いた。
「でも悪霊が何かするにしても、化けて出るんじゃなくて、なんで『絵』とか『写真』を・・・」
俺は少し時間をつぶしてから会社に戻った。
会社が終わり、自宅で動画サイトをあさっていると、とある動画が目についた。
『新たな都市伝説!? 募集した皆さんのうわさ話が一つに繋がりました!!』
DJ砂嵐という、知る人ぞ知る都市伝説ネタ動画配信者の動画だった。
「・・・これ、うちの地元か!?」
DJ砂嵐が仲間と集めた都市伝説を追ううちに、〇〇県〇〇市(伏字になっているが、合間に流れる映像の背景からして、見知った景色だった)にたどり着いた。 少なくとも3つの都市伝説がこの町で生まれ、それは1つに繋がっているというのだ。
①見たら死ぬ呪いの絵が学校の怪談として語り継がれる〇〇東中学校
②公開が禁じられた〇〇市立美術館の公開禁止の絵
③絵を飾るのを禁じられた事故物件
・・・③の都市伝説は、明らかにうちの会社が抱えているあの物件だ! それに①も②も、モザイクがかかっているが、明らかに地元の風景なのが分かった。
そして動画では、その呪いの絵の作者は、例の事故物件が建つ前の屋敷の持ち主。
鬼沙羅木 柳次郎 だというのだ。
・・・しかし呪いの絵については深掘りして行くのだが、例の物件にはそれ以降に触れなかった。
「俺の手で探れってことか?」
俺はパソコンを閉じて、あの家で分かる何かは無いか、一晩考えてみた。
数日後、俺は仕事の合間に、3件の家で実験をすることにした。
「・・・突然の内見でも、まぁリビングの壁なら誤魔化せるかな?」
俺は、真っ白な何も書かれていない布張りのキャンバスや、白紙のコピー用紙を写真立てとか額縁に入れたものを、3件の家のリビングにそれぞれ飾ってみたのだ。
「絵や写真を汚す。 つまりこの地にさまよう霊は、“自分の絵をここに飾れ”あるいは“私に絵を描かせろ”と訴えているのかもしれない。 ならば白紙を飾るとどうなる?」
俺はこの家にいるであろう“何か”に話しかけるような独り言を、思わずつぶやいていた・・・
安物だが隠しカメラを設置して、絵が赤黒くなる過程もを動画に収めるのも試みた。
翌日、俺は赤黒い絵の前で呆然といていた。
「まさか・・・ そういうこと・・・ だったのか?」
白紙だったそれらは、一晩で明らかに意味のある絵に変わっていた。
「他の家にあるやつは!?」
俺は3件の家を行き来して、確認した。 すべてが絵に変わっていた。
手、足、口、そして大きな金色の眼・・・ 何か体のパーツのような絵ばかりだ。
「すごい・・・ 誰がどうやって描いたんだ!?」
隠しカメラの映像を確認する。 俺は何者かがこの家に侵入し、絵を描いている光景を、『犯人が人間であってくれ、変人がトリックを使ったイタズラであってくれ』と心の中で無意識に思っていたようだ。
だが、その動画には、一瞬のノイズの間に白紙が赤黒い絵に変わる瞬間が収められていた。
「どうすんだこんなの・・・ 会社に報告しても、理解してくれるのか? いや事故物件というのは分かってるはずだ。 いやだとしても、こんな現象どう説明する?」
頭の中の整理がつかないまま、営業車に何枚もの赤黒い絵を押し込む。
「ぁのう・・・ すぃません。 この家を管理してる不動産屋さんですよねぇ?」
背後から奇妙なイントネーションの声がしたので振り返った。
「え!? あ、ハイ、何でしょう?」
そこには、1人の男が立っていた。
「こぉの物件、買いたぃんですぅが・・・」
灰色のポロシャツに、ボロボロのダメージジーンズ。 洗って落ちなかったであろう、にじんだ絵具の跡が、そこかしこに付いている。 いかにも芸術家っぽい雰囲気の男だ。 年齢は30か40だろうか?
「あ・・・ でも・・・ この家は・・・ 少々特殊な物件でして・・・」
不意打ちで客が来て、対応に困っていると、俺の腕の中にあるキャンバスに目を止めた。
「その絵は!?」
サングラスを外したその顔は、さっきまでのにこやかな笑顔が嘘のように、狂気のような何かを表情に出していた。
「見ぃせてください!!」
俺の腕からキャンバスを取り上げ、彼は絵の中の金色の眼玉と見つめあった・・・
「あぁ! その絵も! そぅの絵もぅ見せて!!!」
営業車の中の絵も全部引きずり出し、駐車場の空いたスペースで絵を並べ始めた。
そのとき俺は、ようやく気付いた。 コレはパズルだったのだ・・・
「一つ目の・・・ 生き物?」
ひとつの絵に繋がった巨大な作品は、大きな単眼と大きな口、無数の手足を持つ肉塊ともいうべき怪生物の形を表した。
「興奮しぃてスミマセン。 わたし、こぅいぅものです」
急に落ち着いた男は、カバンから名刺を取り出した。
川畑カオル
グラフィックデザイナー イラストレーター 絵本作家
「さっそくぅですが、こぉの家! 3件とも買います!」
川畑氏の眼は輝いていた。
「こぉこぉわぁ!! 聖地です!!!」
たとえ客が多少変人だとしても、売らない理由は無いだろう、でも、なんだか・・・
俺にはそれが怖く感じた。
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