後編
扉を開けると、そこはまるで教会を思わせる空間だった。
俺たちの間をすり抜けて入った風が、止まっていた時を動かした。そんな気がした。
廃墟となったサティアンの中のホコリが舞い上がり、太陽の光が差し込む。
「なんか・・・ ちぐはぐな空間だな、森ノ村?」
「そうだねぇ・・・ 外観はタージマハルモドキ、一列に並んだ長椅子やステンドグラスっぽいカラフルな一部の窓がキリスト教の礼拝堂っぽい。 そしてアレは・・・」
ここに集まった信者たちが座るであろう長椅子。その視線の先にあるのは祭壇。
さらにその上に巨大な箱が乗っていた。 その1辺2メートルはある立方体のそれは、側面に蓮の花を思わせる文様が描かれており、まさに仏教的な雰囲気を出していた。
「宗教のごった煮感。これ箱の中は、神道っぽく、しめ縄ついた岩だったりして・・・」
森ノ村が箱に近づく。
彼の好奇心に、俺もつられて歩き出した。
箱は閂のついた扉で封じられていた。簡単に外れそうだ。
「なぁ森ノ村、開けたら呪われるとか無いよな?」
「でも、ここまで来たら、開けるしかないよね?」
俺たちは顔を見合わせて頷き、閂を外して、扉を開けた。
箱の中のソレと、目が合った。
「こいつは・・・ あの絵のモデルはこれだったんだ!!」
森ノ村が興奮気味に叫んだ。
「あぁ・・・ 一つ目村ってのは、コレがいる村ってことだったんだ・・・」
一つ目の化け物、いや異形の神とでも言うべきか?
古い金属製の銅像がそこにあった。
球体というよりやや卵型の胴体に、不規則に手足が生え、金色に輝く大きな目と、歯をむき出しにした大きな口が特徴の、正体は謎だが俺たちがよく知っているアレだった。
「たぶん、コレは昔からここにいたんだ。村の名前の由来になるくらいに。 そして近くに別荘を建てた鬼沙羅木 柳次郎は、神社の中に祭られていたコレにインスピレーションを受けて、あの絵を描いた」
森ノ村の仮説に俺も続く。
「そしてこれに心を奪われたのは、彼だけじゃなかった。カルト団体『輝く瞳の会』の教祖、光真奈子は、この神のもとで理想郷を目指して村を作った」
この得体のしれないモノに、不思議な魅力を感じた彼らは、数々のうわさや怪談、都市伝説の源流となった。
「これさ、動画にまとめたら再生回数どれくらい行くかな?」
俺はカメラを構えて銅像を撮りながら、森ノ村に聞いた。
「さぁ? でもみんなこういうの好きだしな・・・ DJ砂嵐は一躍有名人だ。 今度から外歩くときはマスクとグラサンと帽子が必須になるな」
「「はっはっはっはっはっ・・・・・・」」
一通りの謎解きを終わらせた気になった俺たちは、帰路についた。
帰りの高速道路の途中。サービスエリアで俺たちはカツカレーを食っていた。
スマホでネットニュースを見ていたそのとき。
あの一つ目の化け物と再び目が合った。
「あぁ?」
急に俺が裏返った声を出したせいで、森ノ村がご飯粒がついたままの顔を上げた。
「どうした?」
「見ろよ、このニュース・・・」
万博のマスコットキャラクターが『ギョロリン』に決定!!
毎朝新聞オンラインニュース
来年春に開催される、福岡万博のマスコットキャラクターが発表された。
丸い胴体から手足が何本も生えて、大きく見開いた一つ目が特徴の奇抜なキャラクターだ。その名も『ギョロリン』という。
キャラクターデザインを手がけた川畑カオル氏によると、『万博に来た人に、しっかり見て、触れて、感じてほしいという気持ちを込めて、目と手を強調したキャラクターにしました』とのこと。
「似すぎてないか? アレに・・・」
「ちょっと待って・・・ もしかしたら・・・ あ!やっぱり!!」
ネット記事を読み通した森ノ村は、タブレットで何かを検索し、さらなる情報を入手したようだ。
「このデザイナー・・・ たぶんあのカルト村出身だ」
プロフィール
川畑カオル
グラフィックデザイナー、イラストレーター、絵本作家。
幼少期を××県××市の山奥にあったという農村で育ち、独特な感性を伸ばしたという。
その後、家族の都合で東京に移り住み、中学生の頃から数々の美術・イラストなどのコンクールで受賞を重ねる。
△△大学芸術学部デザイン学科を卒業後、グラフィックデザインを中心に活躍中。
「いやこの情報だけでは何とも・・・ たまたま同じ地域出身ってだけかも。 でも、何だが偶然と思えない・・・ような・・・」
俺は、この異形の神が、再び信仰を取り戻そうと人の脳に働きかけているのではないか?
という発想が、ふいに頭をよぎり、拭えなくなっていた。
スマホの画面のなかで、金色の目玉が笑っていた・・・
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。
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追記
段落、矛盾点等を修正しました。