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前編

「こんばんは、DJ砂嵐です!」


 こんな言い出しで俺の動画はスタートする。


 俺はいわゆる都市伝説系の動画配信者だ。 チャンネル登録者は・・・まぁ、そこそこ。


 巷に転がる都市伝説を紹介したり、調査・検証したりするチャンネルをやっている。


 個人でやっているので、動画の投稿回数もあまり多いとは言えない。


 まぁ、半分趣味みたいなもんだな。


 実際、俺の本業は中小零細企業のサラリーマン。 定時で帰れるゆるい会社だが、給料がクソ安いのが欠点。


 しかし俺の悩みは金銭的な問題じゃない。


 ・・・動画のマンネリ化だ。


「ちかごろ皆さんからリクエストが来る都市伝説なんですが・・・ 正直食傷気味なんですよ!」


 カメラに向かって大げさに俺はしゃべる。


「陰謀論とか秘密結社、ディープステートに終末予言。ほぼこのへんのネタの繰り返しになってるんですよ最近!」


 これは本音だ。みんなが好きなネタをやるのもいいが、俺が都市伝説に求めているのはもっとアングラな、うわさ話とか、ロマンのある話とか、そういう奴だ。


「そこで今回は、皆さんのローカルな都市伝説を募集したいと思います! 視聴者の地元の心霊スポット、いわくつきの物件、住んでる変人、パワースポット、学校の怪談! 小さなうわさ話でも構いません! ミステリアスでロマンがあってワクワクする情報を募集します!!」


「 ・・・そして俺がその中から、興味深いローカル都市伝説を選んで、現地に取材に行きます!!!」




 俺が募集を呼びかける動画を投稿して数日。全国からそこそこの量の情報が集まった。


 ”近所にバチクソうまいラーメン屋があるんですが、地域の野良猫をぶっ殺してそこからダシ取ってるとのウワサなんです。ぜひ突撃取材してください!”

 “地図に無い村があります。地図アプリでは何も表示されませんが、航空写真で見ると、たしかに民家が何軒かあります。ぜひ突撃取材してください!”

 ”夜な夜な地元の村の廃校からピアノの音がするそうです。検証してください!”

 “私の祖母が田舎に住んでた頃の話ですが、誰も入ってはいけないお社がそこにあり、子供の頃そこを覗いたら、一つ目のお化けがいたそうです。祖母はもう亡くなってしまいましたが、それが何だったのか、ぜひ調査お願いします”

 ”近所の神社には天狗の絵巻物や掛け軸があって、噂では天狗のミイラが封印されているそうです!”

 “私の妻が幼少期にカルト宗教の村に住んでいたそうです。ぜひその村を調査してください”


 なんだ、あるじゃないか、面白そうな都市伝説。 こういうので良いんだよ、こういうので。


 集まった都市伝説をひとつひとつ読んでいると、奇妙なことに気がついた。


「・・・同じ町からだ」


 パソコンの前で思わずひとりごとが出てしまった。


「同じ町って?お前の地元?」


 俺の横で編集作業してた森ノ村(もりのむら)が、こっちのパソコンを覗き込んだ。


 彼は俺の友人で、俺の動画の編集作業をたびたび手伝ってくれている、大学時代からの付き合いだ。


「いや、いくつか同じ地域から投稿されてるんだ。内容は違うのもあるし・・・ 都市伝説ってか怪談っぽいが・・・」


 それは以下のような内容だった。なお地名等は伏字にする。


 ①

 DJ砂嵐さん、こんばんは。 さざ波と申します。

 私の母校の話なのですが、〇〇県〇〇市にある〇〇東中学校に「見たら死ぬ絵」のうわさがありました。いわゆる「学校の七不思議」の一つとして、昔から語られていました。

学校の美術準備室に、その絵は厳重に保管されており、かつてそれを見た生徒が発狂して飛び降りたそうです。

 絵の内容は「グロテスクな人の死体」とか「子供の泣き顔」とか、色々言われていますが謎です。

 しかし、私の在学中にその存在を確認する機会があり、校舎の一部改装工事にともない、生徒の手を借りて美術準備室の中の備品を全部出したんです。 ですが、そんな変な絵はありませんでした。そのとき先生に聞いたのですが、「そんなものはない」と答えられました。

 とても残念だったのですが、何が発端でそんな怪談ができたのか?謎が深まるばかりです。

 ぜひ地元に来て、取材してほしいです。


 ②

 こんにちは砂嵐さん、背油といいます。よろしく。DMどうも。

 〇〇県〇〇市〇〇という新興住宅地があるのですが、その住宅地の奥にある3件の家が、いわゆる呪いの物件なのだそうです。友人の知人が不動産関係で働いており、そこから聞いたのですが、「絵や写真を飾ってはいけない家」なのだそうです。

 というのも、その家で絵や写真、たとえカレンダーでも、まるで血を思わせるような赤黒い汚れが付くのだそうです。

 破格の値段なので中古で購入する人はたくさんいるのですが、家族写真も飾れないとなると結構住民のメンタルに来るそうで、長くても1年くらいで入居者が出ていくそうです。

 なんでも、その3件が建っている土地は、むかし大きな屋敷があったそうで、大火事でその屋敷は燃えてしまい、その後、新興住宅地として周辺の土地が開発されたときに、焼け跡も一緒に住宅地になったそうです。

 どうか取材におこしください。


 ③

 DJ砂嵐さん、DM失礼します。 ムンクマンと申します。

 〇〇県〇〇市にある地元の小さな美術館に「公開してはいけない絵」があるそうです。 その美術館の職員である友人から聞いたのですが、かつて地元の芸術家が描いたというその絵を展示したところ、そのグロくて気味の悪い雰囲気が客から不評で、しかもそれを見た人が体調不良を訴えるといったことも続出したため、倉庫の奥に封印されているらしいのです。

 取材オナシャス!


「他にも数件、同じ内容の話が送られてきてるし、ホントにその噂はあるみたいだけど、何より気になるのは・・・」


「あぁ、地域だけじゃなく、“絵”という共通のキーワードもあることだ。・・・これは良い動画のネタになるかもな」


 俺たちは連休を利用して、取材に行く・・・ 前に、まずムンクマン氏から紹介された美術館にアポを取り、取材の許可をもらってみる。俺たちは迷惑系配信者ではない。

 とにもかくにも電話してみた。


『はい、〇〇市立美術館です』


「もしもし、わたくし動画配信者をしております、DJ砂嵐と申します。実は・・・」



 アポは拍子抜けするほどアッサリとれた。後日、俺たちは連休を利用して〇〇県〇〇市に向かった。




 森ノ村の車に乗せてもらい、交代で運転しながら、高速道路を進んだ。


 現地に着くと、建物は年期を感じるが、小ぎれいな印象の美術館だった。

 ざっくりどんな美術館か調べたが、地元の芸術家が手掛けた作品や、資産家が寄贈した美術品、郷土資料なども置いてあるようだ。


 窓口で名乗ると、奥から先日電話で対応してくれた職員が出てきた。40代くらいのやや筋肉質な体系の男が出てきた。


「遠いところからどうも。島塚(しまづか)と申します」


「砂嵐です、こっちは森ノ村です。いやぁこちらこそ、こんな取材させてくれるとは思っていなかったです」


 島塚さんは、声をひそめた。


「・・・館長には“秘蔵のコレクションのウワサを聞きつけて取材に来た”と伝えてます。例の絵は我々だけで見ましょう」


「え!? やっぱり見せちゃいけない物なんですか?」


「そうなんですが・・・ まぁ、私としてはアレの恐怖を共有してる人が欲しいと思ったからです」


 彼の笑顔は、どこか冷たいような、ひきつったような、違和感があった。



 最初、俺たちは美術館の中をぐるりと回り、常設展示されている無害な美術品や郷土資料を見て回った。


 そして、彼はうわさの絵が眠る倉庫へと案内した。


「こちらが、目録に記録された作品の情報になります」


 A4サイズのプリントを手渡された。


 無題

 作者:鬼沙羅木(きさらぎ) 柳次郎(りゅうじろう)

 油彩

 サイズ:50×50センチ

 製作:1970年頃

 1975年寄贈

 作者の死後、〇〇東中学校で発見され、その後、学校側の意向で美術館に寄贈された。

 作者が3年間だけ、そこで教員として勤務していたことがあり、その間に持ち込まれたか、学校で製作したものと思われる。



 ・・・〇〇東中学校!? まさしくそれは“見たら死ぬ絵”のウワサがあった所だった。 となりで見ていた森ノ村も、驚いた顔をした。


「島塚さん、この作者って、どうして亡くなったんですか?」


「・・・火事で亡くなったそうです。彼が住んでいたお屋敷が建っていた場所は、今は跡形もなく新興住宅地の一部になっています」


 もしやとは思っていたが、3つの話が1つに繋がった。十中八九、事故物件のある新興住宅に違いない。


「鬼沙羅木氏は、もともと自然豊かな地元の風景を絵にすることが多かったのですが、最後に描いた絵がその・・・ 現代美術と呼ぶべきでしょうか、とても彼の作風とはかけ離れていたんです」


 島塚さんが、平たい木箱を抱えてきた。例の絵が入っているようだ。


「でも、絵の裏にあるサインの筆跡から、彼の作品で間違いないそうです・・・ これが・・・ その絵です」


 箱のフタを外し、梱包材をほどくと、その絵は姿を現した。





 俺たちは、()()()()()()()



 つづく

段落、矛盾点等を修正しました。

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