22話 ある者はある者と、ある事はある事と①
「野球部の調子はどうですか?」
「今のところいい感じです。」
「そうか。やはり君は生徒を夏の大会に合わせるのが上手いな。」
「ありがとうございます。そう言ってもらえて嬉しいです。」
「ところで小崎先生、この頃妙な噂がよく耳にするのだが何か知らないか?」
「私は何も。」
「そうか。ならいい。大したことではないからな。それより例のあれはどうだ?」
「少し手こずっています。」
「まあ焦る必要はない。しっかりやってくれなきゃ困るからな。今日はこれくらいで、お前さんも忙しいだろ。」
「ありがとうございます。それでは失礼します。」
小崎が出ていき扉を閉める。その瞬間に机に置いてある紙を見つめる。
「相当厄介だな。一つでも早く片付けていかないとな。」
夏休み直前の今、やるべきことは多く残っている。これが上手くいけば、思い描いている理想に近づくだろう。
テスト期間はもう終盤に入った。テストの出来の良し悪しは教科によって違う。ただ過去はもう変えられない。次の教科で点を取れるように準備しなければならない。イヤホンを付け、スマホの音楽アプリを開きゆったりとした音楽を聴きながら昼食をとる。今日はオムライスだ。個人的には嬉しかった。寮のご飯はハズレが多いことがほとんどだが、昼食に関してはほとんど当たりだ。スプーンで掬い一口目で味を確かめる。悪くない。すかさず二口目、三口目と食べ進めていく。
「今日のテストは手応えないからな。昼は美味しいもの食べないと。」
そう思いながら完食するまでおよそ5曲ほど聴いた。勉強のスイッチを入れ直すためにも部屋でも何曲か聴いて椅子に座り机に向かった。アップテンポな曲を聴いているせいか、疲れを感じさせない。しっかりと集中することができ、休憩がてら他の人の勉強具合を見てみることにした。食堂では一年生と二年生がそれぞれ3人ほど勉強している。俺は仲が良い先輩の近くに座りテキストを開いた。
「ここが分からないんですけど教えてくれますか?」
「ここはstopがあるから後ろはing形になる。」
「そうでした。思い出しました。ありがとうございます。」
「明日は英語がやばいのか?」
「はい。論理表現なんですけど英語が苦手で。」
「論理表現ならまだ大丈夫だな。もう一つの英語と違って簡単だからな。」
「不幸中の幸いです。」
なぜこんなことを聞いたのか後になって気付いた。
それよりも聞きたいことがある。なのにどうしても言葉が出てこない。小崎は何があって校長室に用事があったのだろうか。校長は滅多に姿を見せない。小崎と校長はどんな関係があるのだろうか。
(考えすぎのようだな。)
あるはずがないだろうと冷静になって思った。だが、どうしても考えてしまう。
(小崎は何者なんだ?)
回転し続けた頭ではうまくいかない。だからこそ先輩に聞くべきなのだろう。だが、聞けない。まるで誰かが話すことをやめさせようとしているかのように。これもきっとあの時のせいだろう。俺の人生が変わった1つの出来事。




