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「おかえり今日のMVP! 尋問はどうだった?」

 結果として、非常ベルについては多くの生徒に対して誤報ということで片付けられた。


 ただ、石橋、河合、喜屋武、玖珠の四名については、一人ずつ別の教師をつけられて別の場所へと連行された。つまり事情聴取、尋問だ。

 事前に示し合わせるような余裕もなかったが、石橋も玖珠も喜屋武も、あのとき喜屋武が言った内容そのままを主張した。とっさの嘘ではあるが全員にとって最も都合が良かったからだ。

 石橋の面談を担当したのは、去年彼の担任をした橋本先生だった。


「大丈夫よ石橋君。あなたのことは大人しいけど真面目な人だってちゃんと私は知っているから。それにその……河合君のことについては、他の子からも実は相談を受けていてね……」


 彼女の言う“他の子”が和田なのかもしれないと考えたが、石橋は余計な発言はせずにおいた。


 河合は学年主任として最も厳しいと生徒から悪評の高い佐久間先生に連行された。佐久間先生はベテランとしてあの手この手でアプローチをかけたらしいが、河合は何も言わなかったそうだ。それはそうだろう。河合は彼が阿多丘だった中学時代にも、いじめ事件について黙秘を貫いたらしいのだから。


 厳粛なる職員会議の結果、河合は停学、石橋は自宅謹慎を言い渡された。

 思ったよりも刑が軽く済んだ。



 ***



 最も面談が早く終わったのは、石橋のこの世で最も頼れる友人だった。


「おかえり色男。素敵なアクセサリーだね」


 昇降口で石橋を待っていたらしい玖珠は、彼を見るなりそう言って自分の頬を指さした。つられて頬に手を伸ばし、ガーゼを貼られたのを思い出して石橋は笑った。


「僕、これから三日間謹慎だって。何して遊ぼっかな」

「いいなーあたしもどっかでずる休みしようかな。そしたらデートしようぜ石橋君」

「やだよ喜屋武さんに殺されるだろ……なるほど、嫉妬を向けられるスリルを楽しみたいわけだな、この悪女わるおんな!」

「うひひ」


 不気味な笑い方をした後で、玖珠はいきなり真面目な顔になって口を開く。


「……ところで耳寄りな情報だ。喜屋武さんが言うには、河合君が石橋君の靴箱に偽のラブレターを突っ込んだ張本人らしい。それをあたしが邪魔したから奴は怒髪天だったんだって」

「だろうね。僕が最初から見込んだ通りだったってわけだ。――まあ、僕が思っていたのはあくまで男子学生の他愛無いいたずらの一環であって、まさか中学時代の因縁の相手が、僕を再びいじめて楽しむための華々しいスタート地点にしようとしていたとは、夢にも思わなかったが……」

「まあ、これでピースは揃ったってわけだね」

「ピース?」

「君が同日に受け取った不可解な四通のラブレターについてさ。喜屋武さん、己斐西さんはどちらも君の口封じが目的で近づくためのもので、もう一通――あたしが台無しにしちまったやつは、河合君からの地獄の再開のお知らせ。まあこの一通に関しては、ある意味で本物のラブレターだったって言えるかもね」

「やめろよ、そんな質の悪い冗談……」

「はははは。――で、残る一通は安斎さん。……安斎さんのは……やっぱ本物ってことで良いんだよね……?」


 石橋は暫し黙り込み、昼休みに安斎と話した内容を思い返し――情報を取捨選択しながら玖珠に話した。


「…………いや、あれも結論から言えば偽物だ。安斎さんは……己斐西さんが僕にあからさまな敵意を持っていることを僕に警告したいという理由で、己斐西さんの告白より先に僕に近づくため、ラブレターみたいな手紙で呼びだしたらしい……」

「警告? まあ、確かに安斎さんは喜屋武さんのときも助けてくれたし、石橋君に好意を持っていると考えれば妥当な理由だけど――」


 玖珠が妙に腑に落ちない顔で言う途中、石橋は振り返ってそれを遮るように声を出した。


「おかえり今日のMVP! 尋問はどうだった?」


 MVP? と玖珠が一緒に振り返る。

 昇降口の立つ石橋達の背後――とぼとぼと靴を履いて出て来た喜屋武が、二人の姿を見て目を丸くした。どうやら石橋と玖珠が彼女を待っていたことが予想外だったらしい。

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