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「私を、助けてくれたんですっ石橋君!」

「おい! 何をやってるお前ら――!」


 その異様な空間を切り裂いたのは、階段を上がって廊下の端から現れた教師の声だった。英語を担当する石川先生だ。

 ここから最も遠くにいた玖珠がびくっと硬直し、即座に振り返って石川先生に向き直った。


「あー石川先生、あのですねこれは……」

「おいマジで何やってんだ!」


 玖珠が派手な身振り手振りで石川先生の視界を遮る。――なるほど、本当に頼りがいのある友人だ。

 石橋は急いで制服に武装していたあらゆる凶器を外し、すぐ隣の美術室に滑り込ませた。古びたキャンバスの隙間に隠したそれは、後で回収に来るまでしばらくは見つからないはずだ。

 このおかげで少なくとも、石橋の暴力への叱責が少しは軽くなるはずだ。


 大仰なリアクションで「ああー」と玖珠が声を出して頭を抱える。

 そんな玖珠を脇にどけ、ずかずかと石川先生がこちらに近づいてきて、表情を固まらせた。

 彼の視界には、ぼこぼこに殴られた河合と、そこに馬乗りになる石橋と、石橋の肩に手を置いて、まるで止めようとするような喜屋武の姿があった。


 ――学生生活終わったな、と石橋は思った。


 だが、これで良い。別に停学でも退学でも構わない。

 心の底からスッキリと晴れやかな気分だった。

 河合を殴り、暴力で支配して勝ったのだから。


 石川先生が何か言おう口を開いたとき、真っ先に喜屋武が叫んだ。


「わっ――私を、助けてくれたんですっ石橋君!」


 石橋は思わぬ言葉に驚いて喜屋武を見上げた。

 喜屋武はおどおどとした様子で、それでもハッキリとした口調で証言を始めた。


「河合君が私に、その……ええと……乱暴、しようとして。それで私パニックになって、非常ベルを鳴らしてしまったんです。で、偶然通りがかった石橋君が助けてくれて、河合君とその、喧嘩のようになってしまって……」


 喜屋武の言葉を聞きながら、石川先生は視線を巡らせた。


 今も何かに怯えるような口調の喜屋武は、よく見ればその端正な顔に唾が吐きかけられているし、ブラウスの胸元が乱れて、何とも痛々しい姿だった。

 石橋については授業でしかよく知らないが、物静かで落ち着いた生徒だと他の教師からも評判だ。それに彼の方もよく見ると、後頭部からの出血が伺える。首や頬にも切り傷があり、一方的な加害者とは言い切れないようだ。傍に転がっているナイフが、おそらく石橋の傷の元凶だろう。

 河合は成績こそ悪くはないが、派手で軽薄な態度が目立つ生徒だった。女子からの人気が高く交友関係も広いと聞くし、喜屋武のような美人を前にして間違いを犯そうとしたという可能性は確かに考えられた。


 そこまで考えた石川先生は――最後の決定打を見つけて思わず「ああ」と天井を仰いだ。

 石川先生と同じく天井を向く、河合の股間だ。


glowグロウしてやがる……」

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