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「――灯台下暗しってか」

 安斎が出ていった後、しばらく耳を澄ませていた。安斎が河合と会ったなら何か話す声がするはずだ。しかし声も足音もしない。先ほど美術室で安斎と話しているうちに、河合はもうどこかへ行ってしまったのだろうか。

 安斎もすでに立ち去ったようで、外からはなんの気配も音もしない。

 埒が明かない。石橋はそろりと美術室の扉を開けて顔を出し、廊下が無人なのを確認して外へ出た。


 瞬間、


 ――ジリリリリリ――!


 けたたましいベルの音が鳴り響いて、つい全身で跳ねて驚いてしまった。

 非常ベル? まさかこんなタイミングで、一体どういうことだ……?


 廊下の窓を開け外を見下ろすと、複数の生徒が慌てた様子で校舎外へ走り出ていくのが見える。

 まさか火事か? 少なくとも地震はなかったはずだ。それにしてはタイミングが良すぎるが――。


「――灯台下暗しってか。そこにいたのか、相変わらず小賢しくてかわいいな?」


 背後から、声。

 振り返った瞬間、渾身の力で腹を棒で殴られた。モップだ。よろめいてたたらを踏むと、髪を掴んで背後の壁に頭を叩きつけられた。


「ほら、俺って気が利くだろ? 久しぶりに可愛がってやるんだから、二人きりじゃないとお前に失礼だと思ってよ。適当に非常ベル鳴らしてきてやったんだ。これも立派な愛情ってやつだよ、磐眞」

「……ッそ……」

「ああ?」


 河合が口元に耳を近づけてくる。


「…………クッソ野郎……!」


 先程調達したばかりのジャックナイフを、やつの喉目掛けて突き出す。刺すつもりでそうしたはずの手首が、しかし呆気なく片手で捉えられてしまった。馬鹿力で握り潰さんばかりに、強く手首の骨ごと締めあげられる。


「あはっ、わざわざ落とし物返してくれたのか。お前ってホント健気だよな、泣かせるぜ。……ああ、その目。その、口角のゆがめ方。息の詰まり方……やっぱりお前は誰より可愛いな? 俺が頑張れば頑張るほど応えてくれようとするの、最高に両想いって感じがする……」


 言いながら河合は、握った石橋の手首を曲げようと力を加え始めた。まさか骨を折る気か───いや、違う! 

 自分の握ったナイフの切っ先が、ゆっくりとこちらに向けられるのを石橋は目で追った。手首の骨が折れそうに痛い。近づくナイフがやがて首に触れ、ついに血が滲む。

 また暴力だ。

 血だ。

 奴に傷つけられる。

 中学時代の記憶が蘇って、知れずと体が震えた。息が詰まる。

 まさか殺す気ではないと思いたいが、何をしでかすか分からない奴だ。このまま首を切られ、少なくとも半殺しには……。


「――おいッ河合君ッ!!」


 突如、飛び込んでくる女の声。その凛とした涼やかな音色の持ち主は一人しかいない。喜屋武だ。

 目だけを動かして見た廊下の端から、喜屋武が腕を振りかぶって何かを投げた。飛んできた石が河合の足に直撃し、河合が体勢を崩して石橋の手が解放される。本当にこの女、何というコントロール力だ……。

 喜屋武の傍には玖珠も立っていた。


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