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六月十日、早朝の光景

 部活動の朝練習に精を出す者、趣味の活動が学校の方が捗るという者、片時も水やりを忘れない園芸部の者、遅刻を許せず学級委員の仕事を全うする者――。

 早起きで早朝から校舎へ向かう生徒は少なくなかった。


 少なくともその、六月十日金曜日――昇降口をくぐり、五人の生徒が同じ靴箱を訪れた。



 一人目――。


「和田は使えねえな。ま、軽いジャブにはなっただろ。――これからが本番だぜ、石橋磐眞……」


 舌を打ちながらもどこか上機嫌に、河合雁也が靴箱に手紙を入れた。

 用意周到に練習しておいた、女子らしい丸文字で綴られた可愛らしい手紙だ。水色の少女趣味な封筒に入れてある。

 偽物のラブレターでからかわれ、学校内でいじめの的にされたと確信する石橋の顔を想像したら、河合はつい吹き出さずにはいられなかった。だから靴箱を閉じたとき、半開きになっていたことを自分でも気づかずに立ち去った。




 二人目――。


「ありゃ、石橋君が靴箱の扉を半開きにするなんて珍しい……」


 玖珠が昇降口で半開きになった石橋の靴箱を善意で閉じようと一度だけ開いたとき、中に一通の手紙が入っているのを見て眉をしかめた。

 石橋磐眞の靴箱に、わざわざ意味ありげな手紙が用意されているのを見て、様々な可能性が考えられたからだ。




 三人目――。


「もう、始まったんだ……。そりゃそうか、私が言い出したんだから……」


 次に靴箱を訪れたのは喜屋武だった。

 その靴箱に手紙が入れられているのを見て、自分が己斐西に提案した作戦がいきなり始まってしまったことに若干の驚愕を覚えながらも、急いでルーズリーフに呼び出しの旨を書き記し、綺麗に折りたたんで入れた。

 ただ、作戦はもう少し先だと思っていたから、己斐西と今すぐ打ち合わせをしなければならない。靴箱を丁寧に閉め、喜屋武は教室へと速足に向かった。



 四人目――。


「はあ!? こんないきなり!? あんた馬鹿じゃないの、せめて事前に声かけろよ全くもう……!」


 喜屋武が事前相談もなくいきなり「石橋の靴箱に手紙を入れてきた」とのたまうものだから、己斐西は急いで教卓から無地の印刷用紙を引き抜いて、即席の封筒をスティックのりで作った。

 靴箱に入っていた埃か何かを見違えたらしい喜屋武が「でも石橋の靴箱にはすでに手紙が……」ともごもご言うのを無視し、「この節穴弓道部!」と捨て台詞を残して教室を飛び出し、右左にと無人を確認して勢いよく石橋の靴箱に手紙を突っ込んだ。

 そのあまりにスピーディーな対応のために、ルーズリーフの下にもう一通の封筒があることに己斐西は気づかなかった。




 五人目――。


「あらまあ……」


 中庭の花壇から、見知ったクラスメイトが四人も昇降口の方へ向かうのを見た安斎は、四人目の姿が消えて少したってから靴箱を確認しに向かった。

 迷わず石橋の靴箱を開いてみると、中に三通もの手紙が入れられていた。誰がどういった要件でそれを入れたのかはおおかた想像がつく。

 躊躇なく中身を全て確認し、誰がどの手紙を入れたのかを再確認した。

 ――自分もこのタイミングに乗らない手はないだろう。

 しかし、靴箱に一気に四通は芸がない。

 PC室で彼を呼び出す旨を記載した紙を印刷し、明朝体の素っ気なさをカバーするようにハート形に折りたたんで、石橋本人の机の中に忍び込ませた。


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