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「待って。あたしは、あたし本当は……」

 玖珠はというと、さすがに少し居心地悪そうに視線をさまよわせていた。それはそうだろう……。


「あのさ、玖珠さん」

「何?」

「やっぱり君、気づいてたんじゃない? 喜屋武さんの気持ち」


 さまよい落ち着かない視線がぴたりと一点に止まった。正確に言えばフリーズして、ひどくぎこちない動きで玖珠は顔を上げる。

 

「…………はっ? はァ!? いやいやいや石橋君さすがにそれはない、ほんと知らなかったんだって。マジ。だって想像できる? クラスのマドンナ、窓辺の白百合、かの麗しのアーチャーが、どーしてあたしみたいな根暗メガネを」

「ちょっと見てほしいものがあるんだけど」


 言いながらスマホのカメラロールを開き、身を乗り出して玖珠に画面を見せた。一年生の頃に見つけた光景――玖珠の制服を大切そうに抱える喜屋武の姿を映した一枚だ。


「これは君ので間違いないよね?」

「うわッ! これはこれは……。この右袖の安全ピン、ほつれを縫い留めるのが面倒でしばらく着けたままだったんだ。ああ、間違いない。ここで喜屋武さん専用のカギたばこになってんのは、あたしの衣類で間違いない……」


 青ざめながら興奮するのは玖珠の通常運転の証拠だが、やはり初めて知ったというにはわざとらしい反応だった。

 ……昨日は散々、喜屋武が自分に惚れていることを意外がって見せていたのだから、当然の反応だ。


 石橋は一つ息を吐いてスマホを消灯する。


「……ごめん、別にどっちでも良かったんだ。玖珠さんが自覚していようがいまいが。とにかく君、今日は何かしらでっち上げて早退した方が良いよ。喜屋武さんが玖珠さんに熱を上げていて僕に嫉妬しているなら、明らかに今日の玖珠さんは邪魔だし危ない。弓の乙女が逆上のあまり、戦乙女になりかねない。彼女が用があるのは明らかに、この間男ただ一人なんだから。――今日は僕一人でお話合いをするから、玖珠さんは帰ってよ」


 石橋が立ち上がると玖珠は明らかに動揺した。まさに気まずい嘘がバレたと言わんばかりの顔だった。

 やはりそうか、と石橋は思った。

 玖珠は嘘が――嘘の中に本当の話を少し混ぜて、自分の本意を隠すのがかなり上手いようだ。


「いや……石橋君、待って。あたしは、あたし本当は……」

「本当は君がどうして僕に近づいたのかとか、もう今となってはどうでもいいさ。これでも僕は君にとても感謝してるんだぜ。玖珠さんが話を聞いてくれたから、自分でも少しずつだけど、まともな方法で生きようって思えてるんだ。一方的で卑怯な脅迫を抜きにして、昨日はちゃんと己斐西さんとお話できたのも、全部玖珠さんのおかげだと思ってる」


 思えば一年生の頃からすでにおかしかったのだ。

 風変りで一見ボーイッシュにも見える快活な玖珠璃瑠葉だが、平均よりも整った顔をしていて、気さくな性格は多くの人に好かれた。

 そんな人物が、孤立を死守する根暗な男子ただ一人に固執する理由など、利害関係抜きに考えられるわけがない。


 玖珠が石橋に近寄った理由はただ一つ。自分に執着する面倒な喜屋武の矛先を、石橋になすりつけたかったからに他ならないのだろう。


 石橋磐眞は四通のラブレターを同日に貰っても、少しも浮かれなかった男だ。だから今度も少しも浮かれていなかったし、ましてや親友ができたなどと、本気で思っていたわけではない。

 ……玖珠璃瑠葉はたくさんの助言をくれた恩人、ただそれだけだ。決して友人などと誤解してはならない。


「だからこれで貸し借りなし。僕が喜屋武さんとお話をするから、君は大人しくしてて。そうすりゃ僕も恩返しできて、お互い後腐れないだろ」


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