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悪魔に堕ちるまで  作者: 黒蟻
2/2

誕生

 長い夢を見ていた。

 目の前には燃え盛る館。そこに向かって歩き始める自身の姿。やけに現実味のある夢だった。

「ーーーーーーー」

 先程から聞きなれない言葉が聞こえてくる。この世の物とは思えない程に不気味さを宿す言葉だった。

「あぁ、これなら伝わるか」

 どうやら目の前にいる人影が話しているようだった。

「随分と長い間眠っていたじゃないか、もう頭は冴えたかい?」

「・・・・・・」

 夢に見た光景以外は何も思い出せない。今までどこにいたのか、自分の名前すらも。

「まだ混乱しているようだな。どれ、少し私と話をしよう」

 人影はこちらに話し続ける。

「お前は仲間達と共にある島に向かった。そこで次々に仲間達が死んでいく。そして最後には島ごと燃えてしまうんだ。お前も島で焼け死んでしまったんだよ。あぁ、1人生き残ったやつがいたか、なんという名だったか・・・」

「・・・あかり」

 不意に口から言葉が漏れる。そう、あかりだけが島から抜け出せた。

「少し思い出してきたか?では、お前の名は?」

「・・・かずや」

 段々と記憶が蘇ってくる。島であった出来事についても。

「俺はみんなを・・・」

「みんなを、どうしたんだ?」

 一呼吸置いてから答える。

「みんな、殺したんだ」

 自分の犯した罪も思い出す。仲間達と島に向かった日、俺はあかりを助けるために、他の全員を殺して館に火を放った。

「良かったら聞かせてもらえるか?なぜ、そんなことをしたのか」


 あかりは、生まれつき目が見えなかったらしい。そのせいか小さい頃からあまり人間関係が上手くいかなかったと話していた。高校生になり俺があかりに声をかけるまで、友達ができたことがなく、暗い学校生活を送っていたと。最初は俺とあかりだけの時間だったが、みおが仲良くなり、次いでりょうたとまやかもつるむようになった。

 そんな中、あかりはいじめを受けるようになった。主犯はみおでりょうたとまやかはそれに加担していた。あかりが盲目であることを良いことに驚かせたり、知らない土地に一人置き去りにしたりと行き過ぎた悪戯をしていた。俺は何度もみおに抗議したが、結局何も変わらなかった。今回の旅行もそうだ。島で次々と自分達が死んでいくと思わせ、最後にみんなで種明かしをする。そんな計画を話してきた。このままではまたあかりを傷つける。あかりを守るために俺は皆を殺すことを決意した。


「ほう、そんな事があったのか。それで、その計画というのは?話してくれ」


 みおの計画はこうだった。まず、部屋で俺が血を抜かれて死んでいるとあかりに伝える。あかりは目が見えず、ばか正直だから周りの反応から俺が死んでいると信じるだろうと。次にりょうたが木に吊るされてナイフで滅多刺しにされる。これもあかりは信じてしまう。そして最後にまやかが悲鳴を上げ、状況を見に行くとみおがあかりから離れる。1人になったあかりにみんなでこっそり近づき、驚かせる。盲目という、あかりのハンデを突いた計画。俺はどうしてもそれが許せなかった。


「計画したみおもそうだが、それに乗り気だったりょうたとまやかも許せなかった。だから計画の通りに殺してやったんだ」

 なるほどと目の前の人影は頷いているように見える。

「ところで・・・その後、あかりという子がどうなったのか気にならないか?」

「・・・え?」

 突然話が切り替わる。あかりがどうなったのか・・・みお達が居なくなり、幸せな日々を過ごしているに違いない。

「お前に客人が来ているよ」

 目の前にもう一つ人影が生まれる。その人影はどんどん清明となり、やがてとある人物の形を成した。

「あかり?」

 それは見間違うはずもない、あかりの姿だった。

「かずや、どうして?どうしてみんな殺したの?」

「お前、みお達にいじめられていただろ?それがどうしても許せなくて、お前を助けるためにみんなを殺したんだ。あいつらが死んで清々するだろ?」

「私、みおもりょうたもまやかも大好きだったんだよ。いじめられてなんていない。みんな私に優しかったんだよ」

「え・・・?」

「島での出来事の後、とても辛かった。みんながいない世界なんて意味あるのかなって。皆がそばに居てくれるだけで良かったのに。それだけで私は幸せだった」

 思いがけない言葉だった。あかりはみお達といることが苦痛なんだと信じて疑わなかったが、あかりの口から発せられる真実に絶句する。

「私達、もっとちゃんと話すべきだったのかな。そうしたらもっと違う結末になってたのかな」

 あかりがうつむきながら消え入りそうな声で言う。

「そんな・・・じゃあ俺がした事は・・・」

 俺がした事はあかりを逆に苦しめてしまった。一人にした挙句、こんなところにまで呼び寄せて・・・。

 ふとそこで思考が止まる。

「あかり、なんでお前はここにいるんだ?」

 人影が言った「お前も島で焼け死んでしまった」と。だとすればここは死後の世界ということだろうか。だとしたら今目の前にあかりがいるのは・・・。

「お前・・・あの後死んだのか?」

 恐る恐る尋ねる。返答に予想はつくが、信じたくはなかった。

「うん。みんながいない世界に生きていても仕方がないから」

 俺は泣き叫んだ。目の前にあかりがいることも忘れ、子供のように泣いた。そうしていると今まで黙っていた人影が声を発する。

「さて、そろそろお別れの時間だ」

 目の前のあかりにもやがかかり、やがてその姿を消してしまう。俺はただ見ていることしか出来なかった。また、俺と人影の二人の空間となる。先に言葉を発したのは人影の方だった。

「さて、お前は選ばなければならない。このまま絶望に満ちたまま地獄に落ちるか、それとも」

 人影はこちらに黒い布を投げる。

「私と共に来るか」

「・・・あんたと一緒に行けば何があるって言うんだ」

「世界を悲劇に落としてやるのさ。許せないだろう?自分ばかりが絶望し、他の人間達が幸せに生きているのが。それを壊しに行くのさ」

「・・・」

 自分の中で何かが吹っ切れた気がした。俺が何をしたというのか。なぜ自分だけがこんな思いをしているのか。俺は先程投げられた黒い布を手に取る。完全に体が隠れるほどの黒いローブだった。それを身に纏う。

「あんた、名前は?」

「私に名など無い。人間の言葉で言えばそうだな・・・悪魔とでも名乗っておこうか」

「そうか。では悪魔、まずは何をすればいい」

「今から100年程前、奴隷として育てられている少女がいる。まずはその子を絶望に落としてやろうじゃないか」

「過去にまで手を出せるのか。なら・・・過去から未来、世界中を悲劇に陥れてやる。それまではこのローブを脱ぐことは無い」


 黒いローブの男が悲劇を呼ぶ。いつからか、そんな噂が世界中に広まった。

ありがとうございました。

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