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Episode002 勇者にフラれた&追放された最強少女との出会い

俺は躊躇しながらもう一度扉を開ける。

広い温泉の中には、水面から目までしか出していない何者かがいた。

そのまま『鑑定』を使うと、やっぱり風呂に入っていたのは女性だ。

タオルを巻いているかどうかは分からんが、『鑑定』曰く、温泉の中に布がある判定にはなってるし。

……まあ、ここは混浴なんだから、しょうがないってことでいいだろう。


「……あの、入っていいですか?」


恐る恐る訊いた俺に、女性――17歳くらいの少女だと思う――は、無言で頷いたような動作を見せたが、……頷いたんだよな?

了承を得たはずの俺は、風呂場に入り、シャワーの方へ行く。

この世界のシャワーは、シャワーヘッドの中に水を呼び出す魔法の魔法陣が書かれている石が入っていて、そこの周辺で温度管理をしているんだそうだ。

意外なところで前世もとい日本にあったラノベに出てきた仕組みに似ているヤツが出てきて感動したが、俺みたいに日本から転生した誰かが提案したんじゃ……。

そんなことはさておき、俺は『鑑定』で温泉の水質や効果を確認する。

どうやら相当な美肌効果や……運勢上昇?……みたいな効果があった。

そりゃあこの宿の温泉がオススメされるのも分かる。

それよりも……。


「……さっきからどうかしましたか……?」


後ろの温泉で入っている少女が、ずっと俺を見つめているんだが。

そんなに見つめられると、気になって落ち着いて風呂を楽しめない。

まあ、本人に悪気はないんだろうけど……。

ただ、悩みがあるような表情に見えるのは気のせいなのか?

俺は前世から人の不安には敏感だったし、今回もそんなところだろう。


「……何か悩んでるなら聞きますよ?」

「……いえ、その金色の髪、もっと長かったらあのお方みたいだな、と……」


水面から顔を出し、落ち着いた少し低い声で少女はそう答えた。

……今みたいな時にこういうことを考えるのは場違いだとは思うんだけど、この娘って笑ってるときの顔はきっと可愛いんだろうな。

その顔は今は曇っているが、笑顔の似合いそうな顔である。

……俺が笑わせてあげられたらいいんだけど、どの辺まで協力できることやら。


「その、『あのお方』っていうのは?」

「……あまり人に言わないでほしいのですが、……勇者テルネモ様です」


その名前には、この世界に来て一週間の俺でも聞き覚えがあった。

つい半月くらい前に王都から出発したって聞いた勇者パーティーの勇者だ。

性格とかその辺までは知らんが、金色っぽいブロンズの髪をロングヘアーにしていたヤツだったか。

ロングヘアーにしているとは言っても、ソイツはちゃんと男だが。

確かに、髪色だけ見れば似ていないワケではないのかもしれない。


「……実は、私はテルネモ様の右手として、昨日までは勇者パーティーにいました」

「……え?」


唐突なその一言は、ちょっとした中二病を疑わせる要素を含んでいた。

この、笑ったら可愛いであろう元気のない少女が、勇者の右手?

俺だって少女の言うことを信じていないんじゃないが、勇者テルネモは明るい人が好きだと言って、パーティーメンバーも明るい人しか入れなかったって聞いたが……。

というか、『昨日まで』ってことは、今はもう勇者パーティーにいないってこと?


「自己紹介が遅れていましたね……。私は、ユイナ・リファインです。『火炎突貫の(フレイムラッシュ)ユイナ』って、聞いたことあるでしょうか?」

「『火炎突貫の(フレイムラッシュ)ユイナ』って……ハッ! すすす、すいませんでしたあああ!」


流石に俺でも、この人は勇者パーティーのメンバーの中で唯一聞き覚えがあった。

『自分が大好きになったことは曲げない』をモットーにしていて、多彩な火炎魔法を剣に付与して突貫してくるという戦法で有名な人だ……。

どうしてそんな人に上半身を易々と晒せていたんだか分からなくなってくる。

そんな俺を拒絶しないお隣様も大概だとは思うが。

というか、気落ちしているにしても、男の裸の上半身を前にして、よく恥ずかしがらずにいられるなと今更ながら少し驚かされる。

しかもこの人、王都のギルドで3日前に行われた『勇者パーティーのメンバーでお嫁さんにしたいのは?』というよく分からんアンケートで、他の人を置き去りにしてダントツ1位の人気で、その理由の多くが『明るくて笑顔が可愛い』だったが、それならどうしてこんなにも落ち込んでいるんだ?


「いえ、こうやって私の愚痴を聞いてもらっていますので、別に構いませんよ。……それに、今の私は、誰かに襲われたくて混浴に入っているんです」

「……ちょっと何言ってるか分からないです。説明してください」


コレは食い止めないとマズい事態なんじゃないか?

勇者の仲間だった人が自ら貞操を失おうとしているとか、あんまりよろしくない。

それに、俺も首を突っ込んだ以上、話が落ち着くまで俺も付き合わなきゃだろうし。


「……私は、テルネモ様に告白をしました。私は、あのお方の役に立ちたかったんです。ですが、テルネモ様は、『嫌いじゃないけど、恋愛対象としてはちょっとねえ……』と仰い、私との交際を望みませんでした」

「なっ……。それってあんまりじゃないですか! あなたはそれでいいん……」

「あなたは、私の愚痴を聞いてくれていますので、これからはタメ口でいいですよ。私のことも、気軽に呼んでください。……テルネモ様は、恋愛に(うつつ)を抜かしているヤツに世界を託す国王が怖いと、私をパーティーから追放しました」


……どうしてそんなことで右手を追い出しちゃうんだか。

テルネモは純粋に、使命に呪縛を掛けられたただのバカなんじゃないかと思う。

ユイナさん……ユイナだって、もっと役に立ちたいって想いがあったってのに。


「だから私は、少しでもあのお方がこの決断を悔やまれるように、混浴で男の冒険者に襲われるのを待っていたんですが……。まさか、それで同じくらいの年の男の子に私の愚痴を聞いてもらうことになってしまうなんて、私は……私は……」


そこまで言うと、ユイナは泣き出した。

俺って、今まで誰かを好きになったことはなかったから、目の前で少しでも好感のある女の子が泣き出したらどうしていいのか知らないんだよなあ……。

いや、ユイナだって、今回の一件が解決した後でいつもの明るくて可愛いユイナに戻ってくれるんなら、一緒にいるのもやぶさかでないのだが……。

そもそもこの時点で、俺が責任を持って一緒にパーティーを組むべきなのか?

そんなことより、今はユイナを少しでも楽にさせるのが最優先だ。

とりあえず、泣き止ますには俺の本音でもぶちまけてみるしかないか……。


「初対面でこういうこと言うのってあんまり良くないとは思うんだけどさ、……俺、キミは笑顔だったら可愛いと思うぞ」


――だが、この時の俺はまだ知らない。

俺の今の一言が、この物語の最初の一歩であり、この先のことの唯一の原因なのだということを。


次回 Episode003 最強美少女とのざまあ作戦パート1

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