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偽物の愛はもういらない~傷心令嬢を救ったのは、誠実な愛で勝負する伯爵令息でした~  作者: 完菜


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043 学園生活

 本格的にイーストリー学園に通い出したリリーは、とても忙しくなった。ダニエルの専属侍女として働いていた時も忙しかったが、もっと時間に余裕があった。

 朝早くから学園に登校して、一日を講義で終える。帰って来てからも、夕食やお風呂の時間以外は殆どを学習の時間に当てていた。

 屋敷に帰ってからも復習や宿題に追われて、毎日の時間が足りないと思うくらいだった。


 学園では、クラスという概念がないので積極的に関わっていかないと友人などを作ることができない。リリーは、外聞を広げる為にも同じ授業を取っている人に声をかけた。

 この学園に通う生徒は、みんな何かしらの志を持って学びに来ているので学びに対して貪欲だった。


 医学は、リリーよりも詳しい人が沢山いた。元々、治療院などで働いていた人がもっと知識を身に着けたいという理由から学園に通っている人もいる。そんな人と話をするととても勉強になる。


 医学には、薬学・衛生学・治療学・病理学など様々な分野に別れている。リリーは、片っ端から教科を選択したのだが正直本当に難しい。

 医学の他にも、貴族令嬢の所作やマナー、食事管理なども選択したがそちらの方がまだ自分の知識で何とかなる。

 医学は、一から覚えることが多くて毎日必死だった。


 学園に通い出して一カ月くらい経った頃だろうか、リリーと同じくらいの年齢の女性と仲良くなった。

 名前をシンシアと言い、平民で普段は診療所で看護師として働いている。もっと病気や治療方法を学びたいと、この学園にやってきていた。

 シンシアも医学の授業ばかり取っていたので、リリーと一緒になることが多い。二人とも熱心に授業を聞くので、席も一番前に座っていた。

 だから、自然と顔見知りになりリリーが勇気を出して声をかけたのだ。


 シンシアもリリーとお近づきになりたいと思っていたらしいのだが……。貴族だと自分なんかが声をかけて良いか躊躇していたらしい。

 今では、休憩時間を共にしたりお昼を一緒に食べる仲になっている。


 ある日のお昼時に、シンシアに唐突に訊ねられる。


「あのさっ。ちょっと聞いて見たかったんだけど、リリーって結婚してないの? 貴族の令嬢って結婚早いって聞くんだけど。子供の頃から婚約者がいたりするんでしょ?」


 シンシアが興味津々と言った感じで目をキラキラさせている。


「えっと……。どうしたの?急に」


 今までシンシアとの会話と言えば、授業の話や彼女の仕事の話ばかりだったのに……。あまり得意ではない話を振られて戸惑う。


「聞いたら駄目だった? 実は、ずっと聞いてみたかったんだけど……。中々勇気が出なくて。だってやっぱり、貴族様の恋愛って興味あるよー。王子様とダンス踊ったりするの?」


 あまりシンシアは、若い子特有の浮ついた感じがなかったのでそう言う話に興味があると思わなかったのでちょっと驚く。


「シンシアでもそう言う話、興味あるんだ」


 リリーは、思ったことをそのまま聞いてしまった。ちょっと失礼だったかもと言った後に後悔したが……。


「あっ、何ー。私だって人並みに興味あるよ。しかも直接貴族様に聞けるチャンスなんてそうないもん。私、イーストリー学園って身分関係なく色々な人がいるって知っていたけど、自分が貴族様と仲良くなれるなんて思ってなかったもん。地元の友達に話したら、すっごく羨ましがられたんだー」


 シンシアは、言われた友達を思い出しているのか得意気にしている。元々リリーは、余り身分の差を気にしたことがない。

 フローレス家の領地でも、領民と気軽に話したりしていたのだ。貴族として自分は恵まれた人間だと思ってはいたが、特別だと思ったことはない。


「そうなのか……。私、特に身分を気にしたことはなかったな……」


 リリーは、正直な自分の気持ちを伝える。


「うん。見るからに貴族だよね? って人たちとは全然違う。リリーは、話しかけやすそうだった。でも、やっぱり私から話しかけるのはハードル高かったから、リリーが声掛けてくれて嬉しかったけど」


 シンシアは、本当に嬉しそうだ。


「でっ、どうなの? 王子様とダンスするの?」


 残念ながら、シンシアが話を元に戻す。リリーとしては、上手く話を逸らしたと思ったのだが……。


「残念ながら私はしていません。私なんかよりも高位の貴族令嬢や、綺麗な方なら声を掛けられることもあるだろうけどね……。私は、田舎者だし可愛くもないから……」


 リリーは、自分で言っていて悲しくなってくる。


「えー。そうなの? 私から見たら、充分可愛いけど。それに、何だろ? リリーって優しいから、隣にいると居心地がいいのに……」


 シンシアは、納得がいかないようでむすっとしている。


「シンシアが怒ってもしょうがないじゃない。でも、そーだね、確かに一緒にいると癒されるっていうのは言われたかも」


 リリーが、昔よく言われたことを思いだす。今自分は昔だと思ったが、まだ一年前にも満たない。あの空間から出られるなんて想像もしていなかったのに、今はとても不思議な気分だ。


「ほらっ、やっぱり。そう言うの聞きたい!」


 シンシアが、目を輝かせて続きを欲している。


「もー、なんで私ばっかりなの? シンシアだって、恋人とかいないの? 患者さんに告白されたりとか?」


 今度は、リリーが逆に聞いてみる。看護師だってモテるのではないかと思ったのだ。


「ん-。好きな人はいるんだけど……。恋人はいません」


 シンシアが、照れたように頬を赤くする。


「好きな人いるんだ。いいね」


 リリーは、シンシアが素直に好きな人がいるというその姿勢をとても微笑ましいと思った。自分はどうなのか? と考えていたらシンシアに聞かれる。


「リリーは? 好きな人いないの?」


 リリーは、聞かれて頭に浮かんだ人がいる。自分でも驚くくらい自然と浮かんだ。でも、また自分が恋をしていいのかわからないのだ。

 好意を向けてもらっているのもわかっている。その気持ちから目を逸らして、甘えている部分もある。言い訳ばかりが頭に浮かぶ。でも一番は、自分にはそんな資格なんてないんじゃないかと思ってしまう。


「リリーもいるの?」


 シンシアが、窺うような顔をしている。


「私ね、自分が恋をしてもいいのかわからないの」


 リリーは、ポツリと本音を溢した。



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