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偽物の愛はもういらない~傷心令嬢を救ったのは、誠実な愛で勝負する伯爵令息でした~  作者: 完菜


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028 ダニエルの両親襲来

 リリーは、余りに突然のことで咄嗟に言葉が出てこない。


「だっ旦那様っ、お帰りなさいませ」


 カティも突然の襲来に、一瞬動きが止まっていたがすぐに頭を下げて声を出した。横で雑巾を手に止まっていたリリーは、カティの言葉にさらに驚く。


(この方は、ダニエル様なのお父様ってこと?!)


「リリーと申します。今日から、このお屋敷でお世話になることになりました。宜しくお願い致します」


 リリーも、姿勢を正し頭を深く下げて挨拶をした。


「ん? ダニエルの恩人がなぜ、使用人のようなことをしているんだ? あいつ、なんて薄情な奴なんだ!」


 何やら、大変な誤解をしているようでマーティン伯爵が怒っている。リリーは、誤解を解かなくてはと動転する。


「ちっ、違うんです!」


 リリーが、誤解を解こうと説明しようとすると――――。


「もう、あなたったらブルーノに居場所を聞くなり走って行ってしまうんですもの。置いていくなんて酷いわ」


 今度は、マーティン伯爵の後ろからとても気品のある婦人が姿を現す。


「あー、すまない。ダニエルの女性のお客様なんて初めてのことだから。つい」


 マーティン伯爵は、手を頭に当てて夫人に謝罪している。リリーは、もう何が何だかわからなくて呆気に取られていた。

 なぜ、ダニエルのご両親が帰って来て早々自分に会いに来るのだろう……。挨拶をすることになると聞いてはいたが、心の準備も何もあったもんじゃない。


「もう、お嬢さんも驚いているじゃない。ごめんなさいね、家の人が突然」


 マーティン夫人は、扇子を開いて口元に持っていき微笑んでいる。雰囲気は、優し気なはずなのにリリーを見る目が笑っていない。しっかり、人となりを見られている気がした。


「いっ、いえ。リリーと申します。今日からお世話になっています」


 リリーは、もう一度マーティン夫人に向かって頭を下げる。


「あら? どうして、お掃除なんてしているのかしら?」


 マーティン夫人も、ダニエルの恩人が使用人として働いていると思っていなかったようで不思議な顔をしている。

 リリーは、自分がお願いしたことなのだから説明しなければと思えば思う程どんどん緊張してくる。


「あっ、あのっ。私が、ダニエル様にお願いしたんです」


 リリーが、やっとそう言ったところにダニエルが駆けつけて来た。


「父さんも母さんも、いきなりリリーのところに来なくてもいいだろ! ちゃんと俺の説明を聞いてからにしてくれよ!」


 ダニエルが、杖を付きながら息を切らせていた。ブルーノに聞いて、急いで来てくれたのがわかる。


「だって、お前が女性を家に上げるなんて初めてじゃないか。どんな女性か気になったんだよ。しかし、なぜ使用人なんだ? お前もしかして……そういうのが好きなのか?」


 マーティン伯爵は、軽蔑の眼差しをダニエルに向けている。マーティン夫人も、「まっ、困った子ね」と呆れた顔をする。


「ばっ。ちがっ。そんな訳ないだろうが! リリーが、変な誤解したらどうするんだ! リリーが、働かせてくれって頼まれたから仕方なくそうなったんだ!」


 ダニエルは、両親に向かって声を張って主張した。両親は、顔を見合わせて意味が分からないといった顔だった。


「ちょっと、とにかく説明するからこっちに来て」


 ダニエルは、杖を付きながらも両親二人を居間から押し出してリリーとカティの前から退出する。突然、二人きりになったことで部屋の中はシーンと静まりかえる。


「何か、嵐みたいだったね……」


 カティが、ポツリと呟く。


「うっうん……。ダニエル様のご両親って楽しい方なのね……」


 リリーも、思わず本音が漏れる。


「ふふふっ、おっかしー」


 カティが、笑いを抑え切れずにお腹を抱えて笑い出す。


「もうっ、カティったら笑ったら失礼なのに……。ふふふ」


 リリーも、カティにつられて笑いが零れてしまう。暫く、居間の中は二人の笑いに包まれる。二人が落ち着きを取り戻すと、カティは涙を拭って仕事に戻る。


「脱線しちゃったから、取り戻さないと不味いかも!」


 カティは、先ほどの続きをスピードアップする。リリーも、頷いて顔に力を入れて気持ちを切り替える。

 きっと、後でまたご挨拶するだろうから、その時はもっときちんとした態度で挑まなくてはと頭の片隅で考えていた。


 応接室の仕事を終えた二人は、午後の休憩となった。使用人の休憩室があり、二人はお茶淹れてお菓子を頬張っていた。

 ここにあるものは、好きに食べたり飲んだりしてもいいのだそう。使用人用のおやつにしてはとても美味しくて、ついつい食べ過ぎてしまう。


 そこに、ブルーノが姿を現す。


「ああ、リリーここにいましたか。旦那様と奥様、それにダニエル様が呼んでいるのでちょっといいですか?」


 リリーは、思っていたよりも早い呼び出しにちょっと戸惑う。


「はっ、はい」


 急いで、口に入っていたお菓子をお茶で流し込む。そして、ブルーノについて応接室に向かった。

 リリーは、廊下を歩きながら段々と緊張感が増してくる。この屋敷の旦那様と奥様に認められなければ、ここで働くことはできない。しっかりしなくてはと気合を入れる。


 ブルーノが、応接室の扉をノックしドアを開ける。リリーが、応接室の中に入ると三人が其々ソファーに座って寛いでいた。


「ああリリー、休憩中にすまないね」


 ダニエルが、すぐに声を掛けてくれて自分の隣に座るように促してくれる。リリーは、使用人が屋敷の主人と同じソファーに座るのは気が引けたのだが、断れる雰囲気ではなかった。


「失礼します」


 リリーは、断りを入れてソファーに掛ける。


「さっきはすまなかったね。ダニエルから話は聞いたよ。リリー、改めてお礼を言わせて欲しい。ダニエルを助けてくれて本当にありがとう」


 マーティン伯爵が、さっきとは打って変わって落ち着いた口調でリリーに向かってお礼を述べた。リリーは、マーティン伯爵に頭を下げて貰うような階級の人間ではないのでとても恐縮する。


「いえ、私はそんな大したことはしていません。それにこちらこそ、こんな風に図々しく押しかけてしまい申し訳ありません……」


 リリーは、こんな風に大切なお客様のようにもてなされて居心地が悪い。


「頭を上げて。あなたが、謝ることなんて何もないのよ。それに、あなたみたいな華奢な方が、ダニエルを抱えて歩いてくれたのでしょう? 大したことよ。本当にありがとう」


 マーティン夫人も、リリーに対して淑女然とした態度で接する。ダニエルが時折溢すのと同じ優しい顔でリリーを見る。

 きっとダニエルは、奥様に似ているのだろうとリリーは頭の中で考えていた。


「いえっ。本当に……たまたま見つけただけなんです……」


 リリーは、流石ダニエルのご両親だと感動していた。身分に関係なく、きちんと人として接してお礼を述べてくれた。当たり前のようで、それができる貴族は少ないのだ。


「それで、我が屋敷で使用人として働きたいのだって? 本当にいいのかい? 私としては、ダニエルのおよ……」


「ゴホンッ。父上!」


 突然、マーティン伯爵の言葉をダニエルが遮る。リリーは、どうしたのだろう? とダニエルの顔を見る。なにやらちょっと怒った顔で、自分の父親を見ている。


「まあまあ。それは、おいおいね。ところで、リリー。あなたの身内で、呼びたい人がいるなら遠慮なくこの国に呼びなさい。それくらいの面倒は、みられますからね」


 マーティン夫人は、ニコリと微笑む。ダニエルが、リリーの境遇をどこまで話したのかわからない。だけれど、とてもありがたい話だった。

 リリーの身内をこの国に呼ぶ……。そんなこと考えたこともなかった。アレンと、また一緒に暮らすことを夢見てもいいのだろうか……。

 もちろん、リリーと暮らすと言うことは貴族としての生活はさせてやれない。それでもいいとアレンが言ってくれるのなら……。


「ありがとうございます。まずは、自分がこちらの生活に慣れたいと思います」


 リリーは、はっきりとそう言い切る。この先、まだどうすればいいのかはっきりとした指針がない。

 だけど、マーティン夫人が言ってくれたことでリリーのこの先の未来が薄っすらと見えた気がする。

 バーバラに言われて、ダニエルを頼って来たけれど本当に正解だった。バーバラに、心の中で何度も「ありがとう」とお礼を言った。


いつも「いいね」嬉しいです。

ありがとうございます。

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