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偽物の愛はもういらない~傷心令嬢を救ったのは、誠実な愛で勝負する伯爵令息でした~  作者: 完菜


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026 ダニエルとの夕食

 リリーは、カティに案内してもらって一階の食堂に辿り着く。リリーが、用意してもらった部屋からかなり離れている。普段は、マーティン家の人々が家族で食事をとる場所だ。

 今日は、ダニエル以外の家族は出払っていていないのだそう。


 扉をノックして中に入ると、ダニエルがすでにいて椅子に腰かけていた。


「お待たせして、申し訳ありません」


 リリーは、髪を整えていたりして遅くなってしまったのではと焦ってしまう。


「いや、俺も今来たところだから大丈夫だ。リリーも座って」


 ダニエルにそう言われて、リリーは彼の向かい側に座った。テーブルには既にカトラリーが準備されている。リリーは、こんなに本格的な貴族の夕飯は本当に久しぶりだ。

 森の家に行ってからは、こんな風に夕食を食べたことがなかった。


 久しぶりの感覚に、自分がきちんとテーブルマナーを覚えているのか心配になる。リリーは段々と緊張してきてしまい顔が強張る。


「そんなに緊張しなくて大丈夫だから。マナーも気にせずに食べて」


 ダニエルが、リリーの緊張を感じ取って気を遣ってくれる。しかし元々は令嬢だったのだ、できるだけ綺麗に食べたい。

 リリーが席に着くと、ダニエルが執事に指示を出して料理が運ばれ始める。


 筒の長いグラスにシャンパンが継がれた。リリーは、お酒を飲むのも久しぶりでドキドキしてしまう。ダニエルがグラスを取ったので、リリーも同じようにそれを手に取る。


「それではリリー、我が家へようこそ。乾杯」


 ダニエルが、グラスを掲げたのでリリーもそれに倣って同じ動作をした。そして、一口だけ口にする。

 久しぶりのアルコールが喉を通って熱を帯びる。お酒ってこんな感じだったと、リリーは久ぶりの感覚に酔いしれた。


「リリーは、お酒は飲めるのかな?」


 ダニエルが、おっかなびっくりちょっとずつ飲んでいるリリーを見て訊ねた。


「社交界にデビューした年は、嗜む程度に飲んでいましたけど最近は全くでした。本当に久しぶりです」


 リリーは、ダニエルがバーバラから自分が貴族令嬢だったことは聞いているはずだと正直に話す。久しぶりに飲んだからかすぐに顔が火照る。きっと赤くなっているだろう。


「そうか。じゃあ、あまり飲ませない方がいいね。料理を色々用意させたから、沢山食べて」


 ダニエルは、リリーを見てにっこり笑顔を溢す。どんどんテーブルには料理が運ばれていて目を見張る。こんなに食べられるかしら……。


「凄く美味しそうです」


 リリーは、沢山の料理を前にどれから食べようか目移りしてしまう。


「どんどん食べて」


 ダニエルは、ナイフとフォークに手を伸ばして分厚いお肉を切り分けている。切り分けたお肉を口に入れてとても美味しそうだ。

 リリーも同じ物が食べたくなって、ナイフとフォークを手にした。


 すると、心配していたのが不思議なくらい自然に手が動く。平民のような暮らしをしていても、貴族令嬢として暮らしていた期間は消えない。

 自分の中で染みついているのだなと嬉しさが込み上げる。


 お肉を一口口に入れて噛むと、ギュっと肉汁が口の中に広がる。ひたすら美味しい。こんなに美味しいお肉って初めてかもしれない。

 緊張していたのが嘘みたいに、顔が笑顔になって手が進む。


「美味しそうで、良かった」


 ダニエルが、リリーを見て微笑んでいる。リリーは、夢中になって食べているのを見られて恥ずかしい。マナーは、問題なくても表情は繕えていなかった。

 アレンと暮らすようになって、貴族的などんな時でも顔に出さないという姿勢をすっかり取り去っていた。思いっきり、顔に出ていたようで居たたまれない。


「すみません。私、こんな……はしたないですね……」


 リリーは、顔を引き締めて黙々と料理を食べようとした。だけど、ダニエルに止められてしまう。


「今は、二人だけなんだからいいよ。美味しそうに食べてくれた方が、コックだって喜ぶ」


 ダニエルも、表情を崩してとても美味しそうに食べ進める。リリーは、ありがたくその姿勢を受け取ることにした。

 できれば残したくないと思ったが、流石に無理で途中で手が停まってしまった。それに気づいたダニエルが、すぐに執事に指示を出して食事を下げさせる。そして、食後のお茶を運んで来てくれた。


「残してしまって、すみません……」


 リリーは、運ばれていく料理を残念そうに見送る。


「あはは。あんなに全部食べられると思ってなかったからいいよ。お腹一杯食べられたようで良かった」


 ダニエルは、すっと嬉しそうに終始笑顔でいてくれる。ダニエルに良くしてもらうのは有難いが、それ以上の何かがあるような気がして何となく居心地が悪い。

 そんな気持ちを振り払い、食事が終わりそうだと姿勢を正す。


「ダニエル様のご家族の方にも、ご挨拶した方がよろしいでしょうか?」


 リリーは、ダニエルに許可をもらって働くことになったが恐らくマーティン家の当主はまだ父親のようだ。屋敷の当主にご挨拶する必要はないのだろうか?


「そうだね。一応、使用人でも新しい人は、うちのみんなに挨拶させるんだけど……。そうだ、話してなかったけど今この屋敷には俺と両親の三人しか住んでないんだよ。姉が一人いるんだけど、嫁に行ってもういないんだ」


 リリーは、ダニエルの話を頷きながら黙って聞く。こんなに広いお屋敷に三人しか住んでいないなんて、ちょっとびっくりだ。


「で、今日は知り合いの家に遊びに行ってて、帰って来るのが明日なんだよ。一応、手紙ではリリーのことは知らせてあるから心配しないで。帰って来たら、明日か明後日には顔合わせさせるから」


 リリーは、ダニエルのご両親に挨拶と聞いて緊張が走る。一、使用人として挨拶すればいいのだろうか? それとも、ヴォリック国で知り合ったところから話すべきなのだろうか……。


「あのっ、ダニエル様。私は、どう挨拶した方がいいのでしょう?」


 何か行き違いがあっては失礼だ。きちんとダニエルと確認した方がいいだろうと素直に訊ねた。


「助けてもらったっていうのは伝えてあるんだよ。そのお礼で、働かせることになったってことなんだけど……。とりあえず『働くことになったのでよろしくお願いします』でいいと思う」


 ダニエルは、何か考えていることがあるのか「うーん」と悩ましげだ。だけどリリーは、それでいいのなら安心だった。後は、ご迷惑にならないように精一杯働くだけだ。


「ダニエル様、改めて本当に受け入れて頂きありがとうございました。本当に助かりました。私……一人じゃ心細くて……」


 それが今のリリーの素直な気持ちだった。たった一人で、来たこともない国に来て働こうとしたのだ。よく知っている相手ではないにしろ、知り合いがいるのでは大きな違いだ。


「いや、こちらこそ俺を頼って来てくれて本当に良かった。思いつきだったけど、通行証をバーバラに渡しといて正解だったよ。他にも、何か困ったことがあれば何でも相談して」


 ダニエルは、リリーに向かって屈託ない笑顔でそう言ってくれる。ダニエルは、リリーにどこまでも甘くて、すぐに弱音を吐いてしまいそうだ。

 だから、リリーは自分に言い聞かせる。人に頼ってばかりでは駄目だ。まずは、ここで自分の生活の基盤を築かなくてはと……。


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