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偽物の愛はもういらない~傷心令嬢を救ったのは、誠実な愛で勝負する伯爵令息でした~  作者: 完菜


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022 馬車の旅

 リリーは、ジーナに教えてもらった通り隣国行の馬車乗り場に向かった。きちんと停留所があり、その横に切符売り場も併設されていたので迷うことなく辿り着く。

 すぐに切符売り場で話を聞くと、今日これから馬車が出ると言われる。まだ席も残っているということで、すぐに切符を購入した。

 質屋の店主の言う通り、手にしたお金で余裕をもって購入できた。これなら、隣国に向かった先でも焦ることなく仕事を探せるかもしれない。


 リリーは、ダニエルを頼ることしか考えておらず隣国に行ってからどうするかなど全く考えていなかった。お金を手にすることで、すこし余裕が生まれ先のことを考えられるようになった。

 これだけお金があれば、ヴォリック国に留まってもいいような気がしたが……。グレンに探し出される怖さがある。それを考えたら、やはり隣国に行くという案はそれほど悪いものではない気がした。


 隣国までは、約二日の道のりだ。途中泊まる宿や、ご飯を食べるところは決まっていてその都度、自分でお金を払っていくシステムだった。

 馬車が発車するのは昼過ぎ。何か馬車で食べられるものでも買おうと、リリーは出発までの間少し街を歩いて回った。


 テイクアウトできるお店を見つけて、リリーはサンドイッチと飲物を買う。一人でこんな風に買い物をするのも初めてで、リリーは何だがこの一日でちょっぴり成長したのでは? と自分を誉める。

 リリーという人間は、何も変わっていないはずなのにほんの二日前までの自分とは全く別の人間の人生を歩んでいるみたいだ。

 フローレス家の領地で暮らしていた頃の自分では、考えられない未来だと何だか可笑しくなってくる。


 リリーが、出発までの待ち時間を潰し馬車乗り場まで戻ってくるとすでにこれから隣国に赴く馬車が用意されていた。普通の馬車よりも幾分か大きい気がする。

 複数人で長い時間、乗って行くから中が広くなっているのだろうか。リリーは、係の人に切符を手渡すと、もう馬車に乗ってもいいと許可をもらい中に足を踏み入れた。

 想像していたよりも中は広く、前と後ろで6人座ることができるようになっている。


 すでに小さな子供と母親が、仲良く座って腰かけていた。リリーは、親子に向かって挨拶をした。


「こんにちは。これから二日間、宜しくお願いします」


 母親が、ニコリと笑って返事をくれた。


「こんにちは。こちらこそよろしくお願いします。良ければ、私の隣にどうぞ」


 母親は、自分の隣の空いている席を指さす。リリーも、男性などの隣よりはいいだろと遠慮なく隣の席に座った。


 その後は、老夫婦が馬車に乗り込み全員で5人の旅となった。神経質な人や、口うるさいような人たちじゃなかったので馬車の旅はとても快適なものになった。

 一緒に乗り合わせた子供は、6歳の女の子でコロコロと表情が変わるとても可愛らしい子だった。

 私たち大人を楽しませてくれて、馬車の中は常に明るく良いムードメーカーだった。


 最後に乗車した老夫婦は、隣国から息子夫婦に生まれたお孫さんに会いに来た帰りで、それは可愛かったのだと仲睦まじく語って聞かせてくれた。

 ここ数日で、身内以外の人たちとこんなに話したのが久しぶりで、新たな世界に飛び込んだみたいで心が躍る。


 だけどその度に、アレンの顔がちらついてこんな気持ちになる自分が許せない。リリーは、自分でも心の置き場をどうすればいいのか戸惑いを感じていた。


 二日間に及ぶ、馬車の旅は本当にあっという間に終わりを告げる。隣国へ定期的に運行している馬車は、商人たちの馬車と一緒に行動を共にしているので危険に巻き込まれることもなかった。

 商人たちは、きちんと護衛を配置して馬車を走らせている。いくらかマージンを渡すことで、商人たちとの同行が実現しているのだと老夫婦から教えてもらった。

 何も知らないリリーは、色々考えられて商売って成り立っているのだと勉強になる。


 隣国への入国も、切符を買う時に通行証を予め見せているのでスムーズだった。こんなに簡単に隣国に来ることができるなんて、リリーは自分でも驚いた。

 馬車を降りて、隣国の地を踏んだリリーは見たことのない風景に目を見張る。やはり街並が、ヴォリック国とは違い他国に来たのだと実感が湧いた。


「リリーさん、短い間でしたけど楽しく旅をさせて頂いてありがとうございました」


 女の子の母親が、リリーに頭を下げる。


「こちらこそ、色々教えて頂きありがとうございます。二日間、とっても楽しかったです」


 リリーも笑顔で答える。最後に老夫婦が降りて来て同じように挨拶をした。


「私たちもとても楽しかったですよ。機会があれば、また会いましょう」


 老夫婦は、そう言ってみなと別れた。リリーは、みんなと別れた後にマーティン伯爵の屋敷を目指す。

 リリーは手っ取り早く、貸し馬車を借りてマーティン伯爵の屋敷を目指した。入国した場所は、グヴィネズ国の端っ子でマーティン伯爵の屋敷がある王都は馬車で二時間かかる場所だった。

 リリーは、久しぶりに一人きりの時間になった。アレンが生まれてからの四年間は、一人になる時間なんてなかった。

 馬車の壁に寄りかかり、これからの自分はどうしたいのかを考える。


 とにかく、きちんと仕事を見つけて一人で生きていけるだけの地盤を築きたい。そして自分に自信が持てるようになったら、ヴァリック国に戻ってアレンに会う方法を模索しよう。

 アレンとまた一緒に暮らしたいとは思わない。そんなことは無理なのはわかっている。ただ、何とか定期的に会えるような手段があればと思うのだ。

 それが難しいことだろうと思うのもわかる。だけど、諦めた駄目だと自分を奮い立たせた。


 ガタンッと、馬車が停まった。気が付いたら、少し寝ていたようでリリーは咄嗟に体を起こす。


「お客さん、着きましたよ」


 外から、御者の声が聞こえた。


「ありがとう。今、降りるわ」


 リリーも馬車の中から、返事をする。リリーは、髪が乱れていないか馬車の窓に自分を映して確認した。ざっと見たところ、大丈夫そうだ。

 馬車の扉を開けて外に出ると、目の前にはとても立派な貴族のお屋敷が聳え立っていた。思っていた以上に立派な建物で、リリーは怯んでしまう。自分なんかが来て大丈夫な場所だったのだろうか?


 呆然と立ち尽くしてリリーだったが、無情にも貸し馬車はその場から立ち去ろうとしていた。


「では、またよろしくお願いします」


 御者は、そう言って帽子のつばに手をかけてかぶり直すと手綱を振り下ろして元来た道を戻って行った。

 リリーは、ポツンと一人大きな屋敷の門の間に佇む。とにかく、ダニエルさんに会うしかないのだと気合いを入れた。



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