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011 言わなければいけない

ダニエルを助けてから二週間が過ぎた。グレン以外の男性との四人での生活は、思いの外楽しいものだった。

 新しい何かが加わるというのは、今まで知らなかったことを発見するきっかけになる。ダニエルは、リリーに新しい風を取り入れた。

 リリーは、いけないと思いながら気が付けばダニエルとグレンを比べてしまう。いつもグレンはこうなのに……と思うことが沢山あり、戸惑うことも多かった。


 二週間たってようやく、足の方も回復してきたのかまだ杖を付かないと歩けないが一人で歩けるまでになっている。

 アレンともとても仲が良くて、いつも何かを楽しそうに話している。ダニエルは、子供好きなのかアレンの相手を嫌がることなくいつも笑って相手をしていた。

 グレンは、アレンの相手をするけれど自分がやりたいことに子供を合わせる。だから、アレンの様子を見ているとつまらなそうにしていることも多かった。

 それでも、男親はグレンだけなのでアレンには嬉しかったようだが……。グレンがここに来るのは、アレンに会いに来るよりもリリーに会いにきている目的の方が強い。

 だから、どちらかというとグレンが来るとリリーが忙しくなりやることが増える。ダニエルが来てからは、本当に一日中アレンの相手をしてくれるのでリリーもバーバラもとても助かっていた。


 そしてダニエルのことは、グレンの従者に隠していた。三日に一回、食糧を運んできてくれるのだがいつも決まった時間に訪れる。だからその時間は、ダニエルには客室から出ないようにお願いした。

 アレンにも、ダニエルのことは私たち三人だけの秘密だと言い聞かせている。まだ子供だから、どこまでその約束が守れるか不安ではあるのだが……。

 もしアレンの口から、グレンに知られてしまってもそれは仕方ないだろうと覚悟はしている。そのことを考えると、とても恐ろしいが……。まだないことを心配しても仕方ないと、できるだけ考えないように努めた。


「ダニエルさん、本当にいつもアレンの相手をしてくれてありがとうございます。子供の相手って疲れるでしょう?」


 リリーは、ダニエルと二人で一休憩と称してお茶を飲んでいる。バーバラとアレンは、森に木の実を拾いに行ったのだ。二人きりでいるのは、珍しいことだった。


「いや。どうせ動けないからね。それくらいしか、お役に立てることもないし。アレンはとても賢い子だから相手していると楽しいよ」


 ダニエルは、紅茶のカップを口に運んで一口お茶を口にする。とても美味しそうな顔をするので、リリーも嬉しい。


「そうですか……。なら良いのですが……。あの、それで実は――」


 リリーは、言いにくいことを言わなければいけなかった。この話をする為に、バーバラにダニエルと二人きりにしてもらったのだ。


「あと一週間くらいで、私の旦那様が帰ってくる予定なんです……。本当に申し訳ないのですが……、それまでにはここを……」


 リリーは、出て行って貰いたいという言葉を口にできずに俯いてしまう。


「そうか……。この家の居心地がよくてかなり長いことお世話になってしまったね。こちらこそ、図々しく申し訳なかった」


 ダニエルは、リリーに言いづらいことを言わせてしまったことを悔やむように頭を下げた。


「いえ、私たちもとても楽しくて……。あっという間の二週間でした」


 リリーは、スカートをギュっと握って、何ともいえない気持ちを押し込める。そう、リリーにとっても本当に楽しい時間だった。


「リリー、君は……。ここで幸せかい?」


 ダニエルが、リリーを心配するような表情でそう訊ねた。リリーは、言われた意味がわからなかった。


(ここで幸せ?)


「あの……、私、幸せそうに見えませんか?」


 リリーは、ダニエルに自分がどう見えているのか分からなかった。リリーは、ここでアレンとバーバラと平和な毎日が送れることに満足しているつもりだった。

 毎日会えないグレンとの生活に、不満はないとは言えないけれど彼の特別は自分なのだと思えればそれだけで幸せだった。

 他人から見たら、リリーは哀れなように見えるのだろうか……。


「いや、そんなことない。アレンとバーバラと暮らす君は楽しそうだ。だた、俺は……。ごめん、俺が言うことじゃない……」


 ダニエルは、途中で言葉を濁してしまう。リリーの顔が、余りに不安げに見えたから。自分が余計なことをいって、リリーが守ってきたものを壊す責任が自分にあるように思えなかったのだ。


「リリー、君はとても素敵な女性だよ。君に助けてもらえて、俺は幸運だった。一週間後までには必ずここを出るよ。もう一人で歩けるから大丈夫だ」


 ダニエルは、リリーの不安を拭うようにきっぱりと約束した。まだ歩けると言っても、杖を付きながらゆっくりしか歩けない。そんな彼を追い出すような形で本当に申し訳なかった。


「あの……、本当だったら馬車を手配したいのですが……」


 リリーの表情は、沈んでいた。


「いや、気にしないでくれ。リリーの事情だってあるんだ。ここまで世話をしてもらえて、充分だよ」


 ダニエルが、にっこりと優しい笑顔で笑う。ダニエルの笑顔は、とても安心する笑顔だった。


「残りわずかですが、ゆっくりして下さいね」


 リリーは、笑顔でそう返した。本当は、胸の中には寂しいという気持ちがじわじわと流れている。だけどそんな気持ちには蓋をする。自分には、愛するグレンがいるのだから。


(グレン様に、嫌な思いをさせるなんていけないこと)


 ダニエルには、最後までここでの生活を楽しんでもらいたい。いつまでも、いい思い出としてダニエルの記憶に残るように――――。


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