美少女養成学校で成績最下位の女の子を、30分で最強のヒロインに育ててみた
ツンデレ、クーデレ、ヤンデレ、妹、お姉さん、中二病、メイド、ロリ、ギャル、ドジっ娘、ボクっ娘、俺っ娘、アホの子、男の娘、etc……
魅力あるヒロインは属性を持つ。一口に属性と言ってもそれは単なる記号ではなく、百人のツンデレがいれば百通りのツンとデレが存在するのだ。そうした唯一無二の個性こそが、ヒロインをより魅力的に彩るのである。
ようこそ、美少女養成高等学校へ。
本校は諸君の個性を歓迎する。昨今は単なる美少女など掃いて捨てるほど存在するが、その中で生き残るためには圧倒的な個性が必要だ。
歌って踊るだけの者に明日はない。
ただ可愛いだけの者に未来はない。
ならば、誰にも負けない武器を持て。
オンリーワンのヒロインであれ。
本校は諸君の個性磨きを全力でサポートする。
最強のヒロインに、君がなるのだ!
「なんだこれ……」
僕、佐藤碧が学校紹介の映像を見た感想はそれだった。
最強のヒロインに、君がなるのだ! とか言われても困る。
「何か質問はあるかい?」
学長の席に腰かける老婆が、映像を消して僕に尋ねた。
「ええっと……」
とりあえず編入する学校を間違えた事はわかった。
でもそれ以外はさっぱりわからん。
「あの、僕はどうしてこの学校に?」
「ワシの理想のために必要なのさ。期待してるよ」
「はぁ……」
人違いじゃないですか?
誰か説明してくれと思っていると、
「お兄ちゃんはモデル生なんだよ」
僕をこの奇天烈な学校に勧めた張本人、東雲渚が目をキラキラさせて言った。渚は僕の従妹で、学年は一つ下の一年生。僕が両親の海外出張を機に地方から一人で越してくる時に、この学校の推薦を受けられるよう学長に頼んでくれたのだ。
「良い生徒を紹介してくれたね、渚。合格だよ」
「やったねお兄ちゃん! 今日から一緒の学校だよっ」
「お、おう」
ぴょんぴょん飛び跳ねて嬉しさを全身で教えてくれる渚。可愛い従妹だが、僕はこの子に騙された。直前まで違う学校の名前を聞かされていたのだ。
「僕に何をさせる気ですか?」
この学校はクラスで一番可愛い子を寄せ集めたみたいに美少女が多い。ここまで来る途中にすれ違う子がみんなそうだった。僕みたいな凡人は場違いだ。
「ヒロインを育成するためには男役が必要だからね。少し前までは女子校だったんだけど、最近少しずつモデル生として男子生徒も増やしてるのさ」
「お兄ちゃんは何も考えずボケーっと過ごしてればいいんだよ!」
なるほど、学校システムとしては合理的かもしれない。
「でも、僕には無理かなぁ」
ハーレムみたいで魅力的に思えるけど戸惑いの方が大きい。緊張するし、僕は普通の生活で満足だ。こういうのはイケメンの方が適任だと思う。
「ウジウジ面倒だなぁ。どうせ普通に生きてても女の子と話せないんだからいい機会じゃん。お兄ちゃん如きでも女の子と仲良くなれるかもよ?」
しれっと毒を吐いてくるんだけどこの子。
あれ、渚ってこんな子だったかな?
「特別に授業料もタダだよ。どうせどこ行っても勉強しないんだからさ、空気吸うためにお金払う必要ないよ。今からまた転校の手続きとか面倒な事させるの?」
止まんないなこの子。
可愛い顔すれば何言ってもいいわけじゃないんだぞ?
でもまあ、一応僕のためを思ってくれてるみたいだし、学費の面で親孝行出来るのは事実。それに僕も男だ。興味が全く無いと言ったら嘘になる。正直悪い話ではないし、とりあえず通ってみるのもありかな?
「はぁ、わかったよ。これからよろしくお願いします」
「こんなお兄ちゃんですけど、私からもお願いしまーす!」
僕と一緒に渚もぺこりとお辞儀した。
学長は何か企んでそうな笑みを浮かべている。
「渚。学校を案内してやんな」
「はーい! 行くよ、お兄ちゃん。早く歩いて」
僕は渚に連れられて、新しい生活をスタートさせた。
***
コンコンコン。
二人が去った後、学長室のドアがノックされた。
「失礼します」
丁寧な所作で戸を引いて入室したのは、黒髪ロングの凛とした美少女。クールビューティーの言葉が似合う、この学校の生徒会長である。
「学長。なぜあのような普通の生徒を?」
たった今すれ違ったが、見るからに凡人といった感じだ。
生気の薄い風貌に特徴のない顔のパーツは一日で忘れるだろう。
「ワタシには理解しかねますね」
「ふっ、まあ見てな。面白いことが起こるよ」
学長は笑う。
「彼はこの学校に旋風を巻き起こす存在となるだろうね」
「はぁ、そうですか」
何言ってんだこのババア、と生徒会長は思った。
***
渚に案内をしてもらうことになった僕。
今は放課後の特別授業が行われているらしいので見学する。
「よろしいですか皆さん。今日の授業では、ツンデレについて学びますわよ」
「「「よろしくお願いします!」」」
ギャグかと思ったらこれが日常らしい。
生徒たちが当然のように受け入れる。
何が始まるんだと窓越しに見ていると、度肝を抜かれた。
「ではわたくしの後に続いて言ってみましょう。あんたなんか、別に好きじゃないんだからねっ!。はい!」
「「「あんたなんか、別に好きじゃ人だからねっ!」」」
「勘違いしないでよね。お弁当作り過ぎちゃっただけだから。はい!」
「「「勘違いしないでよね。お弁当作り過ぎちゃっただけだから」」」
何をやってるんだこれは。
どこからツッコんでいいのかわからない。
「なあ、渚。これはなんだ?」
「ツンデレについて勉強してるんだよ。お兄ちゃんの目と耳は飾りなの?」
「いや、それはわかるよ。カオス過ぎるだろ」
そのあとも教師の後に続いて20人ほどの生徒が復唱する。
見てるこっちが恥ずかしくなりそうだ。
「まずはキャラクターを知るために型を勉強するんだよ。そこからオリジナリティを出して自分だけのツンデレを作るの」
「ぜんっぜんわからない。ツンデレを作るってなんだ」
「少しは自分で考えてよ。もう、お兄ちゃんは本当に頭がザコだね」
二人きりになったら言葉の切れ味が鋭くなった気がする。
ザコとか初めて言われたぞ。
「はぁ、ザコなお兄ちゃんに教えてあげる。あんなツンツンしたセリフを日常で使ってる人見たことある?」
「ないな」
「でしょ。だから自然に言えるように練習するんだよ。見てて」
今度は一人ずつ言うみたいだ。
指名された生徒が顔を真っ赤に染め上げて、
「ぁ、あなたなんて、好きじゃないんだもん! ……こ、こうですか?」
「全っ然ダメよ! ツンの時にデレてどうするの!? もっと突き放すようにハキハキ言いなさい!」
「ご、ごめんなさぁ~い」
先生に怒られた生徒はうなだれてしまった。
一人で言うのは難しかったみたいだ。
「ね? 普通は羞恥心で言えないんだよ。でもツンデレの才能がある本物は違うよ」
才能とかあるのか。
もうついていけないぞ。
「まったく、ツンデレをわかってない子たちばかりね。棘照美さん、お手本を見せてもらえるかしら?」
「わかりました」
金髪ツインテールの美少女が一歩前に出た。
注目を浴びる中、棘さんは腰に手を当てて息を吐くように言い放つ。
「は? バカなの? あたしがアンタなんかのためにお弁当作るわけないじゃん。作り過ぎてゴミ箱に捨てるのがもったいないと思っただけだし。代わりにアンタの胃袋の中にでも詰めといてよね。……残したら許さないから」
「すうううううんばらしいわ! さすが棘さん! 最後のほんのりとしたデレが良いアクセントになってるわ! グサグサと抉るような言葉攻めなんてご褒美よ! 皆さんも、棘さんを見習ってくださいね」
よくわからないが高評価らしい。
棘さんはこんなもんよと髪を払って得意げに胸を張る。
隣の渚もぱちぱちと拍手を送っていた。
「他にも自分の受けたい属性の授業を自由に受けられるんだよ。お嬢様キャラになる授業とか、アホの子になる授業とか!」
凄い学校だ。
「ん? てことは渚も?」
「もっちろん! 私ってば成績優秀なんだよ」
「成績とかもあるのか」
「うん。これこれ」
渚が腕に付けている時計のようなものを見せてくれた。
よく見たらみんな付けていて、画面に数字が表示されている。
「5385? 何の数字だ?」
「私のレートだよ。授業とか日常生活の中で独自の個性を発揮するとポイントが入るの。このポイントが高ければ高いほど優秀で、特に上位八人を八宝美人って言うんだよ。スイーツ食べ放題の特典とか貰えるし、卒業後もいろんな業界から引く手数多なんだぁ」
確か個性がないと芸能界は通用しないって言ってたな。最近活躍してる有名人はここの卒業生らしい。ふざけてるように見えて本人たちは真剣だ。
「ちなみに、私は八宝美人なんだよ」
「凄いじゃないか。何属性なんだ?」
「もっちろん『妹』だよ。こんなに可愛い妹、他にいないでしょ? 私の夢は全人類の妹になることなんだ! ザコなお兄ちゃんにも優しい私は天使だよねっ!」
キュルルーンとウインクする渚。
うーん、八方美人の間違いかな?
昔はケーキ屋さんになりたいって言ってたよね。
あとちょくちょく僕の事をザコって言うのやめてくれるかな?
「とにかく、みんな八宝美人を目指してるの!」
「そっか。で、僕は何すりゃいいんだ?」
「お兄ちゃんはアドバイザーだね。男の子から見てどうかっていうのを教えてあげるの。それと、得点を稼ぐパワースポットでもあるね」
「パワースポット?」
「男の子といればポイントの入るチャンスが増えるからだよ。ドキッとするシチュエーションを作れば効率的にポイントを増やせるの!」
なんだそれ。つまり向こうから勝手に寄ってくると? ラブコメの主人公みたいじゃないか。ど、どうしよう。うまく喋れるかな。不安になってきたぞ。
「ちょうど今からそのお仕事があるよ」
「え!? なんだそれ聞いてないぞ」
「だって今言ったもん。ほんとにお兄ちゃんはバカで疲れるなぁ。少しは私と同じ血が流れてるのにどうしてそんなにザコなの?」
渚が毒を吐くと、時計の数値が少し増えた。
「あはは、ざぁこ!」
また増えた。
さてはこの子、僕を点数稼ぎの道具だと思ってるな?
凄く楽しそうに連呼してくる。
「ざーこ。ざーこ。ざーこ!」
ちょっとムカつくからぶん殴ってもいいかな。
なんていうんだっけ、こういうタイプの子。
「ふぅ、経験値いっぱい稼げた」
ついに僕の事を経験値とか言い出したぞ。どうやらただの『妹』じゃなくて他の属性まで持ってるようだ。確かに小悪魔っぽくて一部界隈で需要はありそうだけど、この学校の得点システムはよくわからないな。
渚の点数稼ぎに付き合わされていると、目的地に到着した。
「ここだよ! もう待ってるみたいだね」
空き教室に連れてこられた。
渚が急かすから、僕がドアを引いて中に入る。
すると一人の女子生徒が背筋を伸ばして座っていた。
「初めまして、月波純代です」
「あ、どうも初めまして。佐藤碧です」
「よろしくお願いします。どうぞ、座ってください」
「うん、失礼します」
普通に挨拶を交わし、向かい合って座る。
黒髪ショートの女の子。ごく普通の生徒に見える。
この子も何かの属性を極めた人なのだろうか。
「この子は二年生の純代ちゃんだよ。可愛いでしょ」
渚が紹介してくれる。
渚は一年生なのに上級生の知り合いも多そうだ。
人懐っこい妹のコミュ力恐るべし。
「で、こっちの地味な人は私のお兄ちゃん」
紹介されたので軽く会釈する。
月波さんと目が合うと、微笑んでくれた。
なんか照れるな。
「じゃあそういうことで私は行くね。ばいばーい!」
「えっ!?」
渚は場だけセッティングして帰ろうとした。
お前、そのツインテールむしり取るぞ。
「おい、ちょっと待て渚!」
「なに? 私忙しいんだけど」
「一人にしないでくれって。心細いだろ」
まだわからないことだらけなんだよ。
初対面の女の子と二人きりとか何話せばいいかわかんないぞ。
「もぉ、お兄ちゃんにシスコン属性はないでしょ」
「今手に入れた! 僕には渚がいないとダメだ!」
「あはは、面白いねお兄ちゃん。そだ、帰りにアイス買って来てねー」
「ちょ──」
行ってしまった。
そういえば今日から一緒に住むんだったな。
これから毎日ざこざこ言われたら頭がおかしくなっちまうぞ。
「……」
「……」
教室には月波さんと僕の二人。
気まずいけど力になってあげたいな。
僕に相談があるみたいだし頑張ってみるか。
「えっと、相談があるんですよね?」
「はい。ごめんなさい、迷惑ですよね」
「いえ、僕なんかでよければ聞きますよ。ちなみに何属性なんですか?」
先に知っておいた方がいいだろう。
相談の内容もそれに関係するだろうし。
「無属性です」
「……聞いたことないな。なんか強そうですね」
全ての属性を使いこなす的な?
「逆です。ほら見てください」
腕時計のポイントを見せてくれた。
手首ってなんかドキっとするよね。
「あれ、0点? 故障ですか?」
渚は5000点を超えていた気がする。
もしかしてあの子は凄いのか?
「正常です。私のヒロイン度が皆無ってことです」
「と、言いますと?」
「例えるなら美少女ゲームのクラスメイトBとかそんな役です。特に印象に残らないのでヒロインレースに参加することも無いモブです」
顔は可愛いと思う。性格も申し分ない。
モテそうだけど、この学校システム的には評価されないのかな?
少なくともざこざこ言ってる渚より可愛げがある。
「私は没個性の無属性なんです」
聞いてると可哀想になってくるな。
そんな悲観しなくてもいいのに。
「相談というのは、私に協力してポイント獲得のお手伝いをして欲しいんです。このままだと退学の危機もあるので、それは絶対避けたいんです」
月波さんが真剣な眼差しを向けてくる。
立ち上がると、直角に腰を曲げて頭を下げた。
ふわっとゆれる髪とつむじに、つい見惚れてしまう。
「お願いします!」
僕なんかが人のために出来ることはないと思う。それでもこんな真剣に言われたら何とかしなきゃって思う。この子の力になってあげたい。なってみせる。
「わかりました。僕でよければ付き合います!」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
この瞬間、月波さんのポイントが10増えた。
僕はその笑顔に心の中で満点をあげた。
***
協力関係を築き、本題に入る。
「具体的に何すればいいんですか? 退学って言ってましたよね」
「半年に一度ランキングが出るんですけど、100点に達していない生徒は退学になってしまうんです」
そんなルールがあるのか。
「今まではどうしてたんですか?」
「筆記試験でも点数は貰えるのでなんとか凌いでました。ですがポイントは減ることもあるので、私が無属性なばっかりにみるみるポイントが失われて0点になってしまったんです。私は最下位で落ちこぼれのダメ女です。ポンコツです」
しょんぼりしてしまう月波さん。
こんな可愛い子が最下位なのは信じられない。
「ですが! 今の私には佐藤くんが付いてます!」
「そ、そんな頼られても困りますよ?」
「男の子の意見があるのとないのとでは大違いです」
「まあ、そうなのかな? ちなみに次の更新日はいつですか?」
「今日の放課後までです。タイムリミット迫ってます」
あと30分で退学じゃねえか。
そんなデッドラインにいてよく冷静だな。
と思ったら、そうでもないっぽい。
少し涙目になってる。可愛いな。
「さあ! 時間も無いのでポイントを稼ぎますよ!」
切り替えが早い。いや、自棄になってるだけかな。
前向きな女の子。うんうん、僕は良いと思うよ。
「手っ取り早く点を稼ぐには今から何かの属性を手に入れるのが良いと思うんです。いくつか案があるので、アドバイスをお願いします」
「了解。いつでもどうぞ」
月波さんがコホンと咳払いする。
何するのかなと思っていると、腕を組んで見下してきた。でもあんまり怖くない。ぷくっと頬を膨らませていて可愛いという感想しか出てこないが、
「佐藤くんって、普通ですよね。普通過ぎて反応に困ります」
「……」
反応に困るのはこっちですけど?
何の時間ですか?
「な、何か言ってくださいよ。どうでしたか?」
「え、何かしたの?」
ポイントは微動だにしていない。
いや、むしろ。
「も、もちろん、本当は思ってないですよ? 佐藤くんも素敵な方だなと思ってます。普通なんて、そんな悪口嘘に決まってますから気にしないでくださいね?」
今下がった。マイナス10点になっている。
「ど、どうしてですか! マイナスなんて初めて見ました! うわああああん!」
「落ち着いて月波さん! 僕が何を見せられたのか解説してくれますか?」
手で顔を覆ってしまう月波さんをなだめる。
「うぅっ、ジト目で罵ると喜ぶ人がいるって聞きました。ですけど、可哀想だと思ったのでやっぱりやめました。中途半端にディスったのでマイナスです」
そんな仕組みだったのか。
自分で解説して哀れになったのか、再び顔を隠してしまう。
何かアドバイスしてあげよう。
「確かに中途半端は良くないかな。普通って言われても、そうですかって感想しかないです。僕は演技だって分かってるので思いっきり罵ってくれていいですよ」
あれ? このセリフ大丈夫かな。
味方によっては変態なのでは?
「思いっきりですか。おもいっきり……おもいっきり……バカ! アホぉ!」
「全然だめです。僕を人間だと思ってはいけません! もっとこう汚い物を見るような蔑みの視線で、思いっきり貶してください! ほら、もう一回!」
「き、キモい! 変態! 豚さん!」
この子にこのキャラは向いてないな。
別のキャラを試していこう。
なんだか僕の感性もおかしくなってるけど気にしない。
「次行ってみましょうか。何かありますか?」
「ええと、ううんと……あ、行きます!」
何か閃いたらしい。
「おーーーーっと、躓いてしまいましたぁ!」
棒読みで茶番を繰り広げる月波さん。
その場にずっこけてスカートがめくれてしまう。
「~~~~~!?」
しかし、パンツが見える前に手で押さえてしまった。
顔を真っ赤にして見られてないか気にしている。
そこは見せるところだろ。ラッキースケベがお約束だろ!
「うぅ、また点数が下がってしまいました」
「僕にパンツを見せないからですよ。何してるんですか」
「ふぇええええ!?」
これはアドバイスだ。
断じて僕が見たいわけではない。
「そ、そんなハシタナイ事できません!」
「月波さんから始めましたよね?」
恥じらいは可愛らしいが、期待だけさせて焦らさないで欲しい。
「ドジっ娘もだめか。他には何が出来ますか?」
「えぇっと……わかりません。佐藤くんはどんな女の子が好きですか?」
「僕? そうだな……」
あんまり考えたことない。
ていうか僕の好みは関係なくないかな。
「あ、そうだ。ざこって言ってみるのはどうかな」
「さ、佐藤くんはドMさんっていう人ですか? 渚ちゃんが言ってたかもです」
「違うよ! 渚がそれでポイントを稼いでたんです」
「な、なるほど。こんな感じですかね」
コホン、と咳払いして集中する月波さん。
小さな口をほんの少し動かして、
「ざこ?」
上目遣いで、申し訳なさそうに漏らす。
渚のような嘲笑した感じとは真逆で、思いやりすら感じるザコだ。
正直ドキっとした。もっと言って欲しいと思うくらいだ。
「……ご、ごめんなさい。やっぱり私には無理です!」
「い、いやいいんじゃないかな?」
「そうですか? あ、でもダメです。ポイントが増えてません」
おかしいな。僕は良いと思うんだけど。
月波さんの表情が悲しみを帯びていく。
放送で下校時刻を知らせるアナウンスが入った。
もうこの学校を去るカウントダウンが始まっているのだ。
「えへへ、ダメみたいですね私。せっかく手伝ってくれたのにごめんなさい」
「そんな……まだ諦めちゃダメです。ギリギリまで試してみましょう!」
「ありがとうございます。ですがもういいんです。私には向いてないみたいです」
嘘を吐かないでくれ。
じゃあどうして君は泣きそうなんだ。
夢とかやりたいこととかあるんじゃないのか? こんな意味の分からない学校に入って必死になって頑張ってきたんじゃないのか?
数分の付き合いだけど月波さんの想いは十分伝わった。
その想いを成就させて欲しい。
僕は君の頑張る姿を見てそう思った。
可愛いなって、魅力的だなって思ったよ。
だから諦めないでくれ。
君の笑顔を、輝く姿をもっと見せてくれ。
「今日はありがとうございました。それでは私は職員室に行ってきますね。短い間でしたけど楽しかったです。さようなら」
月波さんが僕の横を通り過ぎる。
だから僕は、その手を当然のように掴んだ。
「待って」
「え?」
「月波さんは可愛いよ」
「ふぇええ!?」
僕は一番重要なアドバイスを伝えていなかった。
この子は自分に自信を持っていない。
気づいていないだけだったんだ。
「真面目で不器用なところも魅力的だ。僕は頑張る月波さんにドキッとさせられたよ。可愛いから目を見て話すのも恥ずかしい。さっきから心臓がうるさくて熱でもあるみたいだ。初対面のくせに何言ってるんだって思うかもだけど、月波さんはオンリーワンで、誰にもまねできない武器を持ってると思う」
点数が増えていく。
鼓動のように加速する。
「だから、自信持って! 月波さんは最強のヒロインだよ!」
気づけば僕は叫んでいた。
頭おかしいと思われたかな。
キモいって思われたかな。
でもいいや。全部本心だから。
「ぁ、う、ぁぅ……あの、その……」
「ごめん、急に困りますよね。ほんと、僕って頭がザコなんですよ。あはは──」
「違います。私……そんなこと言ってもらったことなくて。ずっと私はダメだと思ってたので……うまく言えないんですけど、嬉しいです」
そう言って、月波さんは一滴の涙を流した。
そしてまた僕はドキっとする。
手を握ったままだと気づいて、二人で顔を赤くする。
最初とはまた違う気まずさだ。
「あ、見てくださいこれ!」
「ん? あ!」
月波さんが腕時計を見せてくれた。
画面には最終結果が表示されている。
「一、十、百、千……え? 桁が違くないですか!? 私が、こんな数字を?」
「少ないくらいですよ。もっともっと大きくても不思議じゃないです」
「そ、そんなおだてないでください! 恥ずかしいですよ」
ポイントは100点を優に超え、10000点に達していた。
僕にはよくわからないけど凄い点数なのは間違いないだろう。
「やりました! えへへ、佐藤くんのおかげです」
僕の手を取り、一緒にジャンプするほど喜びを爆発させる。
その笑顔は、やっぱり最強のヒロインだ。
***
その頃、学長室にて。
学長と生徒会長はそれっぽい雰囲気を放っていた。
「18000点か。さすがだね、生徒会長。八宝美人の一席を死守するとは見事だ。これからも期待しているよ」
ランキングが更新され、校内のいたるところで一喜一憂の声が聞こえてくる。しかしこの学校の頂点に君臨する生徒会長はいたって冷静だ。さすがクールビューティー!
「当然の結果です。して、どうやら学長の目論見は的中したようですね」
「言っただろ? 彼は革命を起こすとね。彼にはラブコメ主人公の才覚を見たが、ワシの目に狂いはなかったようだ」
ランキングの上位は前期と変わらないと思われたが、第八席の欄には一万点を獲得した無名の生徒がいる。短時間で稼ぐには通常不可能な点。しかし、のちに該当する生徒へ聞いてみると、その正体は納得のいくものだった。
恋。それが、ヒロインを一番魅力的に見せるためのスパイスだろう。恋をすると可愛くなるという言葉通り、恋の自覚により爆発的なポイントを得たのである。
「今後が楽しみだね。生徒会長も足元をすくわれるかもしれないよ?」
「ご冗談を。その時は全裸で逆立ちしながらリコーダーを吹いてみせますよ」
「はっはっは、そいつは楽しみだね」
学長室にそれっぽい雰囲気の笑いが響く。
クールビューティーな生徒会長が泣きを見るのはまた別の話だが、特に詳しく語ることは無いため割愛させていただく。
***
「佐藤くん、また明日会いましょうね」
退学スレスレから一気に逆転し、八宝美人に成り上がった月波さん。
それでも慢心することなく僕に優しい。素敵な女の子だ。
「うん、また明日」
手を振って別れる。
見えなくなったところで、僕は思った。
(僕たちって付き合ってんのかな?)
随分こっぱずかしい事を連呼した。
初対面の女の子に告白まがいのことをしてしまった。
しかし、特に恋人同士と約束したわけではない。
浮かれるのは早いか? くっそわかんねえ!
早く明日にならないかなと思いながら、僕は帰宅した。
「ただいま──って、どうしたんだ渚!」
今日からお世話になる家に着くと、玄関で渚が寝そべっていた。
スライムみたいにぐってりと床にへばりついている。
「ぐすんっ、お兄ちゃーん!」
「な、なんだ急に。くっつくなって」
渚は僕の服で涙を拭いた。
あのざこざこ言ってた威勢はどこへ行ったんだよ。
「見てこれぇ! うぅ、私ってば八宝美人じゃなくなっちゃったよぉ!」
スマホをたぷたぷしてランキングを見せてくれた。
見てみると、8番目に月波さん。
そして20位の位置に渚の名前。
前回から急落したらしい。
「ぷふっ、」
「お兄ちゃん! なんで笑うの!」
「あはは! どうしたんだ、ざこざこ言ってみたらどうなんだい。え?」
「うわあああああん! お兄ちゃんがマウントとってくるよぉ! ざこお兄ちゃんのくせにいいいいい!」
「それを言うなら渚はざこざこ妹になるな。どんな気分だ? え?」
散々僕を馬鹿にして、結果自分は評価を落とした。
我が従妹ながら滑稽だ。
「もう嫌い! お兄ちゃんなんて大っ嫌いだから! 転んで頭打っちゃえ!」
「冗談だって。アイス買って来てやったぞ」
「え、ほんと? わーい! お兄ちゃん大好き!」
ちょろいなこの子。
「渚、いいのか食べて」
「んぅ?」
さっそくアイスを頬張っている渚。
むしゃむしゃ食べて幸せそうだ。
「久しぶりに会って思ったんだけど、少し丸くなったか?」
「ええええええええええええええ?」
「八宝美人になるとスイーツ食べ放題もあるんだっけ? 食べ過ぎてないか?」
「早く言ってよ! 私お外走ってくる! もう、お兄ちゃんのバカ!」
渚は僕にアイスのゴミを押し付けると、靴を履いて飛び出していった。
少しスッキリした気分を味わっていると、スマホが振動する。
「あ、月波さんだ」
さっき連絡先を交換したのだ。
僕はドキドキしながらロックを解除し、月波さんとのトークを始める。
最初はどうなるかと思ったけど、楽しそうな生活に心が躍る僕だった。
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