第4話の5 お風呂にて交流と密談
毎日午後6時に投稿しています。お読みいただければありがたいです。先に投稿しています「英雄の冒険旅行譚」「英雄の人生探訪旅行譚」もあわせてお読みいただければ幸いです。
女湯の場合
その夜、英雄の婚約者である4人は一緒にお風呂に入っていた。ヴィ―ナがアプリにみなと交友関係を築きたいがどうしたらよいか相談した結果、「じゃみんなでお風呂に入りましょう」ということになった。
この屋敷は鈴木少尉の好みで、男女とも大きな風呂が用意されていた。
最初はヴィーナとアプリ、マーシャが三人で入る予定だったが、その夜スラーシャがきたので、四人で入ることとなった。
「何でみんなでお風呂に入るのですか?」三人はアプリに聞いた。
「ひいおじい様曰く、『仲良くなるためには裸の付き合いをするのが一番だ』とのことです。なので旦那様の妻となる四人、お互いのことを知って、仲良くなるためには風呂に一緒に入るのが一番だと思いました」アプリは胸を張って答えた。
「別に仲良くなる必要ないんじゃない。私たちお互いヒデオに関するライバルなんだから」マーシャは言った。
「マーシャ姫、私たちは四人で旦那様を支え、旦那様の大業達成の力とならなくてはなりません。それが、私たちの中で争っていたら、旦那様の大業の邪魔になってしまいます。それは何としても避けなくてはなりません」アプリは言った。
「大業の達成って何ですか」スラーシャは尋ねた。
「ひいおじい様いわく、ユエ族統一と殖産興業・富国強兵をなし、中央アジア随一の国にすることだそうです」アプリは言った。
「ユエ族の統一って、いったいどうやるのよ。二つの国に分かれてから100年の月日が流れ、政治体制も大きく異なっているのよ。戦争でもするつもりなの?」マーシャは聞いた。
「ひいおじい様は旦那様と会ってからいろいろ始めています。きっとひいおじい様は統一に向けて何か考えがあるのだと思います。最近はシャオイエのミーシャ姫とも連絡を取っているようです」アプリは言った。
マーシャはびっくりして言った。「お姉さまと連絡を取っているんですって!」そして考え込むようにしていった。「お姉さまが絡んでいるということは、何かとんでもないことを企んでいる可能性があるわ」そしてはっとなって言った。「アプリちゃん、それすごく重要なことよ。勝手にしゃべっていいことなの?」
「当然、いけないことですよ。でもここにいる方々はみな一蓮托生の存在ですから」
「でも」スラーシャはヴィーナの方を見た。
「私はご主人様に一生ついていくつもりです。ホンス族の女はこれと決めたら頑固なのですよ。それに、アプリはヘイス族ですよね」ヴィーナはアプリの方を見て言った。
「アプリはヘイス族出身だけど、それがどうしたの?」マーシャは不思議そうに聞いた。
スラーシャは何かに気づいたようにハッとした様子だった。
「ヘイス族は商業が盛んであちこちに行って商売をしているけど、もとをただせば諜報や暗殺のため始めたと聞いたことがあります。ヘイス族は諜報や暗殺をつかさどる部族なの」スラーシャは言った。
「えっ」マーシャはびっくりしてアプリを見た。
「はい、その通りです。私も一通り訓練を受けています。裏切れば誰であろうと処分します。まあ、皆さんは裏切る心配はないと思いますが」アプリはにこやかに言った。
「さて、ユエ族の統一に必要なことって何かしら。私たちにできることってあるでしょうか」スラーシャは尋ねるように言った。
皆が首をひねっていると、アプリが言った。「ひいおじい様の受け売りですが、両国が統一するのに一番最初にすべきことは両方の王位にご主人様が就くことで、王権を一つにすることだそうです」アプリは続けて言った。
「細かいことは私ではわかりませんが、もともと一つだった王位が二つに分かれたのが、国の分裂の原因だったと聞いています。まずはそれを解消するのが、一番最初にすべきことだそうです」
「つまりスラーシャと私はヒデオをターイエとシャオイエの王位につけるのに協力しなければならないということよね」とマーシャは言った後、ニヤリとし「私はヒデオをシャオイエの王位につけるために協力するわ」と言った。
「一番簡単な方法は、ヒデオが私とミーシャ姉さんを娶れば、勝手に王位が転がり込むわ。でも、あの国は王家に何の実権もないわよ。そんな国の王位なんて、どうするつもり?おそらく議会や内閣も統一に反対するわ」
「どうして反対するのですか?」スラーシャは聞いた。
「だって今の議会と内閣は共和党一派が牛耳っているのだもの。これ父上から聞いた話だけど、共和派は王政に反対しているグループで、完全共和制を目指しているの。さらに隣国のチムル共和国とも深く関係していて、いろいろ画策しているみたいよ。そんな奴らが、ターイエのとの統一なんて認めるはずないでしょう」マーシャは言った。
「それはひいおじい様と旦那様が考えます。スラーシャ様はどうされますか?」
「兄を排除して、私の婿であるヒデオがターイエの王位を継がせるということですよね」スラーシャは言った「私は夫であるヒデオのためにすべてをささげます。例え親兄弟を裏切ろうとも」スラーシャは強く言った。
「皆さんよい覚悟です」アプリはにこやかに言った。
「もしこの企てが失敗したら、旦那様と共に皆で死にましょう。私が皆さんを送って差し上げます」顔はにこやかだが、目は本気だった。
「というわけで、私たちは同志です。仲良くしましょう」アプリは微笑みながら言った。みなは一同うなずいた。
男湯の場合
英雄はゆったりとした湯船に身を使っていた。「やっぱり風呂はいいな」英雄は独り言を言った。少尉殿も日本人だよな、こんな立派な風呂を作っているなんて、と英雄は思った。
「おう、軍曹湯加減はどうだ」鈴木少尉が入ってきた。
「あっ少尉殿、お先にいただいております」英雄は敬礼した。
「お互い裸だ、気を使うな」少尉は言った。
「はい」英雄は答えた。ふたりは湯にゆっくり使っていた。
「九頭」少尉は突然英雄に声をかけた。
「はい」英雄は答えた。
「お前、王になれ」少尉はこともなげに言った。
「えっ、王ですか」英雄はびっくりして言った。
「シャオイエとターイエを統一し、この地に第二の満州国を建設するのだ」
「満州国って、日本が中国の東北部に造った傀儡国家ですか」
すると少尉は渋い顔をしていった。「確かにあの地は中国だったが、基本ほとんど人は住んでいなかった土地なんだぞ。ロシアが進出して開発を始めてから中国人が住み始め、それを日本が引き継いで開発を続け、鉄道を引き、鉱山を開発し、送電網を作り、新たな国として発展させたんだ。俺がいた時分も大陸内部の混乱から逃れるため、ものすごく多くの中国人が移住してきたんだぞ。普通に考えて敵地に移住なんてしないだろ。それに満州はすごく寒い条件の悪い場所なんだ。それでも多くの中国人が満州に移住してきた」
少尉は一息ついて、続けた。「中国人にとっては自国の領土を奪った悪かもしれないが、我々はあの地に第二の日本を作り、あの地に住む民族と協和的な国家を作ろうと理想に燃えていたんだ。だから、このユエの地に作るのは植民地でもなければ、傀儡国家でもない。日本人とユエ人が手を取り合って新しい国づくりをしたいと考えているのだ。そのためには、二つのユエ人の国を統一し、産業を興し、国を富ませ、脅威から身を守れる国家を建設しなければならない。その象徴が九頭英雄、お前だ」
「私が統一王なんて、そんな能力も野心はありません」英雄はひるんだ。
「お前は人を引き付ける力がある。二人の姫を手に入れ、二つのユエ人の国を結びつけることができる。アプリもお前を気に入っている。あれでも族長一族の一員なのだぞ。あの子を娶ればヘイス族もお前についてくる。さらにホンス族の娘、何やら本気で惚れられたそうだな」少尉は言った。
「話しているうちになぜだか気に入られてしまったようです。理由がわからなくて困惑しています」英雄は困ったように言った。
「ホンス族はこの国の軍事をつかさどる部族だ。今は軍から外されているが、あの娘を娶ったことで、強力なホンス族の兵士たちがお前の味方になる。すべてお前が成し遂げたことなのだぞ」少尉は言った。
「王になれ、九頭。男子として生まれてきて、これ以上の本懐はないぞ」少尉は言った。
僕は冒険が大好きだ。当然王となるためには、これまで以上の冒険が待っていることが十分に予想できる。ただ、自分ひとりだったら失敗しても、自分がどうにかなるだけだが、ただ、そうすると周りの人たち、特に婚約した女の子たちを巻き込むことになるのではなかろうか、それが不安だった。
「スラーシャ姫たちに迷惑がかかるか不安なのか」少尉が言った。
英雄はびっくりしていった。「どうしてわかったのですか」
「顔に書いてあるぞ」少尉はにやにやしながら言った。
「安心しろ。いま、女湯でお前の妻たちが一緒に入って親交を温めている。そこでアプリからお前を王とする話をしているはずだ。おそらく誰も反対する者はおるまい」
「でもスラさんもマーシャも王家の姫ですよ、それを裏切るなんて思えないですが」
「ならばあとで聞いてみろ」少尉は笑いながら言った。
お風呂から出て、4人と会ったら、4人ともとても仲良くなっていた。そして、スラさん達4人から王となってくださいと言われた。
自分の中で統一王となる意識が生まれた最初の時だった。
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