第4 話の3 皇太子の野望
今週も午後6時に投稿いたします。お読みいただければ幸いです。できれば、先に投稿いたしました「英雄の冒険旅行譚」「英雄の人生探訪旅行譚」もお読みいただければありがたいです。
なんということだ、ホンス族の娘があんなに美しいなんて聞いていなかった。あの娘こそ王にふさわしい。平民などにくれてやらなくてはならないなんて、とても許せない。
なんとか私のものにしたい。しかし父上に反対され、このまま私のものにするのは難しい。どうしたらいいだろうか。私は部屋に戻ると、王宮の官僚を何人か呼びつけた。
こいつらは我々を裏切り、ティガル将軍の下でも働いていた連中だが、我々が元に戻った後もそのまま業務についていた。父上曰く官僚とはそういうもので、忠誠心を期待するなと言われた。まあ、物言う道具と考えれば腹も立つまい。私は困ったことがあると、こいつらを呼びつけて解決案を提案させていた。今回も知恵を出させて、よい方法を提案させよう。
「私はホンス族の娘を妻に迎えたい。良い案を出せ」私は官僚たちに言った。
官僚の一人が言った。「ホンス族の娘と皇太子殿下の婚約者の一人を交換されてはどうでしょうか」
私は即座に否定した。「父上がそれを認めてくださらない。父上が言うには、ホンス族は祖母の出身部族で順番的にホンス族を優遇することになる。さらにホンス族は今回の反乱の中心部族のうえ、ホンス族の娘はティガル将軍の第四夫人だったそうだ。その娘を娶るため、今回功績のあった四部族のうちの一つを追い出せば今度はその部族が反乱を起こしかねないし、他の3部族も裏切り者と同じ扱いをされたら腹を立てて王家の権威が失墜する可能性があるそうだ」
官僚たちは顔を見合わせて相談を始めた。私はいらだって「早く案を出せ。お前ら役立たずか」と怒鳴った。
官僚の一人がおずおずと言った。
「妻が四人までというのはこの国の慣習ですが、王がそれにとらわれる必要はないのではないでしょうか」
「ほう、それはどういうことか」私は聞き返した。
「王は絶対的な存在であり、法や慣習にとらわれる必要はないのではないでしょうか」
「つまり王となれば、古臭い慣習などにとらわれることなく、思うがままにふるまうことができるということか」
「その通りでごさいます。王位を継いだ暁にはホンス族の娘を妻にすることも皇太子の思うがままかと」
「そうか、それでは早く王位を譲ってもらわなくては」私は部屋を出ようとした。
「お待ちください、皇太子さま。王に王位を譲れと言っても、すぐには縦に振らないと思われます」官僚はあわてたように言った。
「それはどういうことか」私はいらだって言った。
「今の王は前例を重んじる方、慣習を大切にされる方です。まず、王位を継ぐには婚姻をなし、一人前の成人として認められる必要があります」官僚は続けていった。
「その後何年か王の補佐の仕事を行い、王位を継ぐに相応しいと王に認められないと王位を継ぐのは難しいかと思われます」
「私はすぐにでもヘイス族の娘が欲しいのだ。そんな悠長に待っていられるか」私は怒った。
官僚たちはあわてていった。「何か大きな実績を作り、それを盾に王位を譲るように促したらいかがでしようか」
「大きな実績?具体的には何だ」
官僚たちはまた、相談を始めた。私はイライラしながら待った。
「恐れながら皇太子殿下、例えばシャオイエとの統一は大きな実績かと思われます」
「シャオイエを併合するということか。攻め込んで勝てるのか?」私は尋ねた。
「シャオイエの軍備は陸軍約1万、空軍もあります。ターイエは陸軍が1万、各部族が抱える民兵が合計で2万程度、空軍はヘリが少々。装備の近代化はクーデター事件以降スズキ元帥の元で進んではおりますが、戦えばかなりの苦戦が予想されます」官僚は答えた。
「ならば意味がないではないか。お前の頭は空っぽか」私は官僚たちを叱責した。
「お待ちください。現在シャオイエは王女が二人おります。王子はおりません。おそらく第一王女が後を継ぐことになるかと思われます。その第一王女を妻にすれば、シャオイエの王位は皇太子のものになります。この案はいかがでしょうか」官僚は言った。
「ほう、いい案だな、早速私の妻にしてやることをシャオイエの第一王女に伝えよう。喜んでこの申し出を受けるに違いない」私はこの案を採用することにした。
ふと、私は思いついた。「そういえば第二王女には会ったな、小生意気な女だった。私の第四夫人では嫌だと抜かしたな。そうだ、あいつも私の妻にしよう。シャオイエの王位を完全にわがものにできるし、第七夫人ぐらいにして、あの時私の申し出を受けていればと悔しがらせよう」私は自分の頭の良さに惚れ惚れした。
「皇太子殿下、大変恐れながらスラーシャ姫とクトウヒデオの結婚式がもう間もなくなのですが」官僚の一人が恐る恐る言った。
「そうだな、それがどうした」スラーシャを政略結婚の道具として使えないことは少し惜しいが、婚約は父上の肝いりだから仕方がない。後、ヘイス族の娘は何回かあったことがあるが、別に欲しいとは思わない。そのぐらいはあいつにくれてやってもいいだろう。
「結婚式のあと、4人は婚姻関係になります。流石に人の妻を奪うのは外聞がよくないかと思われます」
私はあっと思った。それならばこの結婚は阻止しなければならない。父上に言って結婚を取りやめさせよう。「おい、この結婚は取りやめにさせる。父上に進言してくるお前ら、シャオイエに送る文書を作っておけ」そう言って、私は部屋を飛び出した。
「ふう、やっと終わったな、相変わらず無茶を言う」官僚の一人がこぼした。
「仕方がない、あれでも皇太子だ。まあ、変に有能だと我々がやりにくいから、あのくらいがいいのだよ」
「しかし、シャオイエに文書なんて送って問題にならないか」官僚の一人が言った。
「皇太子には4人の婚約者がいる。それ以上の婚姻は王はお認めにならない。この文書はあくまで皇太子が独断で出したことになる。我々は命令に従っただけだし、王国に傷もつかない。一番最悪の場合でも皇太子が廃嫡されるだけだ。まあ、それはあり得ないがな」官僚の一人が答えた。
「そうだな、ターイエとシャオイエは仲が悪いからこれぐらいの文書を送り付けたぐらいでは王も気にもされないだろうな」
「さて、シャオイエに送る文書でも作成するか。返事が来るまで時間が稼げるからな」
「皇太子はヘイス族の娘を諦められるだろうか」官僚の一人がぼやいた。
「無理だろうな。だが王は許すまい。まあ、王位を簒奪して、王位を継ぐという方法もあるが、それをやったら間違いなくスズキ元帥やクトウヒデオらが動き出す。そしてティガル将軍の二の舞になるだろう。さすがそこまで馬鹿ではあるまい」官僚の一人が言った。そして続けていった。「我々は我々の仕事をする。別に誰に仕えるわけでもない。この国を運営していくのが、我々の目的であり、存在意義だ」
もし、少しでも気になりましたら、星かブックマークをいただけますと作者はとてもうれしいです。よろしくお願いします。