第4話の2 ホンス族の娘
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「ホンス族のヴィーナ様がお見えになりました。別室でお待ちになっています」この屋敷の使用人が声をかけてきた。「ありがとうございます」そう言ってその部屋に行こうとすると、3人がついてきた。さらに護衛の兵士や、マーシャのサルパとニルパもついてきた。
大名行列だな、英雄はそう思いながら部屋に向かった。
部屋には一人の少女が待っていた。金髪で青い目、色は白く顔はまるで人形のように整っていて、すごい美少女だとは思った。ただ、大人びた雰囲気もあるけれどどう見ても14歳ぐらいしか思えない、さっきアプリちゃんからこの子の話を聞いた時、ティガル将軍が最近結婚した四番目の元妻と聞いていたが、すごく若い。
「ティガル将軍は年はいくつぐらいだったの?」英雄はスラーシャに聞いた。
「たしか、50代半ばと聞いていましたが」スラーシャは答えた。
おい、40以上も年下の子を嫁にしたのか。
英雄は声をかけた。「初めまして、九頭英雄と申します。ホンス族の方でしょうか」
「はい、ホンス族族長の娘ヴィーナと申します。クトウ准将閣下にお目に書かれて光栄です。これからあなた様にお仕えいたしますので、よろしくお願いいたします」と言って優雅に礼をした。立ってみるとスタイルもいい、民族服がとてもよく似合う美しい子だった。
まあ、微笑んではいるが、完全にビジネススマイルで特に好意は感じられない、そして英雄を値踏みするような目で見ていて、なんか気持ちが悪い。昔、友人に誘われて一度だけ参加したことのある合コンで、相手の女の子たちが男を値踏みするような目で見ていたのを思い出して、げんなりした。
それに女性との付き合いはなかったけれども、テレビやネットの動画でこのぐらいの美人は見ているし、それにスラーシャ姫やマーシャ姫やアプリちゃんは、かなりかわいい女の子だ。そういう子たちから好意を寄せられていると、この子のうわべだけの好意がよくわかる。英雄は、ビジネススマイルで返しながら言った。
「立ったままではなんなので、ソファにお座りください」向かい合わせになっているソファの片方に座るよう促した。
「ありがとうございます。それでは失礼します」微笑むと優雅に座った。
英雄も座ろうとすると、左腕に抱き着いてスラーシャが、右腕にはマーシャが、なんと膝の上にアプリが座ってきた。
「皆さんお願いしますからやめてください。とっても恥ずかしいのですが」英雄は三人に行った。
「「「でも……」」」
「すみません。でも皆さんに引っ付かれたままだと緊張して話ができません」英雄は顔を真っ赤にしながら言った。
三人はしぶしぶ間を開けて座った。
「ヴィーナさんごめんなさい。改めまして、今回はわざわざお越しいただきありがとうございます。とりあえず、婚約ということで今回は進めていきたいと思います。でも、もし好きな人がいるとか、やりたいことがあれば言ってください。ヴィーナさんの希望は叶えるよう努めたいと考えています」そう英雄は言った。
ヴィーナはけげんな顔をした。「私はヒデオ様の妻になるためにここに来たのですが」英雄は、可哀想な人だと思いながら答えた。「私もこの国の習慣について、若干ですが存じております。親や部族の有力者に言われて仕方なく来たのでしょう?そうでもなければ、あなたの元夫を追放する原因を作り、部族にとっても厄災をもたらした私に嫁いでくることはないでしょう」
「確かに族長である父に言われてここに来たのですが…」ヴィーナはしぶしぶ言った。
「大丈夫です。安心してください。あなたにとって悪いようにするつもりはありませんので。しばらく王都にいらっしゃるのですか?」英雄はにこやかに言った。
「私はヒデオ様に嫁ぐつもりで来たので、このままここで暮らすつもりなのですが」憮然とした顔でいった。
「そうですか。そういってもここは少尉殿の屋敷で……」英雄はアプリの顔を見た。
「アッ大丈夫ですよ。ひいおじい様も問題ないはずです」アプリは自信満々に言った。
「ごめんね、アプリちゃん、あとで少尉殿には僕から言っておくから」英雄は申し訳なさそうに言った。
「旦那様のお役に立てるのはアプリもうれしいです」と少し自慢げに言った。
「ヒデオ殿は自分のお屋敷はないのですか?」ヴィーナは聞いた。
「実は私はこの国に来たばかりなのです。そうか、結婚するなら新居を構えなくてはならないのか」果たしてどのぐらいするのだろうか、その前に仕事を見つけて収入を得る道を見つけなくては、と英雄は思い悩んだ。
「安心してください。私との結婚後、新しい屋敷が王から下賜されることになっています」
スラーシャはニコニコとしながら言った。
「ヒデオ、シャオイエにも家がもらえるから安心してね」マーシャが張り合うように言った。
「申し訳ありません。スラーシャ姫の顔は拝見したことがあるので存じておりますが、お二人はどなたでしょうか」ヴィーナは恐る恐る聞いてきた。
「これは失礼しました。シャオイエ王国第二皇女マーシャ・シャオイエと申します」マーシャが王族らしくあいさつした。
「私はヘイス族、スズキ元帥の孫娘で、ヘイス族長家に連なるアプリ・ヘイス・スズキと申します」アプリもきちんとした礼儀にのっとった挨拶をした。
「「私たち二人ともヒデオの婚約者です」」二人は言った。
「スラーシャ姫とヘイス族の子とは聞いていましたが、シャオイエの王家の方もとはびっくりしました」ヴィーナは言った。
「ヒデオは私の命の恩人で、父も母も姉も彼のことが気に入っているのよ」マーシャは自慢げに言った。
「すごい方なのですね」ヴィーナは感心したように言った。
「そうなのよ、わかっているじゃない」マーシャは身を乗り出して同意した。
ごほん、とスラーシャが咳ばらいをしたらマーシャはハッとなって「そうやって私を懐柔しようとしてもだめなんだからね」と言った。
「いえいえ、そんなことはありませんよ。そのうち、その話詳しく聞かせてほしいですわ」とヴィーナはにこやかに言った。
マーシャはスラーシャの方を見て、「うん、そのうちね」と言った。
「さて、ヴィーナさんはこれからどうされますか?」
英雄は聞いた。
「一度王宮にあいさつに行きたいと思います」ヴィーナは答えた。
「それがいいと思います」英雄は言った。
アプリが「王宮までご案内しますよ」とにこやかに言った。
ヴィーナは「それではお願いいたします」とにこやかに言った。ただ、目は笑っていなかった。
なんか疲れた、と英雄は思った。
ヴィーナ視点
私は昔から男の注目を集める子供だった。気持ちの悪い変な目で見られることが多く、外に出ることが苦痛だった。自分がきれいであることを自覚したのはまだ8歳のころだった。この年には男たちから結婚の申し込みが殺到していた。母に聞いたらあなたがとてもきれいだからと言われた。そのとき、そうか私はきれいなんだと自覚した。
父は結構私に甘く、結婚を無理強いしなかった。というか、嫁に出すことに積極的でなかったと言ったいい。
この国は男尊女卑の国だった。女性に自由は少ない。結婚すればなおさらだ。せめて、豊かな生活が保障され、ある程度の自由が利く生活を目指した。
なかなかいい男がいなかった。王家の皇太子に嫁ぐのは悪くないと思っていたが、王家にはすでに前王の時代にホンス族から嫁いでおり、この国の慣習では六部族から順番に正妃を取ることとなっており、各部族のバランスを考えると結婚は無理だった。王家は各部族の協調の上に成り立っているものだったから、一つの部族が続けて王妃になるのは難しかった。
そうしているうちに同じ部族のティガル将軍から結婚の申し込みがあった。彼は優秀で、ホンス族の中でもかなり有力者であった。彼は優秀なだけでなく、かなりこの国のことを憂いており、また野心にもあふれていた。
おそらく、この国を牛耳る人物になると思われたので、彼からの結婚の申し込みを受けた。
結婚した直後、彼はクーデターを起こし、この国を乗っ取った。いや乗っ取ったように見えた。
ところが一人の外国人がこのクーデターを粉砕した。それがクトウヒデオである。彼は日本軍を名乗り、ヘイス族を支配し、ティガル将軍のクーデターをひっくり返し、王家を再び王位につけた。
ティガル将軍は外国に逃げだし、彼の妻たちはみな実家に戻された。私も実家に戻った。
そのあと、王家からヘイス族に対し結婚の申し込みがあった。相手はあのクトウヒデオという。
私は父に言い、その申し込みを受けることにした。彼はとても興味を引く存在だった。変な男と結婚させられるなら、将来有望な男がいい、私の美しさならすぐに私のとりこになるだろう、王家の姫や、ましてヘイス族の娘など相手にならないと、そう思い彼に会った。
初めてだった、絶えず男たちから向けられていた好色な視線を向けられることなく、返って同情の目で見られた。話をしても私にほとんど関心がなく、形だけの婚姻で、自由にしていいよと言われた。
女性に興味がないのかと思ったが、一緒にいた三人の女の子にまとわりつかれたときの対応を見ると、三人に対して愛情を持っているように見えた。正直女性として無視され、かなりショックを受けた。
そのあと王宮に挨拶に向かった。王宮であった皇太子は顔は悪くなかったが、あとは全然ダメだった。私に好色な視線を向けると妻にしたいと言い出した。決まっている4人の妻の一人と取り換えるとのことだ。王はあわてて、皇太子を注意していた。当たり前だ、4部族のうちの一つを外すなど、その部族に対する侮辱行為そのものだ、ましてや、王家をつぶそうとした犯罪者の部族、その元妻を娶ろうなど正気ではないのは私のような小娘の頭でもわかる。
皇太子は駄々をこねたが、王に叱られしぶしぶあきらめたようだった、でも私に対して好色な目は外さなかった。
皇太子の資質に疑問を持った。これでは王家は続かないのではないかと私は思った。そうすると次の国王候補はスラーシャ姫、いやこの国で女王は難しいからクトウヒデオが王になる可能性が高い。
そして、さっき会ったシャオイエの王女はクトウヒデオにかなり強く好意を持っている様子だった。二人の王女に好かれるなんて、なんという女運の持ち主なのだろう。ひょっとすると100年前に分裂したターイエとシャオイエの統一のきっかけになるかもしれない存在だ、私はクトウヒデオをしばらく観察することにした。
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