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英雄の巻き込まれ建国譚  作者: 信礼智義
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第4 話の1 再会

毎日午後6時に投稿しています。お読みいただければ幸いです。

翌朝早くドアのノックで英雄は起こされた。ドアを開けると、アプリがヘイス族の兵数名を引き連れて立っていた。アプリは英雄の顔を見ると、優しく微笑み「ご無事だったようですね。すぐにひいおじい様の屋敷に参りましょう」と言って、英雄の手を取った。英雄はアプリに促されるまま、兵士に護衛されながら鈴木少尉の屋敷にたどり着いた。少尉の屋敷は元帥にふさわしい大きなものだったが、かなり警備が厳重で物々しい様子だった。屋敷につくと書斎のような部屋に通された。そこで鈴木少尉が迎えてくれた。「軍曹生きておったか。よかった、よかった」少尉は笑顔で言った。

「少尉殿、私は王宮に泊まっていただけなんですが」英雄はびっくりして答えた。

「何を言っとる。おまえ、いつ暗殺されても不思議はないんだぞ」少尉は言った。

「暗殺?」英雄は聞き返した。

「お前は皇太子にかなり疎まれている。なんせ彼にとって、お前は自分の王位継承を脅かす危険人物以外の何物でもないからな」鈴少尉は答えた。

「自分より国民に人気があり、この国の有力氏族であるヘイス族とホンス族の娘を妻にし、更に因縁ある隣国の王家の娘を娶る男だ。彼にとって邪魔者でしかない。王はお前を利用対象としか見ていないが、皇太子にとってお前は王位継承の強力なライバルというわけだ。暗殺を考えても不思議ではない」少尉はそう言って、微笑んだ。

「王や王妃から王宮に泊まるよう指示があったので、一泊は王宮で過ごしてもらったが、あとはこの屋敷でくつろいでくれ。あと、シャオイエの王女様もこの屋敷で預かっているぞ」鈴木少尉はそう言うと、書斎のドアを開けた。

すると、ドアからマーシャが転がり飛び込んできた。

鈴木少尉の苦笑いをしながら書斎から出ていった。

「いてて、急にドアを開けるから転んじゃったわ」その愚痴をこぼすと、マーシャは立ち上がり英雄の腕にしがみついてきた。「大丈夫だった?けがはない?」マーシャは心配そうに英雄を見上げた。

「大丈夫だよ。特に何もなかったよ」英雄は微笑みながら言った。

「ねえ、鈴木元帥殿から聞いたのだけど、英雄は命を狙われているのよね。こんな危ないところから逃げ出して、一緒にシャオイエに帰りましょう」マーシャは真剣な顔で言った。

英雄は困ってしまった。鈴木少尉から危険とは言われているけれど、今のところ何か危ない目にあったわけではないし、スラーシャ姫にも会っていない。いろいろな要因が重なって事実関係がぐちゃぐちゃになってしまっているが、とりあえず整理しなくてはと思い、マーシャに話しかけようとしたその時、ドアを開けて、スラーシャ姫がアプリと一緒に入ってきた。

スラーシャ姫は英雄に近づくと、王族としてきれいな挨拶をした。

「お久しぶりです。九頭英雄様、この度の来訪、大変うれしく思います。まもなく私との結婚の儀式も行われます。いろいろ覚えていただくこともありますので、忙しくなりますがお互い夫婦として支えあいこの国の発展に尽くしていきたいと思います」と言った後、「さて、ここからは妻としての会話ですが、ヒデオ、寂しかったです。どうして何も言わずにいなくなってしまったのですか。そのあと連絡もなく、式も迫っているのでこちらから呼びに行くところだったのですよ」スラさんは少し恨みがましい目で見て言った。

「お久しぶり、スラさん。ごめん、スラさん忙しそうだったから、挨拶しに行くのがはばかれて。あといろいろ進路のことで忙しくて」英雄はしどろもどろに答えた。

「結婚の約束をしていたのですからそんなこと気にする必要がないのに、英雄は遠慮が過ぎます」スラーシャ姫は不満そうに言った。

「さて、ヒデオ、あなたの腕に張り付いている女の子は誰なのですか」スラーシャ姫は冷たく言った。

「この子はマーシャ、シャオイエ王国の第2王女でヘイス族にある契約の箱を一緒に見に来たんだ」英雄は恐る恐る答えた。

「初めまして、スラーシャ姫ですね。私はシャオイエ王国の第2王女マーシャ、ヒデオの婚約者です」空気が凍った。

「ビデオ、アプリちゃんとホンス族の娘が側室になることは聞いていましたが、シャオイエの姫とはどういうことなのですか」

「私とヒデオはシャオイエで運命的な出会いをして、婚約に至ったのです」マーシャは自慢げに言った。

「婚約はヒデオから持ち掛けたのですか」スラーシャはまるで真冬のシベリアのような冷たい声で、聞いてきた。

「私からですわ」マーシャは少し悔しそうに言った。

この答えを聞いて、スラーシャは勝ち誇ったように「運命的な出会いでしたら、私の方が上ですわ。何せ彼に救われて国を取り戻してもらったのですから。結婚の申し込みも彼から受けましたわ」と言った。

「ええっ、僕から結婚の申し込みをしていたの?」英雄は思わず聞いてしまった。

スラーシャ姫は微笑みながら、しかし背景にゴゴゴゴゴという音が表現されるような迫力で「ええ、ヘイス族の村に行く途中、一緒に一夜を共にした時に確認しましたし、両親を助け出した時にも話をしましたよね。まさか忘れたのですか」と言った。

あの時何か婚約に関することを話しただろうか、英雄は記憶を探ったが、まったく思い当たる節がなかった。

その様子を見て、マーシャはニャァと笑うと、「スラーシャ姫、ヒデオは覚えていない様子ですね。どうしたことでしょう」とあおってきた。

スラーシャはあまりの怒りでとうとう切れた。「お黙りなさい、この泥棒猫。私の未来の夫に手を出しておいて何を言っているの。さっさと国に帰りなさい」

「なによこの勘違い女、ヒデオは私のものよ、シャオイエに連れて帰るから」マーシャも切れた。

英雄はすごく混乱していた。人生の中で女性に取り合いされる経験などなく、というか日本では全くもてなかった英雄にとって、こんな修羅場想像すらしたことがなく、そのまま凍ってしまった。

「おやめください。お二人とも」アプリが静かに、しかし力強く言った。

「スラーシャ姫、ヒデオ様とマーシャ姫の婚姻は王もお認めになっています。これをひっくり返すことはできません。マーシャ姫、ヒデオ様はこの国の英雄です。この国から奪おうとすれば、ターイエ、シャオイエの間で戦争が起こりかねませんよ」アプリはさらに続けて言った。「それに私たちは皆でヒデオを支えていく仲間なのですよ、ケンカしてどうします」

二人はうなだれて、「そのとおりね」「うん、あなたの言っていることは間違ってない」と言った。

「さて、旦那様」アプリは英雄を見て言った。

「妻同士のいさかい、主人たるあなたが仲裁しなくてどうするのですか。きちんと私たちをまとめてください」アプリはまっすぐ英雄を見て言った。

「ごめん、アプリちゃん。僕は女の子にまったく縁がなくて、ああいった時にどうすればいいか、全然経験がないんだ」英雄はすまなそうに言った。

「旦那様は日本では女性と付き合った経験はないのですか?」アプリは興味津々という感じで聞いてきた。スラーシャとマーシャも聞き耳を立てているようだった。

「うん、全然、小中高大と男女共学にもかかわらず女の子と付き合った経験どころか、普通に会話したことすらほとんどないんだ。あっ、でも女性でも母と妹とは仲が悪いわけではないので会話ぐらいするけどね」英雄は答えた。

もともと冒険好きで、時間があれば山とか遺跡とか旅をしていたし、男同士でつるむことが多く、女の子と遊んだ経験は全くなかった。

3人は顔を見合わせ、隅に行ってこそこそ話をし始めた。

「外国の男性は結婚前から女性とそういう関係になることが多いと聞いたのですが」

「シャオイエじゃ娯楽が少ないから結婚前の男女がそっちの方に走る話は結構聞くのよね」

「うちの部族では夜這いの習慣があって、男が14、5歳になると未亡人の家に行くとか聞いたことがあります」

「とりあえず、ヒデオは女の子に対する経験がぜんぜんないのね」

「悪い女に引っかかる理由が分かったわ」

「悪い女って誰ですか」

「とにかく、旦那様が女性の扱いに疎いことが分かりました。とても危険です」

「ホンス族の娘の件ね」

「彼女はホンス族でも一番の美人で性格もよく、ティガル将軍が猛烈に求めて、クーデター直前に無理やり結婚したと聞いています。未亡人となって、人妻の色気も出てきたとか」

「あっさり篭絡されそうよね」

「今日彼女はここにきて、旦那様と顔合わせすることになっています」

「「顔合わせ?」」

「旦那様の希望で、そうなりました」

「もし、ホンス族の娘に篭絡されたら」

「政治的にもいろいろ面倒なことになりますが、それよりも私たちが寂しいです」

「「わかります」」

「とりあえず3人で協力してホンス族の娘に立場を理解させなくてはなりません」

「わかったわ、しばらく休戦しましょう」

「それがいいです。三人で協力してホンス族の脅威に立ち向かいましょう」


三人は話を終えたのか、ヒデオのもとにやってきた。アプリは言った。「本日、ホンス族から旦那様の結婚相手がやってきます。お会いになるのですよね」

英雄は無理やり自分と結婚させられる女の子について、気の毒に思っていた。よりにもよって、あったこともない男、そしてホンス族にとって敵に当たる自分に嫁がされて来るなんて、なんて不幸な子なんだろう、できれば助けてあげたいと思っていた。

とりあえず、この国の仕組みは何となくだが理解しつつあった。こっちから断ってもいいが、結局別の女の子が犠牲になるだけだし、その子の部族での立場も悪くなる。

それで思いついたのが、とりあえず婚約の形でお茶を濁しておいて、折を見て自由にさせてあげようということだった。マーシャに頼んでシャオイエに受け入れてもらい、好きなことを勉強して自立できる手助けをするのもいいかもしれないと英雄は思っていた。

とりあえずあって、本人の意向を確かめようと英雄は考えた。

「ああ、ぜひ会いたい」英雄は言った。

「お会いになるとき、私たちも立ち会ってよろしいでしょうか」スラーシャは尋ねた。

「ああ構わないよ」英雄は答えた。きっと僕を守るつもりなんだろう、殺されることはないと思うけど、恨み言ぐらいは言われる覚悟はしている。スラさんやマーシャ、アプリちゃんは優しいから、と英雄は思った。


お読みいただいて、少しでも気になるようでしたら、星かブックマークをいただければ作者は感激です。

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