第2話 ターイエの王宮へ
当分の間午後6時に投稿します。お読みいただければ幸いです。
車はターイエの首都についた。町に入ると多くの群衆が道を取り囲んでいた。最初はミーシャの歓迎の催しかと思ったが、彼らは英雄の名前を叫んでいた。
「どうして僕の名前が呼ばれているのでしょうか」鈴木少尉に聞いたら、「そりゃ久しぶりの英雄の帰還だし、スラーシャ姫との結婚の件もあるしな」と言われた。
人々は英雄の名前を呼び、中にはスラーシャ姫との結婚を祝う声も聞こえた。
「ほら、手ぐらい振ってやれ」鈴木少尉に言われて、手を振ったところ、彼らの歓声はさらに大きくなった。
なんかすごく恥ずかしい、と英雄は思った。それでも必死になって手を振っているうちに王宮についた。
鈴木少尉は我々を王のいる謁見場に案内した。王宮と言ってもここは元部族会議場で王宮は英雄が破壊しており、まだ再建途上であったため、元部族会議場を仮王宮としていた。
謁見場には王と王妃と皇太子がいた。王が王座に座っており、皇太子と王妃は左右に立っていいた。
王妃は英雄を優しい目で見ていたが、皇太子は冷たい目で見ていた。
「よく来たクトウヒデオよ、スラーシャとの結婚はもうすぐだ。準備に取り掛かるといい」王はにこやかに言った。
「たいそうなパレードだったな。まだ、王族にもなっていないのに。少しはわきまえろ」皇太子は冷たく言い放った。
「あなたにあえてうれしいです。スラーシャがうらやましいですわ」
王妃が艶然としたほほえみをたたえながら言った。
なにこの状況、皇太子はすごく冷たいし、その代わりに王妃はすごく好意的だし、王は我関せずと淡々としているし、と英雄は思った。
そこにさらに爆弾が投下された。
「はじめてお目にかかります。シャオイエ王国第2皇女マーシャ・シャオイエと申します」
マーシャは礼儀正しく、しかし表情は冷たく、見下すような目で言った。
「初めてお会いする。わしはターイエ正統王家カリトフ・ターイエである」王は低い声で威厳のある態度で言った。
二人は、にらみ合ったまま、そのまま無言でいた。
いたたまれずに英雄は少尉に聞いた。「なんで、こんな状況になったのですか」
「この二つの王家は仲が良くないからな。マーシャ殿が皇女の名乗るのは王家より上だという意味だし、王が正統とつけるのはシャオイエ王家は王家を僭称しているにすぎないといっている意味だからな」鈴木少尉は小声で言った。
その時皇太子が突然言った。「初めてお会いする、マーシャ姫。とても美しいな、どうだろう私の妻にならないか。今なら第4夫人にしてもいいが」
「結構です」マーシャは間髪入れずに切って捨てた。
英雄は少尉の方を見ると「第4夫人は妻としては最下位の地位だ。他国の王女を第4夫人にするなんて普通はあり得ない。第1婦人で当然、よっぽど理由があって第2夫人というところだろう」鈴木少尉は小声で言った。
「私とクトウヒデオ殿は婚約しておりますので、ほかの殿方とはお断りしております」マーシャは言った。
「しかし、ヒデオはスラーシャと婚約しているのだが」王は少し困惑しながら言った。
「スラーシャ姫が第1婦人なのは認めております。私は第2夫人でということで納得しております」マーシャは言い放った。
「ほう、私の妹と婚約しておきながら、ほかの国の王女に手を出すとは。どういう了見かな」冷たい声で皇太子は言った。
英雄が何も答えられずにいると、王が「よいではないか、シャオイエの王女をヒデオが妻に迎えるならターイエにとって良いことなのだからな」と言った。
「ターイエにとって、シャオイエ王の娘を傍系の男の妻に迎えることは、ターイエ王家の方が立場が上だということの証明になるからな」鈴木少尉は小声で説明してくれた。
「まあ、よいではありませんか、スラーシャが第1婦人なのですから、何の問題もないでしょう。返って、スラーシャを嫁がないと我が国の英雄をシャオイエに取られてしまいますよ」王妃がニコニコと英雄を見ながら言った。
「その通りだ。王妃のいうことは正しい」王は言った。
皇太子は不満そうな顔をしていたが、「わかりました国王様、母上」と言った。
「それではスラーシャが第1婦人、マーシャ殿が第2夫人、ヘイス族の娘が第3婦人、ホンス族の娘が第4夫人とする。よいな」王が言った。
鈴木少尉に促されて、英雄は言った。「お申し出ありがたくお受けいたします。ただ、一つお願いがございます」
「これ以上何を願おうというのか。わがままもいいかげんにしろ!」王子は怒ったように言った。なんかすごく嫌われているな、と英雄は思った。
「まあ良い。願いは何だ」王は鷹揚に答えた。
「私は日本人なので、妻の年齢が低い場合、すぐに結婚というのは抵抗があります。スラーシャ姫以外の方々について、まだ年齢的に低いので、婚約という形にしていただければありがたいです」英雄は言った。
「まあ、いいだろう。ヒデオの願い聞き届けよう」王は面倒くさげに答えた。
「ヒデオは年上の方が好みなのですね」王妃はにこにこしながら言った。
そういうわけではないのですが、と思いながら、まさか王妃様、僕になにか怪しい感情を持っているわけではないだろうな、と一抹の恐怖を感じる英雄であった。
謁見場から退出したあと、視線を感じて隣を見ると、マーシャが英雄を凝視していた。
「マーシャ、どうしたんだい」英雄が訪ねた。
「ビデオ、婚約するってことは、将来結婚するのでいいのよね」マーシャは聞いた。
「まあ、マーシャも一緒に命の危機を乗り越えた友達だから好意は持っているよ。マーシャはどうなの、4人も奥さんがいて大丈夫なのかい」英雄は聞いた。
「とりあえずヒデオを誰かに渡したくないから」マーシャは言った。
「最終的に私だけのものになれば問題ないし」と小声で言った。
「なんか言った?」英雄は尋ねた。
「私もヒデオが好きよっていったの」マーシャは言った。
ビデオはびっくりした。マーシャがすごい積極的になったな、と思った。
サルパとニルパはマーシャに言った。
「国王様と王妃様の婚約の許可をもらわないと、あと姉上様にも連絡を取りませんと大変なことになります」サルパとニルパはあわてていった。
「アッ大丈夫、ヒデオのスマホを借りて、すでに連絡してあるから」「スマホですか?」
「父上も母上も大賛成してくれたし、姉上は必要があったら力を貸すから何でも言って頂戴って言っていたわ」マーシャは意気揚々と言った。
サルパとニルパは青ざめた。王と王妃様はマーシャ様の恋を単純に応援していらっしゃるからいいとして、ミーシャ様は何か恐ろしいことをお考えになっている、と子供の時からマーシャとミーシャをよく知っているサルパとニルパは身震いした。
とりあえず様子を見るしかない、二人はそう思った。
「とりあえずの目標はヒデオにとって私が一番好きな存在になることだわ」マーシャは意気盛んだった。
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