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英雄の巻き込まれ建国譚  作者: 信礼智義
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第10話の1 防衛戦と工作

毎日午後6時に投稿しています。お読みいただければありがたいです。先に投稿した「英雄の冒険旅行譚」「英雄の人生探訪旅行譚」もあわせてお読みいただければありがたいです。

 九頭英雄ユエ王国国王は鈴木少尉、ミーシャ、スラーシャと会合を行っていた。


 「敵の攻撃はタリム河で食い止めています。問題はこれからどうするかということですね」英雄は言った。


 「いま、チムル国内で少数民族たちの暴動があちこちで起きている。我々が武器を供与した元兵士も交じっており、一部では治安部隊を追い出し、独立宣言を出したところもあるようだ。問題は今後ロシアがどう出てくるかだ」鈴木は言った。その声は苦悩に満ちていた。


 「タシケント以北にはロシア人が多く居住しており、名目さえ立てば、間違いなく自国民保護を名目にロシア軍が出てくる。チムルのカドチェコフ大統領もロシアの参戦を度々要求しているようだ。停戦について話し合いを要求したところ、チムル領からの全面撤退とユエ王国の降伏を要求してきた。つまり戦争をやめる気はないわけだ」鈴木は続けた。


 「情報によると、チムル軍は無茶な動員を進めているらしい。タリム河で再攻撃を行うつもりらしい」

 「兵を無理やり集めても、戦力になるのですか?それに武器はどうするのでしょうか」九頭は驚いて聞いた。

 「武器はロシアからの供与をあてにしているのだろう。とりあえず、数をそろえて我々に対処するつもりなのだろう。戦前の日本軍も本土決戦用に人数だけそろえた師団を乱造したことがあったからな」鈴木少尉は思い出すように言った。


 「シャオイエからの募兵と物資の補給は滞りなく進んでいます。シーロンの復興も進んでいます」ミーシャは言った。


 「ターイエも同様です。ただ、戦闘により破壊された道路などのインフラや村落の復興に時間がとられています。アメリカ、日本からの援助が大変助かっています」スラーシャは言った。


 「ユエ本国はとりあえず大きな問題はなさそうだ。現在はチムル軍への対応とロシアの出方を探ることが重要だな」鈴木少尉は言った。


 「とりあえず、タリム河での陣地構築と再整備を急がせましょう。ロシアとの対応はどうしましょうか」英雄は鈴木に尋ねた。


 「ロシアとの対応だが、アメリカに頼るのも手かもしれん。アメリカはロシアとの直接対決を好まないはずだ。うまくやれば仲介してくれるかもしれん。それにロシアも西での戦争にかかりきりだ。ここでさらに南で戦端を開くのは、本意ではあるまい」鈴木少尉はそう答えた後、「さて、老骨に鞭打って、もうひとご奉公と行くか。しばらくローザを借りるぞ」と言って立ち上がった。


 「どこか行かれるのですか?」九頭は尋ねた。「インドに行って、ローザの上司と会ってくる。あと、イスラエルと中国だな。この戦争、何としてでも勝つぞ」鈴木少尉はそう言って、にやっと笑った。

 「インドのアメリカ大使館はわかりますが、イスラエルと中国はなぜですか?特に中国はティガル将軍がいます。危険です」英雄は驚いて言った。


 「イスラエルから核兵器を供与してもらえるか確認する。中国は共同戦線がはれるかどうか依頼してくる。おそらく両方とも無理だろうけどな」そう言って、鈴木少尉は笑った。


 「この訪問は、ロシアに我々が本気であることを伝えることが目的なのだ。特に中国は重要だ。ロシアと中国は同盟国だが、歴史的経緯や領土問題もあり、実は潜在的に敵対している。そこでロシアは疑心暗鬼にとらわれる。西での戦争を続けているロシアに、南でも戦端を開く余裕はほとんどないだろう。それでもプライドから南で戦端を開けば、東の中国がどう出てくるかわからない。最悪、この機会に攻め込んでくるかもしれない、そう思わせれば南で戦端を開くことを躊躇するだろう。イスラエルも同様だ。我々が核を持っていると、ロシアが疑心暗鬼を起こして、我々の行動を深読みしてくれれば、こちらの都合の良いように運ぶことになる」


 「そんなにうまくいくのでしょうか」英雄は疑問に思った。


 「やっておいいて損はないだろう。とりあえずこちらは兵員の補充と訓練、兵器の供与、陣地の構築などできることはすべてやっておけ。それでも最悪の状況になった時、九頭お前も死んでもらうことになるぞ」鈴木少尉は英雄の顔を見ながら言った。


 「王になることを了承した時からその覚悟はできています。ただ、スラーシャやミーシャたちは逃げてもらえれば……」


 「私たちもヒデオと一緒に死にます。妻たち一同、そのつもりでいます。逃げろなど言わないでください」スラーシャが決意を込めていった。


 「愛されているのう、九頭」鈴木少尉はにやにやしながら言った。そして急に真面目な顔になり、「齋藤剣からわし宛てに申し出あった。第8兵団の日本人義勇兵を中心に決死隊の編成を許可してほしいとのことだ」


 「決死隊ですか。どうして…」


 「今回のチムル戦は相当激戦だったそうだ。次も守り切れるかどうかわからない。少しでも敵の消耗を図り、戦闘継続を容易ならしめるため、トラックに大型爆弾を乗せ、敵陣に切り込み、爆発させるそうだ」


 「どうしてそんなことを。すぐに却下してください」


 「すでにわしの責任で許可を与えてある。九頭、この戦争何度も言うが、何としてでも勝たねばならない。そのためには、非道なことも行わなければならない」鈴木少尉は決意を込めていった。


 「それならば、私の責任で行います。もし使わざるを得なくなったら、私が一番に行きます」英雄は言いつのった。


 「ダメだ。王はこんなことで汚名を受けてはならない。責任はあくまでわしが取る。あと、お前は最後まで生きなくてはならぬ。死ぬときは国が亡びるときだ。その時までは生きてもらう」そして鈴木少尉は慰めるように言った。


 「九頭よ、つらい思いをさせて申し訳ない。お前を巻き込んだわしを恨んで構わんぞ」


 「いえ、少尉殿、いろいろな冒険をさせてもらい、稀有な体験もできました。少尉を恨んだりしません。ただ、私は私の冒険心という欲望のために多くの人を巻き込み、殺してしまったことを忘れることはできません。王の道は本当に血に染まったものなのですね」英雄は涙を流しながら思いを伝えた。


 鈴木少尉は九頭の肩をたたくと、「わしも頑張る。皆も頑張ってくれ」と言って部屋を出ていった。


 突然、英雄の両腕は、抱きかかえられた。スラーシャとミーシャである。二人は九頭の腕を抱えて、そのまま寝室に連れて行った。


お読みいただきありがとうございました。もし少しでも気になりましたら、星かブックマークをいただけますと作者のやる気が高まります。よろしくお願いいたします。

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