第6話の1 日本滞在
毎日午後6時に投稿しています。お読みいただければありがたいです。先に投稿した「英雄の冒険旅行譚」「英雄の人生探訪旅行譚」もお読みいただければ幸いです。
日本はかなり寒くなっていた。
「ここが日本ですか。なんというかターイエとは大違いですね」スラーシャは言った。彼女はいつもの民族服でなく、洋服を着て暖かそうなオーバーを着ていた。日本はすでに冬になっていた。アプリとヴィーナも洋服を着ていた。彼女たちも民族服ではなく洋装で防寒着を着ていたが、やや寒そうだった。
「ターイエと違ってなんか寒いですね。零下何度なのでしょうか」ヴィーナは言った。
「零下なんて行っていないと思うよ。スマホの情報だと5度だって」
アプリがびっくりして言った。「そんなに高い温度なんて思えません。測り間違いではないでしょうか」
英雄は答えた。「湿度が高いし、結構風も強いから寒く感じるんだと思うよ」
三人は納得いっていない様子だった。
とりあえず空港から列車に乗り、三人を泊めるホテルに向かった。ホテルは英雄の自宅からそう遠くないところに取れた。
初めて列車に乗る3人は興奮している様子だった。英雄は三人に切符を買ってやり、一人ずつずつ自動改札の通り方を教え、列車に案内し、無事に乗せることに成功した。
それまでに切符を通さず自動改札で引っかかったり、勝手に駅の中を進もうとしたり、間違った列車に乗ろうとしたりでいろいろ苦労があったことはお約束である。
駅から出てホテルに向かう道中も英雄は大変だった。三人ともビル群に囲まれた街並みに興味津々で、さらに面白そうなお店を見つけるとそちらに引き寄せられたり、おいしそうに食べ物を見つけると欲しそうな顔×3つに心が折れおごってあげたりして、通常の数倍の時間をかけてなんとかホテルにチェックインした。
このあと、英雄の自宅に向かい、両親や弟妹と会うことになっている。すでに連絡済みで、自宅では父母と弟妹が待っているはずだった。
三人にホテルに荷物を置いたら出発する旨伝えたところ、三人の雰囲気が突然変わった。
少しお待ちくださいと言われ、部屋から出されたので、ロビーで待つこと30分ほど、三人が現れた。三人とも民族服に身を包み、中央アジア風のアクセサリーを身に着けていた。ヴィーナは赤を基調とした民族服、アプリは黒を基調とした民族服だった。それは普段来ているものより数段凝ったものだった。そしてスラーシャは金糸をふんだんに使い、10種類の色を使用した民族服で、その豪華さは二人を上回っていた。さらに古い銀貨や貴石を使ったかなり歴史的民俗学的価値の高そうなアクセサリーをしていた。
ロビーに居合わせた人は皆三人を見ていた。
「ヒデオ、お待たせしました。さあ、行きましょう」スラーシャが英雄に言った。
「スラさんたちその恰好は…」
「義理のお父様、お母様やご兄弟に挨拶するのに一族の名に恥じない服装をするのは当たり前です」ヴィーナは答えた。
とりあえずホテルのフロントに頼んでタクシーを呼んだ。やってきたタクシーの運転手も三人の姿を見てびっくりしたようだった。しかしそこは客商売のプロ、すぐに表情を戻し、車をスタートさせた。
10分ほどで自宅についた。忘れ物がないかどうか確認した後、タクシー代に少し上乗せして払った。
自宅の呼び鈴を鳴らすとすぐに母が出てきて、三人の姿を見て凍った。「母さんただいま、婚約者を連れてきた。さあ三人とも中に入って」三人はしずしずと中に入っていった。
母親はしばらく凍っていたが、はっとなって、「遠いところよくいらっしゃいました。どうぞどうぞ」と日本語で言った。
三人とも土足で入りそうになったので、靴を脱ぐように言って、リビングに案内した。
リビングでは、父と弟、妹がいた。母も後から入ってきた。「紹介するよ、父と母、弟の勇士と妹の聖」と三人にイエ語で話し、両親兄弟たちに「この子たちは僕の婚約者、この子がスラーシャ、右どなりの子がアプリ、左側の子がヴィーナ」と日本語で説明した。
「ハジメマシテスラーシャトイイマス」「アプリです」「ヴィーナ」
家族はびっくりした様子で、黙っていた。おもむろに父が「お前、今日婚約者を連れてくると言われたが、このうちだれがお前の婚約者なんだ?」
「三人ともだよ、父さん」
「三人も嫁を貰うのか!」
「いや、もう一人いる。その子は事情があって今日は来ていない」
ツンツンと背中をつつかれた。アプリちゃんが何か言いたそうにしていた。「アプリちゃんどうしたの?」
「ひいおじい様から言われたのですが、婚約者はもう少し増えるみたいです」
「その話聞いてないけど…」
「政略のためだそうです」アプリちゃんは言った。
「ええっと、父さんどうももう一人二人増えるみたいです」
父は頭を抱えて、言った。「お前どういうことだか説明しなさい。いきなり嫁が5人も6人もいると言われても訳が分からない」
英雄もそうだろうなと思った。
「ちょっと、兄貴待ってくれ」弟が話に入ってきた。
「何?」
「兄貴たちが来ると聞いて作っておいたんだ。ユエ語と日本語の同時翻訳ソフトを入れた翻訳機。多めに作っておいてよかったよ」そう言って、マイク付きの補聴器のようなものを取り出した。
「勇士、お前が作ったのか?」英雄は驚いて聞いた。
「大したことないよ。ハードは普通の市販品だし、ソフトはネットからダウンロードして、それを少し加工しただけたしね」弟はこともなげに言った。弟は大学で情報関係の学部に通っているうえ、子供の時から手先が器用で、趣味でいろいろな機械を作ったりしており、発明品コンテストで入賞するほどの英才だった。
「ありがとう、助かるよ」弟にお礼を言い、3人に機械を渡して装着させた。
「私の話が分かりますでしょうか」スラーシャがユエ語で言うと、補聴器の本体から日本語が出てきた。
「ああよくわかりますよ、スラーシャさん」と父か言った。
スラーシャは「ヒデオ、すごい機械ですね。弟様が作られたのですか」
「大したことないですよ」弟は照れたように言った。
「すごいです。ヒデオもすごいですが、弟様もすごいのですね」感心するようにスラーシャは言った。
「さて、それでは、事情を聞かせてもらおうか」父が言った。
「事情とは何ですか」スラーシャは英雄に聞いた。
「なんで複数のお嫁さんをもらうことになったかについて、父さんから説明してくれと言われたんだ」
「それでは私から説明します」スラーシャは言った。
そして、ターイエでのクーデター未遂事件と英雄の活躍、その時結婚の約束をしたこと、アプリちゃんとヴィーナとの婚約の経緯、あともう一人のマーシャとの婚約の経緯について話をした。
そして、英雄がユエ族の王になることも話をした。
英雄の家族は黙って聞いていたが、話が終わると、父はおもむろに話し始めた。「スラーシャさんの話だと、お前はターイエと言う国で活躍して、その国のお姫様であるスラーシャさんと婚約し、さらにシャオイエという国でも活躍して別のお姫様と婚約した。さらにあちらでお世話になった鈴木昭男さんという日本人のひ孫にあたるアプリさんとも婚約し、政治上の理由で族長の娘であるヴィーナさんとも婚約したということか」
「そのとおりだよ」英雄は答えた。
「お前すごいな」父が感心したように言った。
「ところで兄ちゃん」妹の聖が聞いてきた。
「兄ちゃんのお嫁さんっていくつなの」妹は興味深そうに言った。
「私は17歳になります」スラさんは言った。
「私は14歳です」ヴィーナは答えた。
「私は12歳です」アプリは言った。
「もう一人は確か13歳か14歳です」スラさんは追加していった。
「兄ちゃん、犯罪者?ロリコン?」妹は軽蔑するように目で言った。
「犯罪者でもロリコンでもない、誰にも手を出していないぞ」
「でも結婚するんでしょ。身内にこんながいたなんて信じられない」おぞましいものを見るような目で見てきた。
その時ヴィーナが言った。「私、結婚2度目なんですが、どうして犯罪なのですか?」
妹は凍った。そしてしみじみとヴィーナの顔を見て、「めちゃくちゃ美人、お人形みたい」とつぶやいて、「結婚2度目なの?前の人はどんな人?いくつぐらい」
「軍の将軍でした。その人の第四夫人でした。確か、53歳でした」
妹は再び凍り付くと、ギギギと英雄の方を見て「兄ちゃんの言った国ってこのぐらいの年で結婚するのが普通なの?」と聞いてきた。
「男尊女卑な上に家父長制度が強くて、娘の結婚は一族の長か父親が決めることがほとんどなんだそうだ」
妹は今度はアプリの方を見て、「この子もそうやって結婚がきまったの?」と聞いてきた。
「ひいおじい様の指示もありますが、私は旦那様のことが好きです。旦那様と結婚したいです」とアプリは言った。
妹は二人を抱き寄せて、「兄ちゃん、結婚は許す。でもこの二人は義理の妹としてちゃんと子供が産める年齢まで私が守るから手を出したら承知しないからね」と言ってきた。
「わかった、わかった」英雄は答えた。
「私はいいんですか」とスラーシャはニコニコしながら聞いてきた。
妹はうーんと悩んで、「スラーシャさんは兄ちゃんのこと好きなの?」と聞いてきた。
「はい、好きです」間髪入れずにスラさんは答えた。
「うん、許す」妹が冗談ぽく言った。
「ありがとうございます。妹様」スラさんは嬉しそうに言った。
「「私達も」」「ふたりともまだだめ。もっと大人になってから」妹は二人を抱きしめながら言った。そういえば、妹は美人と可愛いものが好きだったよな、といまさらながら思い出した。
そのまま妹は、二人を部屋に連れて行った。後で部屋の前を通ると何やら騒がしかったので、女同士で話が盛り上がっていたのだろう。
挨拶も終わり、夕飯を食べて行けという母の意見に逆らえずみんなで夕飯を食べて、ホテルに戻った。
英雄はそのまま自宅に戻ろうと考えていたが、みんなから引き止められ、結局泊ることになった。
そのことを自宅に電話すると妹の聖がやってきて、「見張りするから」と言って、泊っていった。
翌朝、妹はベッドを二つつなげてタプルベッド化して、アプリとヴィーナに挟まれて満足そうな顔をして寝ていた。
聖は翌日も自分の友達を呼んできて、3人に観光と称して連れまわした。3人に迷惑じゃないか聞いたが、女同士で遊ぶのは楽しいそうで、苦ではないとのこと。
なので、英雄は妹に3人のことは任せて、たまに付き合うほかは、大学へ行って教授とレポートについて話をしたり、旧友と会ったりしていた。
「英雄先輩、久しぶり」いつもつるんでいた後輩にもあった。彼は一つ下の後輩で、名前を齋藤剣といった。身長が180㎝以上あり、ガタイがよく中学高校と柔道をやっていたやつで、小学校の時からから付き合いがあった。弟とも仲が良く、3人でよく遊んでいた。
「やあ、元気だったかい」英雄は答えた。
「めちゃくちゃ元気です。先輩、勇士に聞いたのですが、すごく活躍しているって」
「そんな大したことはないよ。齋藤は今何をやっているんだ」
「ええ、先輩の影響で、自分も中央アジアの言葉を勉強して、そっちの関係に進もうと思っています」
「でもあちらの言葉ができても就職口は難しいよ」英雄は心配そうに言った。
「先輩、私の勉強しているのは、中央アジアで一番使われているチムル語ですよ。ロシア語もかじっているし、なんとかなると思っています」
「チムル語か。ユエ語じゃないのか」
「ユエ語はユエ族しか使っていない言語でチムル語とも違う独特の言語で、ある意味つぶしが利かないですもの。先輩こそどうして、ユエ語を勉強したのですか?」
「初めて聞いた時、なんかひらめくものがあってな」
「そうだ、先輩、お願いがあります」
「どうした?」
「先輩、自分も一緒にターイエに連れて行ってください。先輩の部下として働きたいです」剣は目を輝かせて言った。
「おまえ、危険だし、見も知らない外国なんだぞ。ユエ語できないじゃないか?」
「確かにユエ語はできません。でも勉強します。子供の時のように先輩と一緒に冒険がしたいんです」剣は言った。
「子供のころ、いろいろ冒険しましたよね。いろいろありましたが、すごい楽しかったです。大人になってもう卒業だと思っていたのですが、勇士から聞いて、すごい大冒険をして、美人の嫁さんまでもらったとか。俺もそんな冒険がしてみたい」真剣な顔で言った。
そういえばこいつと一緒になっていろいろ無茶したっけ。
「あちらでお世話になっている鈴木昭男少尉に聞いておくよ。勇士から聞いていると思うけど、僕は日本軍軍曹として、少尉の指揮下にある。剣も部下にしてもらえるか聞いてみるけど、期待するなよ」「先輩ありがとうございます。よろしくお願いします」
そうやって何日か過ごしていたところ、鈴木少尉から連絡があった。
お読みいただきありがとうございました。もし少しでも気になりましたら、星かブックマークをいただけますと作者のやる気が高まります。どうぞよろしくお願いいたします。