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七ヶ月目

 七ヶ月目にして、役人は回りくどい方法をとることを諦めていた。

 ぬるぬるぬるぬる躱されるのである。


 そうした訳で、二人でだらだらテレビを見ながら言葉を交わす。

 男はちょうど在宅ワークを終えたところである。役人はいまも監視の仕事中だ。

 ひび割れた画面の中で、ドラキュラに美女が喰い殺されている。クライマックスだ。


「どうしてウチの上司に狙われるようになったんです? チワワみたいな人なのに」


 ビールをぐい、と呷って役人が尋ねる。

 顔も向けずに男が返事をする。


「ちょっと、今いいところなんだけど」

「この先、美女の彼氏が現れて、すんでのところで彼女は助かるんですよ。逆にドラキュラは銀の弾丸でミンチです」

「あ! ネタバレ禁止!」


 耳を両手で塞ぐ男を横目に、役人はぐびぐびビールを流し込む。

 肴がうまい。

 やや時間が経ったのち、恨めしそうな顔をしつつも、超能力男は事の顛末を話し始めた。


「いやさ、実は総理の」

「総理?」

「この国の権力のトップにいる人の事だよ」

「知ってますよ」

「で、総理のご息女がそれはもう美しい方だと聞いて…、」


 なんとなく話の先が分かった役人は顔をしかめた。


「クソですね」

「ちがうんだよ。逢いに行ったはいいものの、これはどうも気が合わないとこっちは尻込みしたんだ。ところが向こうに粉をかけられてしまって。どうにか穏便に断ろうとしたが、結局すったもんだの大騒動。しまいには、あちらの娘さんが俺に心臓を取られたなどと騒ぎ立てたもんだ。それ以外にも色々心当たりはあるけど、きっと決定的なのはこれだね。私怨だな」

「取ったんですか、最低。女の敵」

「取ってないよ。俺の心臓に誓ってもいい」

「分かりました。ください」


 勝ちを確信している役人が頷く。


「あのさ、君は心臓を渡しても、すぐに上司のところに持っていくんだろう? 心を売り飛ばすだなんてひどいなあ」

「貰ったものはそれがゴミであろうと私のものなので、どうしようととやかく言われる筋合いはありません。早くください」

「だから、してないってば」


 すげなくされて眉根を下げた男が、ふと首を傾げて呟いた。


「でもさ、MRIで本当に心臓を取られたか確認する事になったんだけど、結局、ほんとうに無かったんだよね。どこに行っちゃったんだろう、不思議だなあ」

「不思議だなあで済ませられる貴方がこわい」


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