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一ヶ月目

 この世界には超能力を使える者、いわゆる超能力者たちがいる。

 彼らは、千里眼や瞬間移動ほか、さまざまな能力を有するが、それはこの話に関係ないので割愛する。

 

「はあん、君が新しい使用人ね。どうぞよろしく」


 慇懃無礼。

 その言葉を体現するかのように、ソファに寝転がったまま挨拶をするこの男も超能力者だ。

 人の心を盗む能力を持っている。ついでにそれを文字通り、どこにでも、好きなところに隠す事もできるらしい。

 心臓を取られたら、最後、彼に従うしかない。

 従わないとソレを握りつぶされるからである。

 厄介なこの男を亡き者にしようと大小さまざまな暗殺者が送り込まれたが、アイロン、バット、銃弾そのほか諸々諸々の武器はなぜか効かない。


「使用人ではありませんが、どうぞよろしくお願いします」


 きっちりとスーツを着こなし、ピシリと背を伸ばす彼女は国家の犬だ。どこの省庁に属しているとかは、特にこの話に関係がない。命じられれば秘書業でも荒事でもなんでもこなす役人だ。超能力はないけど、けっこうすごい。

 朝から晩まであくせく働くのが生きがいで、趣味は通帳の残高を見る事である。

 超能力男に頭を下げる理由は、顔を真っ青にした上司から「あの男の弱みをなんでもいいから探し出せ」と命じられて、男の屋敷に住み込むことになったからである。


「そうなの? 側に置くのを許す代わりに、なにをさせてもいいって言われたけど」

「使用人ではなく、監視員です。お望みなら家事もしますが」

「ならいいじゃん。働いてたらそのうち俺の弱点も見つかるかもよ。スパイしにきたんでしょ? 俺のこと」


 いたずら小僧の眼差しで、超能力男がじっと役人を見つめる。

 彼女は淡々とその視線を受け止め、答えた。


「はいそうです。あなたの弱みはなんですか?」


 女はどうしようもなく正直者だった。

 そういう性分なのだ。嘘をつくのが面倒だったというわけでは、決して、決してない。

 男は大きな灰色がかった目を瞬かせる。

 それから、体を起こして、自身の膝の上に肘をつき、顎をその手の上に載せた。


「それ、聞いちゃう?」

「ええ、探ってこいと言われたもので」

「え、まじ? うっそ、そうかあ」


 男はくすくす笑うと、猫のように目を細めてからかった。


「この世界のどこかに、俺の大事な人の心臓を隠しているんだ。それをだれかに取られたら、俺はもう、言いなりになるしかないね」


 間髪入れずに役人は尋ねる。


「どこですか?」

「それは教えない」

「どうして」

「答えを教えちゃつまんないだろ」


 超能力男は話をしながら、なにかとびきり面白いアイデアでも思いついたのか、ほくほくした顔をし、宣言した。


「ようし、ゲームをしよう」

「はあ」


 直立不動の無感動な返事である。


「一年以内にその心臓を見つけられたら、君の勝ち。俺は君たちの奴隷にでもなってタダ働きしてやるよ」


 大事な人の心臓って言ってなかっただろうか、役人は首をひねる。


「見つからなかったら?」


 彼女の質問に男は顔を輝かせた。


「君の心臓をとっちゃうぞ!」


 こうして、一方的、かつ強制的なゲームがはじまった。


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