(5)
午後じゅう探して、空が半分夜になるころ、ぼくはあの庭を見つけた。
ぴかぴかの銀色のへいに囲まれた工事現場。
バラもふん水もレンガの道も、四角い家のあとも、何から何まで掘り返されて、ぺたんこの茶色い地面に変わってた。
猫チョウはいなかった。あいつどころか、チョウなんて一匹も飛んでなかった。
動いてないダンプカーと、片付け忘れたみたいな看板が一つ。
書いてあった工事のおしまいの日は、昨日だった。
看板の字が見えなくなるまでそこにいて、お父さんに連れ戻された。さんざん怒られて、部屋に押し込められて。
だから、ぼくにはもう分かってた。
――アキト。
秘密の庭で、チョウの羽をはやしたコハルがしゃべった。
ぼくにはもう、これが夢だって分かってた。
「ねぇハル君。……なんで?」
――ごめん、アキト。
ハル君はもう、戻ってこないんだって分かってた。
「なんで、言ってくれなかったの?」
なんで死んじゃったの? なんて聞きたくなかった。
――二人で見ようよって、言いたかったから。
いつもと同じ、笑ったハル君の声。
コハルの羽が、目の中でバターみたいにとけた。
***
――元気になって、自分の声でちゃんと言いたかった。宝物見つけたよって、二人で見ようって言いたかった。きっと言えるって、おれが思ってたかったから。
首を振った。もっと見えなくなるのに振った。
『見せたかった』『言いたかった』『思ってたかった』――全部昔のことみたいだった。バイバイのしっぽみたいだった。
――チョウの羽は、たましいを運ぶんだって。コハルにたのんで、いっしょに乗せてもらったんだ。どうしてもアキトに見せたくて。
バター色の羽も、黒い毛皮もにじんでとけて、大きな地図に浮かぶ島になった。
ばか。ハル君のばかやろう。引っ越すなんて笑ってウソついて、何にも教えてくれないで、一人で死んじゃったんじゃないか。くやしくて悲しくて、ありったけぶつけてやりたかったけど、もう見えなかったしさわれなかった。
そででぐしぐし目をぬぐった。ぬぐうたび、地図ははしっこからチョウになって、空へひらひら飛んで行った。
「見れたよ!」
それしか言えなかった。
「宝物はあったよ!……いつかぜったい、もう一回二人で見よう!」
最後は『にゃうん』にも「うん」にも聞こえた。
チョウの群れが空に道を作った。ぼくは全力で手を振った。
羽を広げた猫チョウが、チョウの道を渡って行った。