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 午後じゅう探して、空が半分夜になるころ、ぼくはあの庭を見つけた。

 ぴかぴかの銀色のへいに囲まれた工事現場。

 バラもふん水もレンガの道も、四角い家のあとも、何から何まで掘り返されて、ぺたんこの茶色い地面に変わってた。

 猫チョウはいなかった。あいつどころか、チョウなんて一匹も飛んでなかった。

 動いてないダンプカーと、片付け忘れたみたいな看板が一つ。

 書いてあった工事のおしまいの日は、昨日だった。



 看板の字が見えなくなるまでそこにいて、お父さんに連れ戻された。さんざん怒られて、部屋に押し込められて。

 だから、ぼくにはもう分かってた。


 ――アキト。

 秘密の庭で、チョウの羽をはやしたコハルがしゃべった。

 ぼくにはもう、これが夢だって分かってた。

「ねぇハル君。……なんで?」

 ――ごめん、アキト。

 ハル君はもう、戻ってこないんだって分かってた。

「なんで、言ってくれなかったの?」

 なんで死んじゃったの? なんて聞きたくなかった。


 ――二人で見ようよって、言いたかったから。

 いつもと同じ、笑ったハル君の声。

 コハルの羽が、目の中でバターみたいにとけた。


 ***


 ――元気になって、自分の声でちゃんと言いたかった。宝物見つけたよって、二人で見ようって言いたかった。きっと言えるって、おれが思ってたかったから。

 首を振った。もっと見えなくなるのに振った。

『見せたかった』『言いたかった』『思ってたかった』――全部昔のことみたいだった。バイバイのしっぽみたいだった。

 ――チョウの羽は、たましいを運ぶんだって。コハルにたのんで、いっしょに乗せてもらったんだ。どうしてもアキトに見せたくて。

 バター色の羽も、黒い毛皮もにじんでとけて、大きな地図に浮かぶ島になった。

 ばか。ハル君のばかやろう。引っ越すなんて笑ってウソついて、何にも教えてくれないで、一人で死んじゃったんじゃないか。くやしくて悲しくて、ありったけぶつけてやりたかったけど、もう見えなかったしさわれなかった。

 そででぐしぐし目をぬぐった。ぬぐうたび、地図ははしっこからチョウになって、空へひらひら飛んで行った。


「見れたよ!」

 それしか言えなかった。

「宝物はあったよ!……いつかぜったい、もう一回二人で見よう!」


 最後は『にゃうん』にも「うん」にも聞こえた。

 チョウの群れが空に道を作った。ぼくは全力で手を振った。

 羽を広げた猫チョウが、チョウの道を渡って行った。

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