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 おそうしきの後、ぼくはまっすぐ帰りたかった。

 遠くからいらして下さって。そう言ってハル君の家に引き留められたけど、早く帰って、あの庭を探したかった。

「アキト君、とつぜんでごめんなさい。びっくりしたわね」

 答えないで横向いてたら、お母さんに耳を引っぱられた。

「これ、アキト!」

「……いいんです。アキト君のおかげで、あの子がどんなに救われたか。うちのハルと仲良くしてくれて、本当にありがとう」

 あいさつしてる場合じゃない。だってこんなのウソだから。

 ハル君はここにいないし死んでもない。早く庭を探さなきゃ、それでハル君を元に戻すんだ。

ハル君は秘密のチョウドウを通って猫チョウになった。ぼくが帰れたんだから、まだ間に合う。ぜったい間に合うはずなんだ。


「にゃう~ぅ」

 猫チョウの声。すぐ近く。

「ハル君!?」

 ごろごろのどが鳴る。ハル君のお母さんの持った写真が鳴いてる。

「あぁ、これね」

 ハル君のお母さんが、写真をぼくに見せてくれた。猫チョウの声は、ぼく以外には聞こえないみたいだ。

「入院前に撮った最後の写真よ」

 パジャマを着たハル君が、ベッドに座ってる写真。『病気』って言葉が、むねのおくにつっかえた。

 いつもの笑顔の、少しやせたハル君は、黒猫を一匹抱えてた。


 ***


 家に帰って、着替えもそこそこに探した。


「あぁその子ね、ハルのきょうだいなの」

 どこからどこまで夢だったか分からない。でも、猫チョウはいたんだ。

「名前はコハル。ハルが生まれた年うちに来て、いっしょに大きくなって。双子のきょうだいなんだって、ハルがいつも言ってた」

 ぼくはコハルに会った。コハルがあの庭に連れてってくれた。だからハル君も庭にいる。

 学校の校庭、通学路の畑や原っぱ、公園の花だん、チョウが飛んでそうな所を片っぱしから回る。

 まだ行ってない道、知らない家、見たことない場所。あの庭につながる秘密のチョウドウが、探せばきっとある。


「先月の初め、ハルよりちょっと先に。……ハルには言えなかったけど。向こうで待っててくれて、またいっしょに遊んでると思うわ」

 向こうじゃない。だってぼくは見たんだ。一回行けたんだから、きっともう一回行ける。


 ――アキトに見せたかったんだ。

 ちゃんと見れたよハル君。だから、次は二人で見よう。

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