(4)
おそうしきの後、ぼくはまっすぐ帰りたかった。
遠くからいらして下さって。そう言ってハル君の家に引き留められたけど、早く帰って、あの庭を探したかった。
「アキト君、とつぜんでごめんなさい。びっくりしたわね」
答えないで横向いてたら、お母さんに耳を引っぱられた。
「これ、アキト!」
「……いいんです。アキト君のおかげで、あの子がどんなに救われたか。うちのハルと仲良くしてくれて、本当にありがとう」
あいさつしてる場合じゃない。だってこんなのウソだから。
ハル君はここにいないし死んでもない。早く庭を探さなきゃ、それでハル君を元に戻すんだ。
ハル君は秘密のチョウドウを通って猫チョウになった。ぼくが帰れたんだから、まだ間に合う。ぜったい間に合うはずなんだ。
「にゃう~ぅ」
猫チョウの声。すぐ近く。
「ハル君!?」
ごろごろのどが鳴る。ハル君のお母さんの持った写真が鳴いてる。
「あぁ、これね」
ハル君のお母さんが、写真をぼくに見せてくれた。猫チョウの声は、ぼく以外には聞こえないみたいだ。
「入院前に撮った最後の写真よ」
パジャマを着たハル君が、ベッドに座ってる写真。『病気』って言葉が、むねのおくにつっかえた。
いつもの笑顔の、少しやせたハル君は、黒猫を一匹抱えてた。
***
家に帰って、着替えもそこそこに探した。
「あぁその子ね、ハルのきょうだいなの」
どこからどこまで夢だったか分からない。でも、猫チョウはいたんだ。
「名前はコハル。ハルが生まれた年うちに来て、いっしょに大きくなって。双子のきょうだいなんだって、ハルがいつも言ってた」
ぼくはコハルに会った。コハルがあの庭に連れてってくれた。だからハル君も庭にいる。
学校の校庭、通学路の畑や原っぱ、公園の花だん、チョウが飛んでそうな所を片っぱしから回る。
まだ行ってない道、知らない家、見たことない場所。あの庭につながる秘密のチョウドウが、探せばきっとある。
「先月の初め、ハルよりちょっと先に。……ハルには言えなかったけど。向こうで待っててくれて、またいっしょに遊んでると思うわ」
向こうじゃない。だってぼくは見たんだ。一回行けたんだから、きっともう一回行ける。
――アキトに見せたかったんだ。
ちゃんと見れたよハル君。だから、次は二人で見よう。