(3)
猫チョウが本物の猫になった。
頭がこんがらがって、どこにびっくりすればいいか分からない。チョウが猫になったのか、元々猫だったのか、分からないけどそいつは猫だった。顔だけじゃなく全身猫で、羽も触覚もはえてなかった。
「にゃ~う」
猫に寄ってこられて、ぼくは下がった。こいつは化け猫なんだ。さわったりしたら、引っかかれるだけじゃすまないかも。ここに連れてこられたみたいに、もっと別のところへ飛ばされるかも知れない。
ポケットからスマホが落ちた。黒猫はぴんと耳を立て、猫背をもっと丸めて、転がったスマホのにおいをかいだ。しっぽがハテナになる。
「か、返せよ……!」
スマホを取り返した。今度は引っかかれずにすんだ。見上げる目はチョウの羽と同じ、白っぽい黄色。バターなのはフンより羽の色だと思った。
「なぁ、なんで連れてきたの?」
答えずに、猫はくるんとお尻を向けた。ぼくの手をしっぽがなでた。
――アキトに見せたかったんだ。
頭の中に声がひびく。
「ハル君?」
今の声。まちがいない、ハル君だ。
「どこにいるの、ハル君!?」
黒猫のしっぽがバイバイみたいに振れた。
「……待って!」
トンと足が空をふんで、宙返りでチョウに戻った。
目が覚めた。
ぼくは自分の部屋で寝てた。
遠くに電話の音が聞こえた。
***
目が覚めたつもりで、本当はまだ寝てるのかも知れない。そう思いながら、ぼくはだまって前を向いてた。
寝てるんだったら早く覚めないと。いすの影で足をつねったり、ぎゅっと手をにぎったりしてみたけど、痛いだけで何も変わらなかった。
白い花畑に、黒いチョウが飛んでるみたいだった。
おじぎして、手を合わせて入れ替わってく黒い服。もうじきぼくも行かなきゃならない。
となりに座ったスカートが動いて、ぼくもいっしょに席を立った。
ひらひら、ひらひら。チョウの羽そっくりだ。一番前まで来て、黒いチョウは二匹になった。ぼくのお母さんと、ハル君のお母さん。おじぎして手を合わせて、頭を上げる。
白一色の花畑で、ハル君が笑ってる。黒いふちの写真は、猫チョウの羽にちょっと似てた。
でも違うんだ。席に戻るまで思ってた。ハル君は猫チョウになって飛んでった。こんなところにいるわけない。
「チョウの羽は宝の地図なんだ」
だって、いつも笑ってた。
ずっと病気だったって、入院してたなんてウソだ。
引っ越し先は教えてくれなかったけど、声もLINEも届いた。スマホさえあればつながってられた。
最近はちょっと返信がおそかったけど。前にしゃべってくれたのが、何か月前だったか忘れたけど。でも、ちゃんと答えてくれてたんだから。
だから昨日の電話もウソ。
ねぇハル君。今どこを飛んでるの? 帰ってきて、また前みたいに答えてよ。
――死んじゃったなんて、絶対ウソだよね?
写真のハル君は笑ったままで、やっぱり答えは教えてくれなかった。