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 猫チョウが本物の猫になった。

 頭がこんがらがって、どこにびっくりすればいいか分からない。チョウが猫になったのか、元々猫だったのか、分からないけどそいつは猫だった。顔だけじゃなく全身猫で、羽も触覚もはえてなかった。

「にゃ~う」

 猫に寄ってこられて、ぼくは下がった。こいつは化け猫なんだ。さわったりしたら、引っかかれるだけじゃすまないかも。ここに連れてこられたみたいに、もっと別のところへ飛ばされるかも知れない。

 ポケットからスマホが落ちた。黒猫はぴんと耳を立て、猫背をもっと丸めて、転がったスマホのにおいをかいだ。しっぽがハテナになる。

「か、返せよ……!」

 スマホを取り返した。今度は引っかかれずにすんだ。見上げる目はチョウの羽と同じ、白っぽい黄色。バターなのはフンより羽の色だと思った。

「なぁ、なんで連れてきたの?」

 答えずに、猫はくるんとお尻を向けた。ぼくの手をしっぽがなでた。


 ――アキトに見せたかったんだ。

 頭の中に声がひびく。

「ハル君?」

 今の声。まちがいない、ハル君だ。

「どこにいるの、ハル君!?」

 黒猫のしっぽがバイバイみたいに振れた。

「……待って!」

 トンと足が空をふんで、宙返りでチョウに戻った。



 目が覚めた。

 ぼくは自分の部屋で寝てた。

 遠くに電話の音が聞こえた。


 ***


 目が覚めたつもりで、本当はまだ寝てるのかも知れない。そう思いながら、ぼくはだまって前を向いてた。

 寝てるんだったら早く覚めないと。いすの影で足をつねったり、ぎゅっと手をにぎったりしてみたけど、痛いだけで何も変わらなかった。


 白い花畑に、黒いチョウが飛んでるみたいだった。

 おじぎして、手を合わせて入れ替わってく黒い服。もうじきぼくも行かなきゃならない。

 となりに座ったスカートが動いて、ぼくもいっしょに席を立った。

 ひらひら、ひらひら。チョウの羽そっくりだ。一番前まで来て、黒いチョウは二匹になった。ぼくのお母さんと、ハル君のお母さん。おじぎして手を合わせて、頭を上げる。

 白一色の花畑で、ハル君が笑ってる。黒いふちの写真は、猫チョウの羽にちょっと似てた。

 でも違うんだ。席に戻るまで思ってた。ハル君は猫チョウになって飛んでった。こんなところにいるわけない。


「チョウの羽は宝の地図なんだ」

 だって、いつも笑ってた。

 ずっと病気だったって、入院してたなんてウソだ。

 引っ越し先は教えてくれなかったけど、声もLINEも届いた。スマホさえあればつながってられた。

 最近はちょっと返信がおそかったけど。前にしゃべってくれたのが、何か月前だったか忘れたけど。でも、ちゃんと答えてくれてたんだから。

 だから昨日の電話もウソ。

 ねぇハル君。今どこを飛んでるの? 帰ってきて、また前みたいに答えてよ。

 ――死んじゃったなんて、絶対ウソだよね?


 写真のハル君は笑ったままで、やっぱり答えは教えてくれなかった。

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