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元帥と私  作者: たいすん
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序章

 「君は姉萌えか?それとも妹萌えか?」

 「は?」 

 「だから、君は妹と姉のどちらに萌えるのかと聞いているんだ」

 「何ですか急に。そんなことより仕事をしてください、仕事を。」

 「何を言っているるんだ、クラウス君。部下の性癖を把握するのは上司として必要なことだぞ。それに、君が夜な夜な私のことをどんな風に想像し、無茶苦茶にしているかとても興味がある。さあ、君のそのどす黒く淫らな妄想を私に教えてくれ!」

 「アホかああああ!」

 

 ここはマイレーン王国元帥府。王国軍を司る重要な施設であり、国防の中枢である。外観は誰もが息を呑むような荘厳な建物であり来るものを威圧するような迫力があるが、しかし逆に内部はいたって簡素な造りになっており初めて訪れたものは外と内との差の激しさに驚くものが多い。この元帥府内にある執政室に一人の女性がいる。椅子に寝そべり、足を机の上に投げ出し、お世辞にも行儀が良いとはいえない姿勢で意味不明なことを言う、この人こそ王国唯一の元帥であるリリカ・グリーデン将軍でありクラウス・バーグ少尉はその側近である。

「まったく、たまにはまじめに仕事をしてください。いくらわが国が平和だからと言って将軍がそんな様子だと兵士の指揮に関わります」

「なに、軍人なんてものは暇なほうが良いんだよ。私は戦争なんかより、君のその服の上から見えるお尻のラインを眺めているほうがよほど楽しいし興奮するよ」

「馬鹿なことを言わないでください。それにそれは男性が女性に言うようなものであって、この場合将軍は言われる側でしょう?」

 「なんと!クラウス君は私の肢体に興奮してくれるのかね!これは良い、さあ私の胸に飛び込んでくるんだ」

 「だれが飛び込むかっ!」

 「尻でもいいぞ?」

 「黙れよ!」

 彼女リリカ・グリーデンは性格に難があるものの、容姿は非常に優れている。整った顔立ち、スラリとした長身に、腰まで伸びた艶やかな黒髪、細身でありながら鍛えられたその体は女神の彫刻のようであり、服からはちきれんばかりの胸がより彼女の女性としての魅力を際立たせている。このように男性なら誰もが目を奪われるような美貌をもっているが、評判はあまりよくない。なぜならこの国は平和だからだ。

 マイレーン王国は現国王ヨセフ3世の代になってから政策を一転、他国との関わりを最小限にし消極的な外交政策を行っていた。自国の内政を重視するといえば聞こえは良いが、要は他国との問題に極力関わらないようにしているだけであり、また肝心の内政も増税や民に重い労役を課すといった政策がとられ、民の間では国王は暗君であると、まことしやかにささやかれている。また、他国から余計な警戒をされないよう、軍を大幅に縮小。名だたる将軍をほとんど免職していき、残ったのはすでに第一線から身を引いていた老将と実戦経験の無い若い将校達だけとなっていた。そして、軍の最高指揮官には、若く実績も無いしかも女性であるリリカ・グリーデン将軍をお飾りとして任命した。結果、民のみならず軍内にもリリカ・グリーデンを非難する声が多く、余計な摩擦を生み、そのことでクラウス・バーグ少尉の仕事が増えることになっているのである。

「それにしても将軍」

「私のことはお姉さまと呼べ」

「うるせえよ!」

「何?さては妹派か?」

「だからうるせえって!」

「クラウスおにいちゃん」

「キモいからやめろ!」

「なんだクラウス君、上官に向かってその口の聞き方は無いだろう」

「あんたが変なこと言うからだ!」

「変なとは聞き捨てならんな。昔は私のことをリリカお姉ちゃんと呼んで、あんなに懐いていたじゃないか……。そうか、時の流れとは残酷なものだな」

「あんたと知り合ったのは去年が初めだ!適当なこと言うな!」

「で、何の話だクラウスおにいちゃん」

「だからっ!ああ、もういいですよ。この国の今の状況のことです。将軍は不安じゃないんですか?今の軍備じゃ他国に攻められると一たまりもありませんよ?」

「最高指揮官がド変態だしな」

「自分で言わないでください!将軍は危機感ってものが無いんですか?いまでこそ周りの国とは大きな揉め事はないですけど、いつ状況が変わるかわからないんです!不意をつかれてわが国が襲われるかもしれないんですよ」

「私は君を襲いたいぞ!」

「何の話だ!」

「上に乗るのが好みだが?」

「聞いてねえよ!」

「まあ、マジ話はさておき」

「冗談にしてください!」

「私は現状で満足してるよ。他国と戦もなければ諍いもない。民衆の間では不評のようだが、陛下はよくやっておられると思う。軍を縮小するのも国内産業を発展させるという意味では間違っていないしな。労役も道路の整備や運河の治水など後々民に恩恵が返ってくるものだ。増税で得た資金もそれに使っているようだし。陛下が名君かどうかは私には判断できないが、少なくとも陛下なりに民のことを考えてやっていることだとおもうよ」

「それは、確かにそうですけど……」

「もし何かあったときはその時考えれば良いことだよ。起こってもいないことで悩むことほど愚かなことはない」

「そういうもの、でしょうか」

「そういうものだよ」

「……それでも、やはり、私は将軍ほど冷静にはなれそうにありません。しかし、将軍も大事なところはちゃんと見ているのですね。いつもボーっとしているだけだと思っていました。見直しましたよ」

「フン、当たり前だろう、私は元帥なのだからな。だからクラウス君、今晩私の寝室の鍵は開けておくからいつでもきてくれていいぞ?」

「もうあんたしゃべんなよ!」




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