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1 戦略機動歩兵隊所属レイン・ウォーカー

「戦略機動歩兵隊所属レイン・ウォーカーだ。よろしく頼む、司令」


 ノヴァアーク司令の招集(ガチャ)に応えて呼び出された俺は、目の前にいる司令に笑顔で挨拶した。

 第一印象は大切だ。

 これからの戦いで、命を預けることになる司令とは、良好な関係を築いていきたい。


 ……なのだけど、俺の目の前にいる司令は、愕然とした表情で地面に両膝を着いていた。


「どうして、どうして!

 よりにもよって初回無料ガチャの中から、レイナちゃんでなく、野郎が出てくるんだ!」


 司令が絶叫した。



「えっ、どういう事?」


 招集されたばかりで、俺は全く状況が理解できない。

 もしかして俺、まずいことでもしたのか?


 そう思っていると、司令の隣にいる黄色の髪をした女性が、優しく司令に語り掛けた。


「ハイハイ、残念でしたね、司令。司令は女の子がよかったんですね。

 でもいいじゃないですか、私がいるんですから。そこまで落ち込まないでください」

「キ、キアラちゃーん」

「キャンッ」


 秘書のキアラさん。

 彼女が司令の頭をよしよし撫でると、励まされた司令が、いきなりキアラさんのオッパイを両手で鷲掴みにした。



「ええっ!」


 いきなり何やってるんだ、司令。犯罪だろう!


「ダメですよ、司令。まだお昼ですから。こういうことは勤務時間が終わってから。日が暮れてからにしましょう」

「そう言うなよ、俺とキアラちゃんの仲なんだ、これからエッチいことを……」

「ダメです!」


 司令がキアラさんを押し倒そうとしたけど、キアラさんが分厚いプラスチック製ファイルで、司令の頭を攻撃した。


 ガンッ!

 て音がした。


「ゲフッ」


 両手で頭を押さえて蹲る司令。

 物凄く痛そうだ。

 手加減をまったくしてない。


「キ、キアラちゃんのケチ」

「司令が見境なく襲い掛かってくるのがいけないんです。もちろん、夜ならいいですよ」

「キ、キアラちゃん。愛してるぞー」


 キアラさんがデレてる。


 これをデレと言っていいのかは微妙だけど、そんな姿を見た司令が、再びキアラさんに飛びつこうとした。

 けど、キアラさんが一歩後退すると、司令はキアラさんに抱きつけず、かわりに顔から地面にダイブしてしまう。


 受け身を取らず、ピクリとも動かなくなる司令。



 ……

 なんだ、これ?

 ワケガワカラナイ。


 目の前で繰り広げられるボケ漫才に、招集されたばかりの僕は凍り付いたように身動きができなかった。




△ ◇ △ ◇ △ ◇ △ ◇




「さて、自己紹介をしておこう。私がノヴァアーク司令、イカリヤ・ケンドウだ。そして彼女は……」


 あのボケ漫才は何だったんだろう?

 あれはなかったことだという態度で、司令がまじめな顔して自己紹介してきた。



 赤い縁の眼鏡を指で押し上げながら、クールな装いを見せる司令。

 黒い髪と顎鬚を生やす司令は、見た目はダンディで冷静沈着な大人の男性に見える。


 が、先のやり取りを見ていた俺は、まったく騙されなかった。



「司令付秘書官のキアラです」


 秘書のキアラさんも、さっきのことは完全になかったことにして、キリッとした佇まいで自己紹介してくる。


 見た目は完璧なできる秘書だけど、さっきのアレを見てしまえば、やはり騙されない。



 でも、二人はさっきの事には全く触れるなってオーラを強烈に出しているので、俺は空気を読んで、先ほどの事は見なかった事にした。


「え、えっと……戦略機動歩兵隊所属レイン・ウォーカーです。よろしく」


 もっとも内心かなり動揺しているので、声が震えているのが自分でも分かった。



 この司令と秘書って、大丈夫なのだろうか?

 俺の上官になるから、これから先が物凄く不安なんだけど。



 でも、俺の動揺なんて司令は気にしない。


「まずは現状の確認だが、君は”ノヴィスノヴァ戦記”というゲームのことを知っているかな?」

「ノヴィスノヴァは俺たち連邦が、帝国と戦っていた星の名前です。でも、ゲームではないです」


 司令の問いかけに、俺は自分の記憶にある言葉で返す。


「やはりゲームとは認識していない。そこはキアラちゃんと同じか……」


 そして一人呟く司令。


 司令は誰にも聞こえないように呟いたつもりだろうが、俺は人工的に作られたクローンの兵士。

 クローンは培養槽で生まれる段階から、ナノマシンによる強化処理が施された、半人造生命体だ。

 身体能力の強化が耳にも及んでいて、司令の小声を聞き取ることができた。


 ただ、俺からの質問を司令は求めてないようなので、俺は兵士として、司令に問い掛けることはしない。



「では、次の質問だが、ノヴィスノヴァに関する記憶はどのようなものがある?」

「はい、ノヴィスノヴァに関しては……」


 司令が不思議な質問をする。

 ノヴィスノヴァは俺たちが生きていた星の事だから、語る必要もないことだ。

 しかし、俺は兵士として司令の質問に、できる限り答える。


 ノヴィスノヴァにおける世界情勢。

 連邦と帝国の二大陣営の戦いと、核の冬の到来。そして世界が滅びの中に遭っても、それでも終わることなく続く戦い。

 あの世界のことを語った。


「ふむ、世界の一般常識は俺の覚えていることと同じだな。では、兵器としての宇宙戦艦や、飛行戦艦に関しては?」

「はい、宇宙戦艦と飛行戦艦に関してですが……」


 兵器に関する一般常識。

 それを司令官に尋ねられたと理解して、俺はそれらの兵器に関して話していく。


 ただ途中から専門的になりすぎたせいか、司令が片手をあげて続きを制した。



「あ、ダメだ、頭が割れそう。知恵熱が出てくる」

「……」


 こ、この人本当にノヴァアークの司令だよな?

 軍事組織(ノヴァアーク)司令(トップ)なのに、知恵熱が出るって……


 見ていて、これ以上なく不安になる。



「とりあえず、君がノヴィスノヴァのことを理解しているのは分かった。ただ、俺がプレーしてたゲームより、メチャクチャ設定が細か過ぎたけど」

「……」


 またしても、司令から”ゲーム”という単語が出てきた。

 俺には、理解できない単語だ。


「司令が先ほどから口にされている、”ゲーム”とは、どういうことですか?」

「気にしないでくれ。ただの独り言だから」

「……了解しました」


 何やら不穏な空気を感じてしまうが、俺は兵士であるため、これ以上司令に尋ねることは諦めた。


 兵士とは戦う駒であり、駒の使い方は司令が考えること。

 一兵士である俺が、司令の考えていることを理解する必要もないだろう。



「君がノヴィスノヴァのことを、どのように認識しているのは分かった。だが、今はかなり困った事態になっていてな」

「困った事態ですか?」

「ああ、多分異世界転移したんだ」


 司令がマジな目で、俺を見てきた。


 イセカイテンイって何?

 俺の聞き間違いだよな?


 異世界転移の意味は分かるけど、あれは核の冬が訪れる前の、旧世界の娯楽に出てくる話のことだ

 それも現実でなく、娯楽向けの架空の話。


 そんな単語をいきなり出されても、笑えない冗談にしか聞こえない。



 とても今の司令が、まともだと思えない。

 異世界転移なんて、ありえないだろう。


「司令、熱でもあるんですか?それとも酔っ払ってませんか?」

「正気を疑われるのは分かるが、マジだから。本当に異世界転移してしまって、ここはノヴィスノヴァとは違う世界だから」


 またしても、マジな顔で司令は言った。


 でも、いきなり異世界転移したって言われても、信じられない。




△ ◇ △ ◇ △ ◇ △ ◇




 いきなり異世界転移したと言い出した司令は、その後俺と秘書のキアラさんの前で、説明してくれた。


 曰く、自分は元日本人であること。

 そこでプレーしていたゲーム”ノヴィスノヴァ戦記”のこと。

 自分が死んだ後の駄女神様とのやり取りなどを、一通り話してくれた。



「……ってことで、異世界転移させられちゃったんだけど、どうか俺を見捨てないで助けて」


 話し終えたと思えば、涙目になって司令が縋ってきた。


 髭面のおじさんに縋られると、物凄く鬱陶しい。



「司令、私たちに正直に話してくれたのはいいですが、ご自分の正体を隠そうとか考えなかったのですか?」


 縋りついてくる司令に問いかけたのは、キアラさん。


「確かに異世界物のお約束だけど、ムリ。俺頭良くないし、それにゲームの登場キャラだったキアラちゃんに隠し事なんて、絶対にできない」


 そう言いながら、司令の両手がキアラさんの胸に伸びていく。


「まあまあ、ダメですよ、司令。それは日が暮れてから。勤務時間外になってです」

「イデデッ」


 キアラさんが司令の手の甲を抓った。

 でも、夜になったらいいんだ。



 そんな二人のやり取りを傍で見ている俺は、なんでこんなところにいるのかなーって気分になってしまう。


 惚気るなら、俺のいない所でやってほしい。


 そんな俺の視線に司令が気づいた。



「ちなみに、野郎にはおまけで話しただけだからな。俺の正体を他の誰かに暴露すれば、軍法会議にかけて便所掃除の刑に処してやる!」

「あ、はい……」


 キアラさんに対する態度と、俺に対する態度が全然違う。

 さっきはもう少しまともに話してくれたが、メッキが剥がれてきて、素の自分が出てきたようだ。


 しかも、程度の低い陰湿な嫌がらせを言ってくるし。



 この司令、ただのダメ人間だ。

 異世界転移する前に日本にいた司令は、自分のことをかなりダメな人間だと、自分自身で言っていた。

 本当にダメ人間過ぎる。



「俺は全ての美人に甘く、野郎どもに用はないのだ!」


 胸を張って、司令はそんな宣言をする始末だ。



 もう、ダメ人間過ぎて呆れが止まらない。




 仕方なく、この場ではまともと思える、キアラさんに話を向ける。


「キアラさん、どうしましょうこの人?」

「ダメな男の人ほど可愛いからいいじゃない。私はこんな司令が大好き」

「キアラちゃーん」


 司令のダメさ加減に呆れて助けを求めたのに、キアラさんはダメ人間擁護派だった。


 まだ日が高い場所にあるで、司令はまたしてもキアラさんからお仕置きされたけど、夜になったら、この二人はどうなってしまうのだろう?



 はあっ、俺、なんでこんなところにいるんだ。

 これから先に、不安しかない。


 俺は思わず黄昏れて、空を見上げた。

・クローンの利点と問題点

 クローンは遺伝子操作、およびナノマシーンによる人工強化措置を生まれる段階から施した存在であるため、オリジナルの人類が獲得していない身体能力、放射能への耐性など有している。

 専用の培養槽にて1ヶ月から3カ月程度の期間で、受精卵から成人へと成長するため、人類(オリジナルヒューマン)とは桁違いの速度で数を増やすことができる。

 またクローン兵の元になったのは、人類(オリジナルヒューマン)の遺伝子であるが、大抵は優れた兵士の遺伝子が用いられているため、生まれながらにして有能な兵士に育つ可能性が高くなっている。

 だが、人工的に作られたクローンは生殖能力が極めて弱く、男女の間で受精する可能性が極めて低い。子供をなすことができたとしても、三世代後にはことごとく生殖機能を失ってしまう。

 また、クローンの間で生まれた子供は、奇形児が誕生する確率も高い。

 クローンの製造においては、人類(オルジナルヒューマン)でなく、クローンの細胞を用いて、そこからさらにクローンを培養することもできる。

 だが、この場合も世代を重ねるごとに遺伝子の劣化が急激に進んでしまい、元になったクローンより能力が極端に劣化した個体が生まれてしまう。そのためクローンの細胞を使って培養を繰り返せば、最終的に生物として成り立たなくなってしまう。

 自然状態においては種としての生存能力が絶望的なまでに低く、元になっている人類(オリジナルヒューマン)が滅亡すれば、生殖能力に欠けるクローンも、いずれ絶滅することが確定している。

(注釈:ここでいう人類(オリジナルヒューマン)とは、自然状態で発生した人類のことをさし、人工的に作られたクローンを含まない)


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