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14 工兵隊所属アイニー・ハートセン

 大規模なモンスターの拠点を壊滅させた後も、俺たち探索部隊は連日にわたって森へ入り、周辺地理の把握と、モンスターの駆除を行い続けた。



 探索中にモンスターの集落を見つければ、容赦なく破壊する。


 ゴブリンの集落であれば、爆裂弾を使って爆破し、集落ごと跡形なく破壊する。


 爆裂弾の破壊力ならば、一撃でゴブリンの体を消し炭にし、集落ごとまとめて破壊することができた。


 そしてモンスターが心臓に持つ魔石は、拠点にある量子転換炉に入れるとエネルギーに変換されるが、ゴブリンの魔石では獲得できるエネルギー量が少ないため、いちいち遺体を残す必要がない。



 ただオーク、トロールの魔石には、エネルギーとしての価値があるため、これらのモンスターがいる場合は、通常弾を用いての殲滅戦になった。


 爆裂弾を使用すると破壊力がありすぎて、モンスターの死骸が残らなくなってしまうからだ。



 現状でも拠点はエネルギー確保の問題を抱えていて、貴重なエネルギー源をみすみす破壊するなんて真似はできなかった。




△ ◇ △ ◇ △ ◇ △ ◇




 そうして、俺たちは連日にわたる探索を終えて、この日も拠点へ帰ってきた。


「うわー、日ごとに立派になっていってるね」


 帰るとともに、レイナが日々変わっていく拠点の姿を見て、感嘆の声を上げる。


「ここに初めてきた時とは、比べ物にならないな」


 レイナと同じで、俺も拠点が様変わりしている姿に感動する。



 以前は司令から難民キャンプ呼ばわりされ、テントが立ち並ぶ拠点だったが、わずか数日で建物がセメント製に変わり、以前とは比べ物にならない、頑丈な建物になった。


 むき出しでデコボコだった地面はアスファルトで舗装され、立派な通路に様変わりしている。


「司令が例のガチャをやめたおかげだな。エネルギーを拠点の整備に使えば、これくらい数日でできて当然だ」


 俺とレイナにとっては、日々拠点が様変わりしていく姿は感動的だ。

 だが、無駄に長生きしているバズドーのじいさんは、何でもないことのように言う。

 戦歴が長いだけに、知識も経験も多い。


 俺たちにとっては初めて見る光景でも、バズドーじいさんは、何度も見たことのある光景なのだろう。



 ところで、拠点をこのように変貌させているのは、今も拠点周囲を行き来している、大型の建設機械たちだ。


 拠点に戻ってきたばかりの俺たちの傍を、巨大な重機が唸り声を上げて走り、拠点の端へ向かっていく。

 これらの重機は、全自動化されたAIによって動いていて、重機に(クローン)は乗っていない。


 そんな重機の姿を目で追っていると、俺の耳がとある音を拾った。



 プチッ


 そして、赤いシミが重機に飛び散る。



「や、やってしまった。人を殺してしまった。あああっ、お天道様ゴメンナサイ―!ついにやらかしてしまいましたー!」


 拠点の方から悲鳴が聞こえたかと思うと、茶色の髪と目をした女性が、ダッシュしながら重機の方へ向かっていく。


 身長は180センチほどで、女性としては長身。

 長身だけど、胸の大きさは平均的だった。


 そんな彼女は茶色の髪を振り乱し、クリっとした瞳に涙を貯めて、全力ダッシュする。


「ゴメンナサイ、ゴメンナサイ。悪気はなかったんです。故意じゃないのー!」


 取り乱し、絶叫しながら走って行く、



「あれは大丈夫だから」


 彼女が傍を通り過ぎて行こうとした時、そう言って止めた。


「ヘッ、大丈夫?でも赤い血が。私は、私は人を殺して……」

「あれは人間でなく、ゴブリンだ」

「へっ、ゴブリン?」

「たまたま森から出てきたゴブリンが、轢かれただけだ」


 モンスターの駆除は、本来俺たち兵士が行うべきだが、それより早くゴブリンは重機に潰されてしまった。

 今や原形をとどめていない、赤いペーストと化している。


 はぐれのゴブリンが迷い込んできたようで、潰された一体以外にはいないようだ。

 だが、念のために俺の部下たちが周囲を警戒し、これ以上ゴブリンがいなか確認している。



「ゴ、ゴブリンっていったら、人間じゃないよね?」

「ああ、あれは駆除する対象だから問題ない」

「ほ、本当に本当?人間じゃないから、セーフだよね。私、犯罪者になってないよね」

「あ、ああっ。犯罪者になってないから」


 必死な表情で、俺に迫ってくる女性。

 顔が近くなりすぎて、しゃべるたびに息と、ついでに唾まで飛んでくる。


「で、でも万が一があるから、ちゃんと確認しておかないと」


 そう言って俺から顔を話すと、腕につけた携帯端末を操作する女性。

 それに連動して、AI制御の重機が動いて後退する。


 重機自体はAIによって自動制御されているが、彼女の命令下で動いているようだ。

 こういった場合に事故を起こすと、管理責任が発生してしまい、管理者が犯罪者落ちという事態になる。

 この場合は、取り乱している彼女だ。


 そして重機が後退した後の地面だが、そこには赤いペーストの何かが残っていた。


 重機の質量が大きすぎて、ゴブリンの名残が何一つ残されていない。

 爆裂弾を使用した時以上に、酷い状態と化していた。


「こ、これじゃあ何を潰したのか分からない。そ、そうだ、人間だったとしても、原形が分からないならセーフなんじゃ……」

「その考え方は危ないだろ」


 俺はゴブリンを潰したと分かっているが、あれが人間だった場合、セーフにはならない。


「ハ、ハウアー、やっぱり私、犯罪者になったんだー!」

「お、おい、腕を放せ。うわわっ!」


 彼女に両肩を掴まれ、力任せにガクガクと揺すられてしまう。



「……大丈夫ですよ、あれはゴブリンですから。スキャンしたDNA情報が、ここに表示されていますから」


 そこで間に入ってくれたのが、レイナだ。


 レイナは、俺を掴んでいた女性の腕を無理やり離させ、携帯端末の情報を見せる。

 軍用の端末は、パワードアーマーに取り付けられているセンサー類と同じく、様々なセンサーを搭載している。

 その中の一つを用いれば、DNAの簡易解析を行うこともできた。


 そこに表示されているのは、人間でなくゴブリンのもの。


「よ、よかったー!私は無罪、冤罪です。ありがとう、私の無実を示してくれて、ありがとう」

「えっ、きゃ、キャアアーッ!」


 潰したのがゴブリンと分かると、女性のそれまでの態度が一転。

 嬉しそうに飛び跳ねだし、勢いに任せてレイナの腕を掴んで、ピョンピョン飛び始める。


 クローンの脚力で飛んでいるので、その高さはかなり高い。

 彼女に引っ張られて、レイナも体をピョンピョンさせ、女の子二人が、仲良く飛び跳ねる構図になった。



「おお、揺れている」


 飛び跳ねる二人の姿に、部下の量産クローン兵の一人が呟いた。

 その目は赤く充血し、ただ一点を凝視している。


 何が揺れているかは、俺からは言うまい。


「パ、パン……」


「二人とも、そこまでにしておいた方がいい。危ない人がいるから」

「イヤッ!」

「ほへっ?」


 俺の部下には、司令と同レベルの奴がいる。


 レイナは慌てて胸を両手で隠し、女性の方はどうしたのかと首を傾げた。




 なお、今回出会った女性だけど、


「自己紹介がまだでした。

 工兵隊所属のアイニー・ハートセンと申します。

 クローン兵ではありますが、基本は重機を使っての陣地構築や、拠点建設を手掛けている、土木専門業者です」


 とのことだ。



「依頼とあれば、お金次第で、自宅のお庭にジンベエザメの入りのプール工事から、周辺の土地を纏めて地上げした上でのビル建設、さらには大気圏外に捕獲したエイリアン付きの宇宙艦隊基地だって、建設しちゃいますよ。

 と言っても、エイリアンにはこの前逃げられちゃったので、代わりに円盤型宇宙艦隊基地の建設で勘弁してください」


 なんて、自己紹介をしてきた。


 ツッコミどころが、いろいろある。

 突っ込んだ方がいいのか?



 しかし、クローン兵ということは、またガチャだろうか?

 司令が、またやらかしたのか?


「アイニーさんは、司令に召集(ガチャ)されて、拠点の工事をしているのかな?」

「はい、そうです。ただし、私の場合は召集(ガチャ)ではないです。拠点の改築をするとのことだったので、ちょっと次元を超えて、こちらにやってきました」

「次元を超えて?」


 この人が何を言っているのか、ちょっと分からない。

 俺も異世界転移という妙な現象に巻き込まれた身なので、あまり人のことを言えないが、次元って任意で越えられるものなのか?


 俺の知識にあるノヴィスノヴァでは、次元を超える技術なんて存在しなかった。

 そんな技術があれば、今頃滅びに向かっているあの星から、別の世界に向けて多くの人類(オリジナルヒューマン)が脱出しているはずだ。


 そして次元を超えられるのなら、その逆もまた可能なはず。


「聞きたいんだけど、元の世界に帰ることもできるのかな?」

「それは無理ですね。お仕事の依頼があれば衛星軌道から、溶岩溢れる地底の底、深海魚が泳いでいる海の底、果ては別次元にだって出張します。でも、行くのはいいですが、仕事で呼ばれないと、元の世界に帰ることができないんですよー」

「つまり、片道切符でこの世界に来たと?」

「そうなりますね。もっとも、今言ったことは営業用の誇大広告(ウソ)なので、真に受けないでくださいね。ハハハー」

「……」


 もしかして騙された?


 俺が真に受け過ぎたのか?



「あれ、もしかして私の冗談を真に受けてました?」

「……」

「ア、アハハー、お兄さん、騙されないように気を付けてくださいね。下手をすると詐欺に遭っちゃいますよー」


 気まずい空気になってしまった。

 なんとなくだが、アイニーさんに気を使われているのが分かる。


 登場した瞬間から、人を殺したと騒いでパニックになっていたアイニーさんに、気を使われてしまった。


「え、えーと、仕事の続きをしなくちゃ。お二人には、私の無罪を証明していただきありがとうございます。後日お礼に伺いますねー」


 なんて言って、気まずい空気を残したまま、アイニーさんはそそくさと走り去ってしまった。




「お、俺はアイニーさんの言っていたことを、真に受けてたわけじゃないからな!」

「……そうだね、お兄ちゃん。だから、必死にならなくてもいいよ」


 今の空白の間はなんだ?

 レイナにまで、気を使われてしまった。

 生暖かい目で、レイナが俺を見てくるんだが。



「でも、あの人も司令と同じで変」

「……確かに違うベクトルで、変な人だったな」


 俺は虚しさを感じつつも、レイナの言葉に同意した。


 多分アイニーさんは、頭が残念な人だろう。

 1人で勝手にパニックになって、取り乱して、騒いだ挙句に去って行ってしまった。


 俺とレイナはそう結論付けて、彼女のことを見送った。






 なお、アイニーさんだが、


「ゲームの時だと、アイニーちゃんは拠点の改修工事を依頼すると、出てくるキャラなんだよね。ガチャで出てこないから戦闘には使えないけど、天然が入っていて可愛いよね。もちろんレイナちゃんもか……な、何でもないです」


 とは、後日の司令の言。



 この時レイナだけでなく、近くにキアラさんもいた。

 司令がレイナを口説きかけたが、近くにいたレイナさんが、司令に笑いかけていた。


 普通に笑っているだけだ……多分。

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