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11 打ち合わせ

 翌日。


 携帯端末経由で、キアラさんから呼び出しを受けて司令室に向かうと、そこには司令官用の椅子に縄で拘束され、身動きが取れなくなっている司令の姿があった。

 それも胴体だけでなく、腕や足まで雁字搦めにされている。


「レイナちゃ~ん」


 そんな司令が、俺と一緒に司令室に出頭したレイナの姿を見つけると、だらしのない顔をする。


「ひえっ!」


 レイナは、司令を怖がって、俺の後ろに隠れてしまった。


 幸い司令は身動きが取れないので、レイナに近づいてこない。

 それでもレイナは、怖いのだろう。



「レイナ、大丈夫だ。司令はいろいろダメな人だけど……危害を加えてくることはないから。多分?」

「お兄ちゃん、なんで疑問形なの」

「……」


 司令のこれまでの行動を考えれば、俺も断言できない。

 仕方ないよな。司令は常日頃から、頭のネジがぶっ飛びまくっているから。




「イダダダッ」


 そんな司令は、横で仁王立ちをしているキアラさんに、耳を引っ張られた。


「司令、女の子を怖がらせちゃダメですよ」

「はーい」


 いつにも増して逆らってはいけないオーラを放っているキアラさんに、背筋が寒くなる。

 だが、なぜか司令は嬉しそうに笑う。


 司令の頭のネジが、さらに飛んで行ってしまったようだ。

 最初に会った時から手遅れな人だったのに、ますますひどくなった……




 そんなやり取りがあったが、その後司令室に、拠点にいるすべてのメンバーが集まる。


 司令に、秘書のキアラさん。

 クローン兵である俺に、レイナ、バズドー、そして六人の量産型クローン兵たち。


 合計で一一人。

 拠点の広さに比べれば、これだけしか人数がいない。


 それでも俺が召集(ガチャ)されるまででは、司令とキアラさんしかかなかったから、その頃から比べれば、人数が増えた。



「さて、今回全員に集まってもらった理由ですが、初期に比べて拠点の人員が増えました。そこでクローンであるあなたたちを2つの部隊に分けて、別々に行動をしてもらいます」


 役に立たない司令は放置で、キアラさんが司令依然とした態度で語り始める。


「お兄ちゃん、キアラさんって軍人だっけ?」

「司令の秘書で軍人ではないけど、あの人の方が司令より偉いんだ」

「ええっ!?」


 小声で聞いてきたレイナに、そう説明しておく。


 形式的には司令がトップだが、真のトップはキアラさんなので、こう説明するしかない。



「2つに分ける部隊ですが、一つは拠点周辺の探索。もう一つは、拠点の防衛任務についてもらいます」


 キアラさんが俺たちクローン兵を一瞥し、質問はないかと間を置くが、誰も質問はない。


 その様子を見て、キアラさんは説明をさらに続けた。



「拠点周辺に広がる森ですが、以前レイン君に探索してもらったところ、この世界独自の生物である、モンスターを確認しています。

 モンスターが時折拠点に侵入しているので、探索部隊は周辺にいるモンスターの討伐を行い、拠点周辺の安全を確保してください。

 そして防衛につく部隊は、これまで通り木こり作業を行い、転換炉でのエネルギー確保をメインに行動してください」



 その後、キアラさんは探索部隊の隊長に、探索経験のある俺を任命し、部下にバズドーのじいさんと、三人の量産クローン兵を付けた。

 拠点に残るのは、レイナと三人の量産クローン兵となった。


「あとの細かい打ち合わせに関しては、それぞれの部隊に任せます。解散」

「「「……」」」


 レイナさんが解散を告げるが、俺を含めて、クローン兵たちは動くことができない。


「司令」

「あとは良きに計らいたまえ~」

「「「了解しました」」」


 悲しいことだが、俺たちは兵士。

 キアラさんが正式な上司でないため、司令の命令でないと動くことができない。

 相変わらずふざけた司令だが、その言葉を聞いて、俺たちクローン兵は敬礼してその場を後にした。


 こんなことは、いつもの事だ。


 それより、探索部隊になったメンバーたちと、これからのことついて話し合っておかないと……



「お兄ちゃん」


 俺がこれからのことを考えていると、レイナに遠慮がちに服を引っ張られた。


「どうした?」

「ちゃんと帰ってきてね」

「ああ、もちろんだ」


 俺はレイナを安心させてやるために、笑いかけた。




「フラグだ。これで奴の命も終わりだな。ケケケッ」


 そんな俺たちを見ていた司令が、また訳の分からないことを言っているが、なんだろう?

 まあ、司令の事なんて気にしなくていいか。




△ ◇ △ ◇ △ ◇ △ ◇




(司令視点)



 レインの奴が盛大なフラグを立てて、司令室を出て行った。


 フラグだ、フラグ。

 これで奴は、確実にあの世行きだ。


 そうなったら、奴が死んで落ち込んでいるレイナちゃんを慰めて、俺の株価を存分に高めさせてもらおう。


「レイン、お前のことは忘れない。俺とレイナちゃんが付き合うための踏み台になったモブキャラとして、1秒だけ忘れないでやるぞ……ヘブッ」


 キアラちゃんに無言でどつかれてしまった。

 ああ、なんだか胸がドキドキする。

 これが恋か。


 俺はいい年した中年(おっさん)だけど、決して高血圧でも、糖尿病でも、心臓でもない。

 間違っても、病気で鼓動が激しくなっているわけじゃない。




 ただ、俺はここで気づいた。


 レインがフラグで死ぬのはいいが、残りの野郎どもまで一緒に死ぬのは、ちとマズイ。


 量産型クローン兵、名もなきモブキャラたちとは言え、奴らまで死んでしまうと、俺が投資したガチャが、無駄になってしまう。

 モブとはいえ、今はガチャで引いたキャラが貴重だから、レインと一緒に死んでもらっては困る。


 俺とキアラちゃんと拠点の安全は、モブキャラ君たちもいることで、守られているのだから。



「おーい、バズドー」

「何です、司令?」


 ということで、俺は探索隊のメンバーの一人である、バズドーに声をかける。

 司令室から出ていく前だから、呼びに行く手間が省けて助かった。


「ちょっとこっちに来てくれ。あまり大声で話せないことがある」

「了解」


 近くに呼び寄せる。


「うおっ、人相わりぃ……」

「司令だって、あまりよくはないですぜ」


 バズドーってどう見ても堅気の顔じゃない。

 裏社会(マフィア)のドンと言われてもいい貫禄があるぞ。


 あと、俺の人相は悪くない。

 日本のデブだった俺はともかく、今の俺はダンディーなおじ様だぞ。


 まあ、それはいい。



 俺はレインの奴を見ていて思うのだ。


 奴は顔面偏差値が生まれながらにして高く、おまけにステータスがメチャクチャ高い野郎だ。

 ゲーム時代の知識を持っている俺だから知っていることだが、奴は公式主人公などと呼ばれた存在。


 初期ガチャで引けるキャラの中では、頭一つ抜けて強いキャラで、全ての面でステータスが高く、オールマイティーに活躍できる強キャラだった。

 アプデのたびにもっと強いキャラも出たが、なぜか奴には運営の加護が働いて、アプデの修正でスタータスが強化されることが何度かあった。


 おそらく、ユーザーの中にいた腐女子どもに恐れをなした運営が、泣く泣く奴のステータスを強化したのだろう。

 あのゲームは美麗イラストで、男性ユーザーだけでなく、女性ユーザーも結構いたからな。


 俺としては野郎のことなどどうでもいいが、ニワカとはいえ、それでもゲーマーの端くれ。

 ゲームに登場した強キャラの情報は、きちんと覚えている。



 しかし、ここはゲームの中でなく、現実になった世界だ。


 だから奴を見ていて、理解してしまった。


「バズドー、生まれながらに優秀な人間ってのは、周りの人間も自分と同じぐらいの能力があって、当然だと思っている」

「はあっ」


 俺の言いたいことが分からないようで、曖昧な返事をするバズドー。


「そんな奴がリーダーを務めると、自分が当然のようにできることだから、部下になった連中も同じことができるだろうと勘違いする。自分が当たり前にできることを、それができない部下に、平然とやらせようとする」




 俺の苦い思い出だ。


 もう十年以上も前、俺がまだ引きこもりでない学生だった頃に、クラスの中に”できすぎ君”とあだ名される、クラス委員長がいた。

 奴は顔面偏差値だけでなく、文武両道の秀才だった。


 しかし、奴はクラス委員長になりながら、自分が当たり前にできることだから、クラスメイト全員も、自分と同じことができて当然だと考えていた。

 そして、委員長を務めていた奴は、俺にも同じレベルを課してきたのだ。


 テストの点で赤点を取るな、運動会で足が遅すぎるから早く走れ、その他諸々。


「努力が足りてないからだ。やる気をもっと出せばいい。こんなの出来て当然だろう?」


 あいつにとっては当たり前の事でも、クラスの中で底辺にいた俺には、同じことなんてできなかった。


 秀才が1の努力でできる内容を、凡人も1でできるはずがない。

 人間の持っている才能や適性は、みんながみんな同じでないのだ。


 凡人が秀才の真似をしようとすれば、そこには2や3、それ以上の努力をして、初めて同じことができる。

 まして、頭も要領も悪かった落ちこぼれの俺は、できすぎ君みたいに行くはずがない。


 俺は凡人以下なのだ。

 10の努力をしても、秀才と同じ領域にはたどり着けない。

 それ以上に頑張っても、できすぎ君のレベルに並ぶなんてことはできなかった。


 あの時の俺は、確かに努力をして、精一杯頑張った。

 そんな時期が、俺にもあったのだ。


 でも、できすぎ君からは、

「なんでできないの?」

 その一言で、俺の努力を片付けられてしまった。


 それが、昔の俺だ。




 意識を、昔から現在に戻そう。


「司令の言いたいことが分かりました。つまり、レインの奴が部下に無茶をさせないよう、俺にストッパーになれってことですな」


 俺の話を聞いて、バズドーが納得した返事をする。

 そうだ、こいつは俺の言いたいことを理解している。


「SSRであるあいつに、(コモン)キャラの気持ちも能力も、分かるわけがないからな。

 あいつが部隊を引っ張るのはいいが、奴の考えている基準で、(コモン)の量産型クローン兵たちを引っ張っていくと、絶対にろくなことにならない」

「……」

「だけどUC(アンコモン)のお前なら、(コモン)の連中の気持ちが分かるだろう」

「司令、SSRやCって何ですかい?」



 ……あれっ?

 途中まで話が通じていたのに、なぜか最後で理解してくれないぞ。


「どうしてそこが理解できないんだ!いいか、まず(コモン)についてだが、これはガチャのレア度の中では……」

「司令、いい加減にバズドーさんを解放してください。探索部隊の出発が遅れてしまいます」

「あ、はい」


 バズドーの奴にゲーム知識を教え込もうとしたけど、途中でキアラちゃんに割り込まれてしまった。

 俺、キアラちゃんには逆らえないんだよなー。ヘヘヘーッ。


「とっとと行っていいぞ。俺の言いたいことは大体分かっているなら、レインのせいで、他のクローン兵にも被害が出るような事態は、絶対に避けろよ」

「了解です」



 バズドーは強面の顔をニヤリと笑わせ、俺に敬礼してきた。

 うん、このオッサンの笑顔は怖い。


 ゲームの頃だったら何でもないが、キャラが現実になったこの世界では、夜に見たら小便ちびりそうな迫力だ。



「言動はアレな司令だが、案外頭は悪くないみたいだな」


 司令室から出ていくバズドーは、最後に何か言っていた。

 俺は野郎の事なんてどうでもいいので、そんな言葉は右から左に聞き流してお終いだ。




「それより、レイナちゃんのお尻がキュートだな」


 ゲームキャラが現実となった世界だから、気が付いた。

 ゲームのイラストでは分からなかったが、レイナちゃんのお尻はキュートで、ぜひとも拝み倒したくなる。


「タッチミー」


 つい心の中の欲望が口から飛び出したけど、残念ながら今の俺は、キアラちゃんのお仕置き中で縛られている。

 腕を動かすことができない。


「うええっ!」


 でも俺の方を見たレイナちゃんが、涙目になっていた。


 涙で濡れた顔を、俺のベロで舐めてあげたいなー。

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