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香る季節に無邪気な君と  作者: 九傷
第一章 『夏』
9/19

夏祭りと委員長



 夏休みに入り、花村は怠惰な日々を過ごしていた。

 特に部活動にも入っていないため、アルバイトが無い日は外にも出ず、クーラー漬けになってることも多い。

 高校二年生にしては不健康極まりないと思うが、そうせざるを得ないと言っていい程、今年の夏は暑いのである。


 実際、二日ぶりに外に出た花村は、その暑さに早速屈しそうになっていた。



(もう夕方だってのに、この暑さはヤバイだろ……)



 現在の気温は31℃。

 もう陽も傾きかけているというのにこの温度は、中々に厳しいものがある。

 水分補給を怠れば、たとえ夜であろうとも熱射病になる可能性は十分にあるといえた。



(ったく…、なんでよりにもよって今日なんだよ……、っと、あれって……?)



 花村が向かう先、神社の鳥居の傍に、髪の毛を頭の上でお団子にした少女が立っている。

 その少女はソワソワした様子で辺りを見回していたが、すぐ傍に近付いてきた花村に気づき動きを止めた。



「は、花村君……?」



「お、おう。そういう貴方様は、もしかしてクラス委員長様ですかね?」



「なんで様付けなのよ! それ以外の何かに見えるっていうの!?」



「いや、だって普段と髪型違うし、浴衣だし、なぁ?」



「なぁって言われても……」



 そう言って脱力したように肩を落とす少女。

 しかしその仕草で、花村は目の前の少女がクラス委員長、磯崎 菫(いそざき すみれ)だと確信することが出来た。



「いや本当に見違えたというか、自信を持てなかったんだよ。今更だけど、委員長って結構美人だよな……」



「っ!?」



 花村の思わぬ言葉に、磯崎は盛大に取り乱す。

 肩を落とした際にズレた眼鏡が、今度こそずり落ちかけ、それを慌てて手で押さえつけた。



「い、いきなり変なこと言わないでよ!」



「いや、別に変なことじゃないだろ……」



 彼女はクラス内でも美人と評判であり、そんな事は言われ慣れてるはずだ。

 今更動揺するというのも変な話である。



「しかし、こんな所にいるって事は、委員長も待ち合わせか?」



 神社の鳥居には、他にも待ち合わせをしていると思われる人たちがスマホなどで暇つぶしをしていた。

 恐らく皆、ここで行われる祭りに参加するのだろう。



「……そうよ。クラスの子達に誘われたの。そういう花村君も、誰かと待ち合わせ?」



「ああ。委員長と同じでここで待ち合わせだ」



「…それってやっぱり、三条さん?」



「いや、アイツは今日用事あるらしくてな」



「じゃあ…、噂の一年生?」



「噂のって何だよ。もしかして、彼方って有名だったりするのか?」



「そりゃあの容姿だもの。噂にならないワケないじゃない」



「…それもそうか」



 愛内 彼方(あいうち かなた)の容姿は、どう見ても小学生である。

 それが同じ高校に通っているのだから、噂にならない方がおかしいと言えるだろう。



「まさか花村君、噂になってるの知らなかったの?」



「全く知らなかった。でもアレなら噂になるのも納得出来るわ」



「他人事みたいに言って…」



 磯崎は「その渦中にいる癖に…」と小さく呟いたが、その声は花村には届かなかった。



「ま、それは良いとして、まだクラスの奴等が一人も来てないって事は……、委員長、大分はやく来ちゃったんだろ?」



「……そうだけど、悪い?」



「いや、なら丁度良いと思ってな。ちょっと付き合ってくれないか?」



「は、はい? 付き合うって、何言って…」



「すぐそこ! ちょっとだけだから、頼む! なっ!」



「ちょ、待って引っ張らないでよ!?」





 …………………………





 …………………





 …………





「……(あゆみ)先輩。これはどういう事でしょうか?」



「どういうって、かき氷を食べているんだが」



 花村は、鮮やかな青い液体のかかったかき氷を美味しそうにシャリシャリと食べている。

 その横で、磯崎は気まずそうに目を逸らした。


 そんな二人の反応を薄目で見据えつつ、彼方は次の質問を放つ。



「……この方はどなたでしょうか?」



「クラス委員長の磯崎さんだ」



「花村君…、彼女はそういう事を聞いているんじゃないと思うわよ……」



 花村のあまりの態度に、磯崎は口を出さずにはいられなかった。



「どういう意味だ?」



「だから……」



「あ・ゆ・み・せ・ん・ぱ・い!!!!」



 磯崎は何とか補足しようとするも、その前に彼方が声を張り上げて割り込んでくる。

 その迫力のある声に、流石の花村も何かしでかしてしまったのかと焦りを覚えた。

 しかし、残念ながら彼方が何故怒っているかは理解出来ていない。



「まて彼方! あれだ! もしかして、先にかき氷食ってた事を怒っているのか!? もしそうなら、お前だって悪いんだからな? このクソ暑い中待たせたりするから……ってあれ?」



 花村の言い訳を最後まで聞かず、彼方は地面にしゃがみこんでしまった。

 それを見て哀れに思った磯崎が、同じようにしゃがみ込んで彼方の肩に手を置く。



「気にしないでいいのよ。花村君って、本当にこういうとこアレなだけだから。このかき氷も、男一人で買うのが恥ずかしいから一緒に買ってくれって情けない理由で買っただけなのよ」



「な、情けないって……」



「とりあえず花村君は黙っていて頂戴。私はちょっと愛内さんとお話してくるから、貴方はそこでかき氷食べながら待っててね」



 そう言って磯崎は、自分の分のかき氷を花村に押し付け、彼方とともに歩いていってしまう。

 取り残された花村は、言われた通りかき氷を食べながら待つ事しか出来ないのであった。





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