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香る季節に無邪気な君と  作者: 九傷
第一章 『夏』
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子供のような二人



 レジャー施設の表側に回り込むと、焦げた醤油のかぐわしい匂いが漂ってくる。

 ここまで来ると花村も彼方と同様、匂いに惹かれるように早足気味になっていた。



「…やっぱこの匂いは堪らんな~」



「ですよねですよね~!」



 ウキウキ状態になった二人を見て、鈴村は少し呆れたような顔をする。



「お前達、昨日も食べただろう? よくそんなに乗り気になれるな」



「いやいや、鈴村。昨日と今日は違うぜ? 昨日は遊びだったが、今日は頭脳労働をした後なワケだ。労働の後のメシは格別に美味くなるんだぜ」



「そうですよ鈴村先輩! 学校帰りに食べるからこそ、また違った趣があるんですから!」



 そう二人に否定されるが、鈴村にはその感覚はイマイチ理解出来なかった。



「…でも、確かにこの匂いはちょっと惹かれるわね」



 あまり乗り気そうに見えなかった小町も、ここまで匂いが漂ってくると流石に食欲をそそられるようだ。

 鈴村もなんだかんだ言いながらも食べるようで、結局四人で列に並ぶことになった。



「意外と繁盛してるのねぇ」



 小町が列の人数を数えながら、感心したように言う。



「そりゃ、これだけ良い匂いさせてたら誰だって食いたくなるだろ?」



「ですよねですよね! 焼きもろこし、最高です!」



「…あんた達はちょっとはしゃぎ過ぎでしょ」



 相変わらずウキウキ状態の二人を見て、小町も鈴村と同様に少し呆れ顔になる。

 しかしそれも一瞬の事で、小町はすぐにまた不機嫌そうな顔を浮かべるのであった。





 …………………………



 …………………



 …………





「はぁ~、やっぱり焼きもろこしは最高ですね!」



「あぁ~、マジでうめぇ。夕飯が無きゃもう一本くらいイケそうだわ」



 感嘆の声を漏らしながらトウモロコシにかぶり付く花村と彼方。

 鈴村と小町は無言で食べているが、小町の方は心なしか幸せそうな顔をしているように見える。



「ふふん、小町も美味そうに食ってるじゃんか」



 ニヤニヤと言う花村に対し、小町は少し嫌そうな顔をしつつも否定はしない。



「…悔しいけど。確かに美味しいわ。本当、この匂いって反則よね」



「わかります! 焼けたソースとか醤油の匂いって本当に反則だと思います! 私、お祭りとか行くとあっちこっち目移りして大変なんですよね~」



 目を輝かせながら無邪気そうに言う彼方は、制服を着て無ければ完全に小学生にしか見えなかった。



「ところで彼方ちゃん、さっきから焼きもろこしって言ってるけど、それってお菓子の名前じゃなかったっけ?」



「そうでしたっけ? でも、焼いたモロコシですし一緒じゃないですか? 語呂も良いですし!」



「確かに、語呂は良いよな」



「というか、屋台の看板にも『焼きもろこし』って書いてあるぞ」



「「本当だ」」



 花村と小町が全く同じ動作で看板を見て、全く同じ言葉を口にする。

 その様子がおかしかったのか、彼方がコロコロと笑い出し、危うくトウモロコシを落としそうになる。



「っとと、危なかった。もう、二人とも笑わせないで下さいよ~」



「「別に笑わせようとなんか…」」



 再びハモりそうになり、二人は途中で言葉を切る。

 そのタイミングまで一緒だった為、またしても彼方に笑われることになった。



「お二人とも、息ピッタリですね!」



 そう言われ、小町は少し恥ずかしそうにしながらそっぽを向く。



「まあ、十年来の付き合いだからな~」



 対して花村は、特に気にした風もなくトウモロコシを食べるのを再開した。



「十年来って事は、小町先輩も東小出身ですか?」



「そうよ。もしかして、彼方ちゃんも?」



「そうです! じゃあ、ここにいる全員が東小のOBなんですね~」



 彼方が嬉しそうにはしゃぐ。

 鈴村はそれを見て、何がそんなに楽しいのかと思ってしまったが、同時に二次元も悪く無いななどとバカな事も考えていた。

 もちろん、表面上は無表情なので誰にも悟られる事は無かったが…



「全員地元民だしあり得なくも無いけど、ちょっと凄いわね」



「だな。というか、小中高一緒の奴なんて、実際ほとんどいないだろ」



 花村がそう言うと、何故か彼方がビクリと反応する。



「あ、え~っと、実は私、中学校は私立だったんで…」



「そうだったのか。…まあ、そんな事もあるよな。しかし中学受験したって事か~。彼方って、もしかして頭良かったりする?」



 彼方が気まずそうに言い出すので、すかさずフォローを入れるように話を振る花村。

 長年鈴村の面倒を見ていた事もあり、こういった気の使い方には年季が入っていた。



「…頭が良いかはわかりませんが、成績は結構良い方ですよ?」



「ほう。ちなみに保健体育の成績はいくつだ?」



「な、なんで保健体育なんですか…」



「そんなの、俺の一番の得意分野だからに決まってるだろ」



「得意分野だから勝負しようって事ですか…。歩先輩、大人げないです…」



「そのくらいのハンデいいだろ! 自慢じゃないが俺はそんなに成績良く無いんだよ!」



 鈴村と小町は、だったら初めから対抗しなければ良いのに…と思ったが、大人しく二人のやり取りを見守る事にする。



「…中学校の頃は、5でしたよ」



「5か! 俺は8だ! 勝ったな!」



「8って、ちょっと待ってください! それって10段階評価じゃないですか! 私の中学は5段階評価だったんです!」



「む…、そうか、一年生はまだ成績出て無いのか…」



 彼方は一年生である為、夏休み前のこの時期にはまだ成績が出ていなかった。

 つまり、花村は5段階評価の最高値である5に対し、10段階評価の8で勝ち誇っていたのである。



「って事は俺、負けてるのか…」



「そうですよ! 私の勝ちですね!」



「…だが、これで彼方の方がエロいという事が確定したな!」



「ちょっと待ってください! 何小学生みたいな事言ってるんですか!?」



「お前に言われたくないわ!」



 ギャアギャアと騒ぐ二人を見て、鈴村はやれやれと今日何度目かの呆れ顔をする。

 そして小町は、やはり不機嫌そうに二人のやり取りを見ているのであった。






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