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香る季節に無邪気な君と  作者: 九傷
第一章 『夏』
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三条 小町



「それじゃあ(あゆみ)先輩! また放課後に!」



「お、おう」



 無邪気そうな笑顔でそう言う彼方(かなた)に、花村は少しどもりつつ返事を返す。

 彼方はそれを気にした様子もなく、相変わらずのチョコチョコした動きで去って行った。



「…本当に後輩なんだな」



「なんだ歩、まだ疑っていたのか?」



 立ち止まってそんな事を呟く花村に対し、鈴村は少し眉を潜めて言う。



「いや、別にもう疑ってはいなかったけどな…。なんつうかこう、改めて現実を見ると…」



 まだ疑っているようであれば流石に失礼では無いかと考えた鈴村だが、花村の言う事にも一理はあるなと思った。

 例えば、ほとんどの日本人は『東京タワー』や『スカイツリー』が高い事は知っているだろうが、話に聞くのと実際に見た事があるのとでは、感じ方に大きな差がある筈だ。

 多少の違いはあるだろうが、花村が言いたいのはそういったニュアンスを含むものなのだろう。



「…何、あんた達。もしかして、あの子と知り合いなの?」



「うおっ!?」



 いきなり声をかけられ、花村が大げさなリアクションを取る。



「小町か。今日は早いな」



 対照的に全く動揺の無い鈴村は、振り返って声の主にそう返す。



「…なんとなく目が覚めちゃってね。で、あんた達はなんであの子と仲良さそうにしてたワケ?」



 何となく不機嫌そうな雰囲気を出している少女――三条 小町(さんじょう こまち)は、あんた達と言いながらも、何故か花村に対して問い詰めるように近寄ってくる。



「昨日プールで知り合ったんだよ! つか、なんでいきなり喧嘩腰なんだよお前…」



「いや、てっきり犯罪にでも手を出したのかと…って! 昨日プールでって事は、まさかナンパしたの!?」



「ちげーよ! なんで俺があんな小学生みたいなのナンパしなきゃいけねぇんだよ!?」



「…って事は、鈴村が?」



 小町は、本気で嫌悪したような表情を鈴村に向ける。



「小町よ。言っておくが、俺は現実の小学生は嫌いだ」



 鈴村は失礼なとでも言うように鋭い目つきで答える。



「現実のって…。ロリコンなのは否定しないのね…」



「小町よ。『YESロリータNOタッチ』という言葉を知っているか?」



「だぁーっ! 鈴村は喋るな! 全部俺が説明するから! でもまずは教室に行こう! な!?」



「そ、そうね」



 話がどこまでも脱線していく気配を感じ取った花村は、ひとまず話を切って教室に向かう事を提案する。

 小町も、鈴村の言葉から怪しい気配を感じ取ったのか、花村の案に迷わず従った。





 …………………………



 …………………



 …………





「と、いうワケなんだよ」



「ふーん…」



 花村から説明を聞き終わった小町は、話を聞きながらも終始不機嫌そうにしていた。



「…なんでそんな不満そうなんだよ」



「別に。ただ、私を除け者にして、二人で楽しんできたんだなぁーって思って」



「誘ったのにお前が断ったんだろ!?」



 花村は、鈴村と同様幼馴染である小町にも当然声をかけていた。しかし、小町はその際「無理」と言って断ったのであった。



「だ、だって! いきなり誘われても簡単に行けるワケないでしょ!?」



「なんでだよ!」



「男と違って、女には色々と準備が必要なのよ!」



 花村は「準備って何がだよ!」と言葉に出しかけたが、一瞬視線を下げてから、ギリギリの所で踏みとどまる。

 その視線を敏感に感じ取った小町は、慌てて自分の胸を守るように腕で庇ってから、花村を睨みつける。しかし、それは小町の豊満な胸部が強調されるだけであり、むしろ逆効果であると言えた。



「ちょっと、何見てんのよ!」



「い、いや、うん。何でもない。そうだな! いきなり誘った俺が悪かった!」



 花村は目を逸らし、作り笑いを浮かべながらうんうんと首を縦に振る。

 そんなやり取りを見ていたクラスメート達が、「アイツらまた痴話喧嘩してやがる」などと言いだし、花村はしめたとばかりにその場を離脱して誤解をときに走る。



「…小町よ。少なくとも歩には、そういった感情は無いと思うぞ」



「…なによそれ。じゃあ、あの子にはあるって言うの?」



「さあな。しかし、今の所完全に脈は無いだろう」



「あ、そう」



 小町はそう返し、不機嫌そうなまま自分の席へと戻っていく。

 そんな小町を見送り、鈴村は「やれやれ…」と呟いた。





 ◇





 放課後になり、花村は約束していたコンビニに入り、彼方の姿を探す。

 既に彼方は来ており、なにやら週刊誌を立ち読みしているようであった。



「おーい彼方、約束通り来てやったぞ」



「あ、歩先輩! お疲れ様です! 鈴村先輩も…って、あれ、後ろの方は…?」



 彼方は満面の笑顔で花村と鈴村に挨拶し、同時に鈴村の後ろの小町に気づいて表情を固める。



「ああ、コイツは小町っていって、鈴村と同じ俺の幼馴染だ。すまんな。どうしても付いてくるって言うから、仕方なく連れて来たんだよ」



「仕方なくって何よ」



 小町は不機嫌さを隠さず、花村を睨みつける。



「小町先輩、ですか。初めまして! 私、愛内 彼方(あいうち かなた)って言います! よろしくお願いします!」



 一瞬表情を固めた彼方だったが、花村から紹介された途端、満面の笑みを浮かべて小町に自己紹介をする。

 それに対し、小町は一瞬怯んでから、徐々に表情を緩めていく。

 そして花村をツンツンとつつきながら、



「ちょっと歩! 何この子! 滅茶苦茶可愛いんですけど!?」



「いや、なんで俺に言ってくるんだよ!?」



 さっきまでの不機嫌さが嘘のように無くなった小町に対し、その変化の激しさに若干引き気味の花村。

 そんな花村の反応も気にならないのか、小町は花村を退けるように動かして前に出る。



「初めまして。さっき紹介されたけど、私は三条 小町っていうの。宜しくね! 彼方ちゃん!」



 そのまま二人はキャッキャキャッキャとお喋りを始め、男二人は完全に蚊帳の外になってしまった。



「なあ、鈴村。これ、もう俺帰っても良くね?」



「…いや、駄目だ。そんな事をすれば、恐らく小町がまた不機嫌になるぞ」



 花村は心底帰りたかったのだが、鈴村の言う事ももっともなので仕方なく二人の気が済むまで待つことにするのであった。




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