関係の変化
夏休みが終わり、学校が始まった。
登校する花村と鈴村のあいだには、当たり前のように彼方の姿が加わっている。
「歩先輩! 夏休みも終わりましたし、次はいよいよ焼き芋の季節ですね!」
「気が早いわ! これだけ暑けりゃ、まだ当分夏だろ……」
9月に入ったとはいえ、依然として夏日は続いている。
この調子でいけば、10月以降も暑い日が続くのではないだろうか。
「うーん、でも夏だって焼きもろこしとか、イカ焼き食べますし、同じように焼き芋食べても問題ないと思うんですよね」
「そういう問題じゃないだろ。つか、夏休み中も思ったが、お前本当に食い気たっぷりだよな……」
花村と彼方は、夏休み中なんだかんだと遊ぶ機会が多かった。
彼方はそのたびに買い食いをしていたのだが、量だけで言えば花村の倍以上食べていたのである。
「そうじゃないと成長しないですからね! ……まあ、それでも、太りすらしないんですけど」
人より多く食べられるというのは、一種の才能である。
しかしそれは、成長に繋がるからこそ優れた才能と言えるのであり、彼方の場合は残念ながらそれが伴っていなかった。
「気持ちは察するが、ソレ、小町の前では言うなよ」
「私に何を言うなですって?」
「うおっ!?」
後ろからかかった声に、花村は文字通り飛び上がって反応する。
「あ、おはようございます! 小町先輩!」
「おはよう彼方ちゃん。それで、なんの話?」
「え~っと、私がいくら食べても成長しないって話を……」
「……ああ、そういうこと」
それを聞いて花村を一瞬睨みつけるも、すぐに笑顔に戻る。
「彼方ちゃん。彼方ちゃんは気にしてることかもしれないけど、一部の女子にとっては羨望の的になったりするから気を付けてね。場合によっては自慢と受け取られることもあるから」
「はい……。注意します」
実際、小町には似たような経験があった。
スタイルを褒められて、「凄い努力してるんでしょ?」という問いに対し「別に大したことしてないよ」と軽く返してしまった結果、あとで「あんなこと言ってたけど、絶対努力しまくってるよね(笑)」と陰口を叩かれることになったのだ。
女子の陰湿な部分は、決して甘く見てはいけないのである。
「まあ、彼方の場合どう見ても成長してないけどな」
「歩先輩、一言多い!」
そう言ってポカポカと花村を叩く彼方。
花村はそれを笑いながら受け流す。
「……あんた達、なんか、随分と仲良くなってない?」
「え!? いや、前からこんなモンだろ?」
「そうですよ! 全然仲良くなってないです!」
花村が慌てたように返すのに対し、彼方は普段と変わらない反応を示す。
それを見て小町は少し眉をひそめるが、
「……そう」
とだけ言い残して先に行ってしまった。
…………………………
…………………
…………
放課後になり、真っ先に教室を出て行こうとする小町を花村が呼び止める。
「……何よ」
「いや、今日帰りに鈴村達と一緒に買い物行くんだが、お前もどうだ?」
「達ってことは、彼方ちゃんも一緒ってこと?」
「ああ」
「……そう。私は、いい。それじゃ」
素っ気なく断り、小町は教室を出て行ってしまう。
「つれねぇな……。仕方ねぇ、俺達だけで行くか」
「……いや、悪いが俺も所用ができた。今日はお前達だけで行ってくれ」
「え、お前もかよ。珍しいな……」
「そんなこともある。じゃあ、また明日な」
「ああ……」
◇
「小町」
後ろからかかった声に、ピタリと足が止まる。
「……なんでアンタが追ってくるのよ」
「少しお前の態度が気になってな」
「……」
振り返った小町は、悔しそうで、それでいて泣きそうな顔をしていた。
「アンタは……、普段こういうことに無頓着なのに、なんで……」
「俺が無頓着なのは、興味のあること以外に対してだけだ」
「……それは、アタシには興味があるってこと?」
「そうだ」
からかうつもりで言った言葉を真面目に返され、小町の方が逆に動揺する。
それが腹立たしくて、思わず首筋をガリガリとひっかいてしまった。
「アンタって、本当……。はぁ……、もういいや。ねぇ、少し付き合いなさいよ」
「もちろんだ」