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香る季節に無邪気な君と  作者: 九傷
第二章 『秋』
11/19

関係の変化



 夏休みが終わり、学校が始まった。

 登校する花村と鈴村のあいだには、当たり前のように彼方の姿が加わっている。



「歩先輩! 夏休みも終わりましたし、次はいよいよ焼き芋の季節ですね!」



「気が早いわ! これだけ暑けりゃ、まだ当分夏だろ……」



 9月に入ったとはいえ、依然として夏日は続いている。

 この調子でいけば、10月以降も暑い日が続くのではないだろうか。



「うーん、でも夏だって焼きもろこしとか、イカ焼き食べますし、同じように焼き芋食べても問題ないと思うんですよね」



「そういう問題じゃないだろ。つか、夏休み中も思ったが、お前本当に食い気たっぷりだよな……」



 花村と彼方は、夏休み中なんだかんだと遊ぶ機会が多かった。

 彼方はそのたびに買い食いをしていたのだが、量だけで言えば花村の倍以上食べていたのである。



「そうじゃないと成長しないですからね! ……まあ、それでも、太りすらしないんですけど」



 人より多く食べられるというのは、一種の才能である。

 しかしそれは、成長に繋がるからこそ優れた才能と言えるのであり、彼方の場合は残念ながらそれが(ともな)っていなかった。



「気持ちは察するが、ソレ、小町の前では言うなよ」



「私に何を言うなですって?」



「うおっ!?」



 後ろからかかった声に、花村は文字通り飛び上がって反応する。



「あ、おはようございます! 小町先輩!」



「おはよう彼方ちゃん。それで、なんの話?」



「え~っと、私がいくら食べても成長しないって話を……」



「……ああ、そういうこと」



 それを聞いて花村を一瞬睨みつけるも、すぐに笑顔に戻る。



「彼方ちゃん。彼方ちゃんは気にしてることかもしれないけど、一部の女子にとっては羨望の的になったりするから気を付けてね。場合によっては自慢と受け取られることもあるから」



「はい……。注意します」



 実際、小町には似たような経験があった。

 スタイルを褒められて、「凄い努力してるんでしょ?」という問いに対し「別に大したことしてないよ」と軽く返してしまった結果、あとで「あんなこと言ってたけど、絶対努力しまくってるよね(笑)」と陰口を叩かれることになったのだ。

 女子の陰湿な部分は、決して甘く見てはいけないのである。



「まあ、彼方の場合どう見ても成長してないけどな」



「歩先輩、一言多い!」



 そう言ってポカポカと花村を叩く彼方。

 花村はそれを笑いながら受け流す。



「……あんた達、なんか、随分と仲良くなってない?」



「え!? いや、前からこんなモンだろ?」



「そうですよ! 全然仲良くなってないです!」



 花村が慌てたように返すのに対し、彼方は普段と変わらない反応を示す。

 それを見て小町は少し眉をひそめるが、



「……そう」



 とだけ言い残して先に行ってしまった。





 …………………………



 …………………



 …………





 放課後になり、真っ先に教室を出て行こうとする小町を花村が呼び止める。



「……何よ」



「いや、今日帰りに鈴村達と一緒に買い物行くんだが、お前もどうだ?」



「達ってことは、彼方ちゃんも一緒ってこと?」



「ああ」



「……そう。私は、いい。それじゃ」



 素っ気なく断り、小町は教室を出て行ってしまう。



「つれねぇな……。仕方ねぇ、俺達だけで行くか」



「……いや、悪いが俺も所用ができた。今日はお前達だけで行ってくれ」



「え、お前もかよ。珍しいな……」



「そんなこともある。じゃあ、また明日な」



「ああ……」





 ◇





「小町」



 後ろからかかった声に、ピタリと足が止まる。



「……なんでアンタが追ってくるのよ」



「少しお前の態度が気になってな」



「……」



 振り返った小町は、悔しそうで、それでいて泣きそうな顔をしていた。



「アンタは……、普段こういうことに無頓着なのに、なんで……」



「俺が無頓着なのは、興味のあること以外に対してだけだ」



「……それは、アタシには興味があるってこと?」



「そうだ」



 からかうつもりで言った言葉を真面目に返され、小町の方が逆に動揺する。

 それが腹立たしくて、思わず首筋をガリガリとひっかいてしまった。



「アンタって、本当……。はぁ……、もういいや。ねぇ、少し付き合いなさいよ」



「もちろんだ」





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― 新着の感想 ―
[一言] 待ってました! 二人の距離は着実に近づいてますねぇ(ニマニマ 小町と鈴村もこれからいい雰囲気になるのかな? 気になります!
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