少しだけ通じ合った二人
「花村君」
かき氷を食べ終え、手持無沙汰にうろちょろしていた花村は、後ろからかかった声にビクリと肩を揺らす。
「よ、よお委員長、早かったな」
「早かったなじゃないでしょもう……。ホラ、ちゃんと彼女に謝りなさい」
促されて前に出た花村の目の前には、当然ながら彼方の姿がある。
先程は泣きそうな顔をしていたが、少し落ち着いたのかそういった気配は消えていた。
ただ、明らかに拗ねた表情は浮かべたままである。
「あ~、その、悪かったよ」
「……歩先輩は、何が悪かったと思っているんですか」
「それは……」
花村も待っている間、何も考えていなかったワケではない。
彼方が怒りだした理由についても、自分なりに答えは出せていた。
……ただ、それを認めてしまっていいのかという葛藤が、答えるのを躊躇わせた。
「やっぱり、わかってないんじゃないですか……」
「……いや、彼方。待ってくれ。言うから……」
不機嫌そうになる彼方を手で制し、頭をボリボリとかく。
「なんつーか、お前は、俺と二人で祭りに行く約束してたのに、他のヤツと一緒に先に店に行ったから、怒ったんだろ?」
「……70点です」
「採点辛いな……。これでも結構頑張ったんだぞ……」
花村にとしても、この結論はなるべく避けたいものであった。
それは、彼方の思いを少なからず認めることになるからである。
「まあ、花村君にしては上出来でしょう。これでもう鈍感のフリはできなくなったんだから、観念してしっかりエスコートしてあげなさい」
彼方の思いに、花村が気づいている……
その前提があるだけで、今後のやりとりには大きな影響が出てくる。
こういったことがあるたびに、花村は彼方のことを意識せざるを得なくなったのだ。
「じゃ、今度こそ私は行くから。この借りは今度返してもらうからね」
「これ、借りなのかよ……」
むしろ余計なお世話……とは流石に口に出さなかった。
「借りよ。このあと私、あの子達に色々説明しなきゃいけないんだからね?」
あの子達というのは、少し離れた所でこちらを見ながらニヤニヤしている女子達のことだろう。
確かに、それはそれで嫌な役回りかもしれなかった。
「……わかったよ。それじゃあな」
………………………………
………………………
………………
磯崎と別れ、しばし無言で出店を巡る二人。
そんな状況に、先に痺れを切らしたのは花村であった。
「ほらこれ、奢りだ。いい加減機嫌直してくれ」
「……別に、最初から機嫌悪くなんてないです」
「嘘つけ。目を見ろ目を」
「ダ、ダメです! セクハラです!」
「こ、こら、昨今その単語には敏感なんだから軽々しく使うんじゃない!」
彼方も半分以上冗談で言っているのだろうが、周りがそう取るとは限らない。
しかも彼方は見た目的に言えば小学生そのものなので、最悪警察を呼ばれる事態になりかねないのだ。
「……悔しいですが、超おいしいです」
「何に悔しがってるんだよ……」
花村達は喧騒とは少し離れた所で、先程買ったタコ焼きを食していた。
まだ少しギクシャクした部分は残っているが、今のところは普通に会話ができている。
「……歩先輩って、なにげにモテますよね」
「そりゃ完全に勘違いだ」
「そんなことないです。さっきの磯崎先輩だって……」
「それは本当に勘違いだ。委員長にとって俺は対鈴村係みたいな扱いなんだよ」
「え、なんですかソレ……」
「いや、それが鈴村のヤツがだな……」
……なんだかんだと話題は弾み、タコ焼きを食べ終わっても、暫くの間そんなバカ話は続いていた。
そして、話終わる頃にはもう、二人は完全にいつもの通りに戻っていた。
「……さて、それじゃそろそろ行こうぜ。まだまだ店回るだろ?」
「はい! っとと……」
勢いよく返事をして立ち上がろうとした彼方が、立ち眩みでもしたのか尻餅をついてしまう。
「そんな慌てなくても、逃げたりしないぞ。……ほれ」
そんな何げない感じで差し出される手。
彼方はその手を一瞬ぽかんと見てから、躊躇いがちに取る。
「……別に、一人でも立てましたけど」
「……お前の都合なんかしらん」
「それって、歩先輩の都合で手を差し伸べてくれたってことですか?」
「うるさい! いいから行くぞ!」
ギャアギャアと騒ぎつつ、二人は再び出店を巡っていく。
その手を、つないだまま……
一ヶ月以上空いてしまいましたが、チビチビ更新を再開したいと思います。