盗賊
俺は屋台の親父から教えてもらったダンジョンに行くために、王都を出発した。向かうダンジョンは最弱のダンジョン、スライムとゴブリンのみで構成された3階層のダンジョンでドロップも目ぼしいものはない。ダンジョンが発見された当時は期待を込めてクリアを目指す者もいたが、今となっては誰も入ろうとしない。町自体は王都から近く、周りのモンスターも弱く安全との事で人生の早期リタイアをしたものが平凡に暮らす所となっている。
王都を経って、5分程歩いていると後ろからつけてくる気配を感じる。
「おい、止まれ」
後ろから男の声が聞こえた。男3人、女1人の組み合わせに声をかけられた。見た目から男達は盗賊と言ったところか。女は魔法使いの恰好をしていた。
「なんでしょうか?」
第六感のおかげか盗賊達のことは気配で分かっていたため、驚きはなく警戒した。俺はすぐ動けるよう体勢をとる。
「転移者だな。死んでくれ」
その声と同時に魔法使いがスキルを発動する。
『火魔法:火の鳥』
女魔法使いの手から魔法陣が現れ、そこから火の鳥がこちらに向かってくる。俺は鑑定眼で効果を把握していた、対象と位置を換わることができる『空間魔法:交替』をすぐさま発動する。俺の足元と盗賊達の足元に魔法陣が発動し、場所が入れ替わる。火の鳥は俺が元いた場所にいる盗賊達に降りかかる。
「くそがっ」
一人の男盗賊が仲間を盾にしてやりすごした。直撃した三人は光の粒子となった。
(死んだら粒子になるのか。焼死体を視ずに済んでよかった。人殺しの危機感が薄いのは、称号の効果の異世界に順応したことによって常識の面で変化したということか)
俺は生き残っている盗賊に話しかける。
「俺を狙ったのはどうしてだ?」
「魔王を倒すためにきた異世界人ってことは金も持っているってことだろ?そしてまだ戦闘経験も浅い内に殺して、奪おうってことだ。そんな時に一人で歩いているお前を見つけたってことだ。だから死んでくれや」
斧を取り出したと同時に、俺めがけて走ってきた。すぐさまガチャから手に入れた『収納手袋』から『堕天使の鎌』を取り出す。鑑定眼で見た結果、『収納手袋』は手のひらに1つ装備を保持しておけるものだということがわかった。手袋は両手にあるため、保持できる数は2つとなり、左手に鎌を収納していた。『堕天使の鎌』はあらゆる事象を切り裂くと書いていたがここでは関係ない。
盗賊が斧を振りかぶった瞬間に、鎌を横向きに薙ぎ払う。盗賊は俺が体よりも大きな武器を持っていたので、余裕ぶっていたが、この鎌めちゃくちゃ軽いのだ。一瞬で盗賊を光の粒子に変えた。
「疲れた」
肉体面より精神面が特に。こんなに早く人を殺すことになるなど思っていなかった。
(金のために襲われたわけだが、粒子になるなら奪えないのではないのか)
と考えながら、称号が増えているだろう「メニュー」を開いて確認する。
『ファーストキラー』異世界で最初の人殺しに送る称号。スキル『悪魔召喚』、装備『邪神の鎌』を取得。パーティ時、不幸が起こる。
ソロが確定している俺には関係ないデメリットだ、むしろメリットしかない。少し寂しいと思う気持ちがないこともない・・・・・・
そのまま装備欄から『邪神の鎌』を取り出し、右手に収納させる。
二刀流?二鎌流?となった。
そしてアイテム欄には、盗賊の本が4つ。エルも少しだけ増えていた。
(モンスターだけではなく、人を倒してもエルが手に入るせいで襲われたのか)
再び、俺はダンジョンに向け歩き始めた。