5-4話
「なあお前ら?何回も聞いて本当に悪いな。もう1回聞かせてもらえるか?」
場所はギルドの一室。
盗賊たちを退治したところで報告の為にギルドに寄った。
受付で話をすると別室に案内された。
何故かギルドマスターに正座させられた。
ガーキが事の顛末を報告したうえで今に至る。
「偶然盗賊たちに襲われて捕まってどうにかこうにか逃げ出してきたと?」
「そう」
「お前ともあろうものが盗賊たちに捕まったと?」
「だからそう言っている。ナナシ君の訓練に付き合ってあげてたら突然襲い掛かってきて…いやあ…危なかったなぁ。あいつら卑怯なんだよ?ナナシ君を人質にとってねぇナナシ君?」
「危なかったです」
ナナシはガーキに言われた通りに返事をするだけだった。
『みうー♪』
出されたおやつでご機嫌のミウ。
「そうか…盗賊の討伐については礼を言うべきだろう。お前たちが討伐した盗賊たちの頭領だが…名は”ジェフリー・マーディ”、ヴェルメリオからも追われた快楽殺人鬼だ。…無事でよかった」
「…そんなのが入り込むだなんで国境の見張りは何をしてるの?」
咎めるわけでもなく興味もなさそうに言った。
「それについては調査中だ。ところで…」
ギルドマスターの目に力がこもる。
「討伐依頼が出る予定だったんだ。その為の書類が何故か無くなってしまったんだが知らないか?」
「さあ?…ダメだなぁ書類の管理がなってないなぁ」
「お前本当に知らないか?」
「知らないなぁ?知っているわけがない」
「…お前さんは?」
ギルドマスターに睨みつけられてそっと目線をそらすナナシ。
「お前さんは知らないか?」
”は”の部分にアクセント。
「知らないです」
「本当か?」
「本当です」
本当に知らない。
『なんだー?おまえはご主人をうたがうのかー?』
隣でおねえさんが訳してやると「そうだウサネコもっと言ってやれ言ってやれ」とヤジが飛んだ。
ギルドマスターはキッとガーキを睨みつけた。
しかしできるのはそこまでだ。
歴戦の強者であるギルドマスターとはいえ、ガーキと事を構えるとなっては死ぬ覚悟が必要だった。
ガーキ自身それが分かっているのでなおたちが悪い。
「まぁ…とりあえずお前さんが無事でよかった。ウサネコがいるとはいえ無茶なことするんじゃないぞ」
ギルドマスターはナナシを見ながら言った。
ガーキが「あれ?おれは?」と言っているがナナシも触れないことにした。
◆
「シクステン…さん?あのガーキという人は何者なのですか?」
ナナシ達との生活でアリスも多少の好奇心を示すようになった。
「あれ?知らないんだ?」
シクステンは意外そうに言った。
「東方の国の出身で門番やったり傭兵やったり賞金稼ぎをしてる刃物マニアかな。ともかく刃物を扱わせたらこの国では右に出る者はいないだろう」
「この国で1番」
「ああこの国で1番だ」
「何でそんな人が門番を?」
「殺しても死なないようなヤツなんだが何故か体が弱くてね。門番は立ってるだけでいいからってのと…一番の理由は一番合法的に人を斬れる率が高いからだってさ。正当防衛でスパッ、犯人が逃走したからスパッ、取り押さえようと抵抗したからスパッ…て具合」
「「そんな人門番にしちゃだめなんじゃ…」」
ナナシとアリスが同じ感想を口にした。
「…………いやまぁ…………うん。悪いやつには強いぞアイツ」
フォローとして出た言葉はそれだった。
「昔やたらに悪人退治しててとうとうマフィア達の目についてしまったことがあったんだ。アイツを消そうと身辺を嗅ぎまわったときに「やった!向こうからやってきた!」って一人で切り込みかけやがった」
シクステンがそんなウソを言うタイプではないだろうがにわかには信じがたい。
「…頭のネジが飛んでいるとしか」
バニラの口からも本音が漏れる。
「ナナシ君何か収穫はあったかい?」
「…ありました」
「ほう?」
「あの…ゆっくりできるところから強くなっていこうと思います」
圧倒的な力を見たナナシの感想はそれだった。
自分はああはなれない。
「それでいいんだよ」
シクステンはゆっくりと頷いた。




