4-2話
『ぴよー!』
ヤキトリの口には、ライターよりかは少し大きい程度の火が灯っていた。
成長の第一歩だ。ヤキトリが火を噴けるようになった。
指で丸を作った程度の大きさだが火の玉も吐き出せる。
「危ないからやたらそこらで吐いちゃだめだよ」
『ぴよ!』
「部屋の中焦がしたらご飯抜きだからね」
『ぴよ~♪』
分かっているのかどうなのか頷いてくれた。
図鑑によると火喰い鳥は狂暴らしいので、今のうちにしつけておかないと手に負えなくなってしまいそうだ。
子どもの成長は早い。抱き上げて膝の上に乗せる。孵ったときと比べて一回りくらいは大きくなっただろうか。寝てるときにみぞおちに乗られるとちょっと苦しい。
「いつかお前はこうなるんだってさ、ヤキトリ」
ナナシはヤキトリに図鑑の凛々しく成長した火喰い鳥の載ったページを開いて見せてやった。詳しく成長速度までは載っていないのでそれがいつの日になるのかまでは分からない。図鑑によると大人になった時の大きさはミウと同じくらいにまで育つようだ。
『ぴよ~?』
首を傾げるヤキトリをやさしく撫でてやった。
後ろからミウの恨めしそうな声が聞こえてくる。
ナナシはミウの頭にヤキトリをのせてから頬を撫でてやった。
「よしよし」『ぴよぴよ』
マネしてヤキトリもミウの頭を撫でてやる。
ミウはフンと息を吐いた。
ちょんちょん。
「ん?」
人差し指で自分を指さしているベファナ。
「はいはい」「むふー」
特に理由はないが撫でろというので撫でてやる。
「…」「…?」
ふとアリスさんと目が合う。
…撫でて欲しいのだろうか?
ナナシは小さく手を上げて首を傾げる。
「いっいいわよ!?」
イエスなのかノーなのか…?分からないけど手を伸ばす。
アリスさんが一瞬ビクッとしたがじっとそのままだ。
そのまま手を伸ばしていく。
しかし触れる直前のところで慌てて飛びのいてしまった。
「なっナナシ君!訓練はいいの?」
「あっうん」
アリスさんがいそいそと外に出た。ナナシも出るとミウもヤキトリもベファナもその後ろに続く。
今日も訓練だ。
ナナシはミウに乗ると訓練用の竹やりを構えた。
対峙するは案山子。いい加減名前を付けてあげようか。名前がついてるのかもしれないけどシクステンさんからは聞いてない。
今日は案山子の胸に的をつけさせている。
今日の訓練は騎馬戦もとい騎兎猫戦?の訓練だ。
とりあえずお面をかぶらず素のままで挑戦してみる。
『みうー!』
訓練なので勇ましい鳴き声の割にゆっくりとした速さで案山子に向かって行く。
案山子もてんてんと寄ってくる。
すれ違うまで、槍が届くまであと少し。
ナナシは槍で狙いを定める。
ゴン。
すれ違いざまに響いたのは鈍い音だった。
案山子の拳が鎧を叩いた。槍は的に当たらなかった。
「ミウ、もう一回」『みう!』
ミウは反転して再び突進。
繰り返すこと三度案山子と交差。響いた音は全部鈍い音だった。
一旦ナナシはミウから降りると、兜を取り頭をかきながら舌打ちをした。
案山子を見るとバカにするように体を揺らす。拳が空を切っていた。
「ナナシへたくそー」
「…うるさい」
指をさすベファナに仕方なしの苦笑い。
ミウがのそのそとベファナのそばによると軽くウサネコパンチ。
「なんだよー」『みうみうー』
お返しにとベファナが両手を振り上げぽかぽかと叩く。
また案山子を見ると挑発するように腕を上にあげている。
「む」『みう!』
次の瞬間案山子の胸の的に火矢が炸裂した。
そしてミウが走っていって案山子の頭をはたく。
ヤキトリが案山子の体で燻ぶっている炎を美味しそうに啄んでいる。
頭がゴロゴロと転がっていくのをアリスさんが追っかけていった。
その姿を見て二人は満足したようだ。自分が言うのはいいけどナナシがからかわれるのは案山子と言えども許さないらしい。
なんだかんだでみんなそれなりに仲が良い。
…たぶん。
◆
ナナシにベファナにアリスにミウにヤキトリ。
ナナシ一家勢ぞろい。
場所はギルド。
シクステンにギルドへ届け物のお使いを頼まれ、届け終わったところである。
癖で立ち寄る尋ね人の掲示板は相変わらずであった。
「”怪獣使い”君?」
ナナシに声をかけたのは一般的な冒険者の服装の青年だった。
何となく見覚えのある顔だ。どうにか頭の中から絞り出す。
確かベファナの住んでいた森の調査の時にいた…そうだエスト村青年団の人だ。
あの時ケガのはこの人じゃなかっただろうか。
冒険者の装備をしているところ治ってたようだ。
よく考えればあれからひと月以上経っているのだ。
青年がどうもとベファナとアリスに会釈した。
あの時は名乗っている余裕もなかったが、この方はジョンさんだそうだ。
「お久しぶりです」
「うちのみんながお世話になったみたいでありがとう。あの時はお礼を言う余裕もなかった。あれから元気だったかい?」
「ええ」
「そうか…君はソロだと聞いていたが今回はこちらの方々と組んでいるのかい?」
「ええ、”賢者のフラスコ”ってクランにいるんですがそのメンバーです」
「”怪獣使い”君は今日はどうしたんだい?」
「ギルドへ荷物を届け終わったところです。それが終わって他に何か仕事がないかなぁと」
「ということは手は空いているかい?」
「ええ特に予定はないです」
「それなら良ければ私の依頼を受けてくれないか?」
「何のお仕事です?」
「いやぁ大したものじゃなくて申し訳ないんだが…レグミナの駆除だよ。さっき仕事の掲示板に依頼を貼る許可をもらってきたんだけど誰が来るか不安だったんだ。良ければ引き受けてくれないかい?」
ジョンはナナシに依頼の貼り紙を渡す。
依頼の貼り紙を見ると”レグミナ退治。報酬は出来高に応じて採れたての野菜と現金”と書いてあった。
とりあえずアリスさんに貼り紙を回す。
「いいんじゃない?」
アリスさんはもう読んだの?という速さで返答をした。
アリスさんがいいと言うのなら安心だ。
「いいですよ」
「そうかありがとう!明日からよろしく頼むよ」
ジョンは手続きがあるからとギルドの奥へ向かっていった。
「アリスさん?レグミナってなんです?」
引き受けておいてなんだが、レグミナがなんだか分からないのでアリスさんに聞いてみる。
「魔物化してしまった野菜よ。マナが濃い場所で野菜を育てるとよい野菜が育つんだけど野菜がマナを吸いすぎると魔物と化してしまうのよ」
アリスさん曰く、そんなに割のいい仕事じゃないが断る程でもない仕事だそうだ。
仕事の依頼の掲示板を見ても特にこれといったものはなかった。
まぁ仕事はとりあえずやってみないと分からない。
仕事は仕事として付き合いを深めることも大事だろう。
ナナシ達は受付へ張り紙を持って行って、引き受ける手続きを開始したのだった。




