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見習いナナシの仮面劇  作者: ころっけうどん
55/198

3-9ミウとシクステン1

「みうちゃ~ん!」


『ベニちゃ~ん!』


ギルドの入り口でベニちゃんが駆け寄ってきた。

ミウは素早くお腹のほこりを払いハグの姿勢を取る。

ナナシも素早く”女神のお面”をかぶり浄化をミウにかけてやる。


ベニちゃんがダイブしてひしと受け止めるミウ。


「おはようベニちゃん」


満足しただろうと頃合いを見計らって声をかける。


「おはようですナナシおにいちゃん!ほら見てくださいです!」


ベニちゃんが見せてくれたのは銅板の印だ。


「これなあに?」


「む~錬金術師の合格の証です!」


「ごめんごめん…そっかおめでとうベニちゃん」


「ミウちゃんのおかげでうかったです!」


「そうなのミウ?」『みう~♪』


今回の話はナナシがフィアンマドーナとの戦いの後、深い眠りについていた時の話である。



『みう~!!』


ナナシの愛兎猫のミウは悲し気に遠吠えをあげた。


困った。


あれから7回のお昼寝と3回のお休みと5回のおやつを食べた。

なら今日が約束の日のはずだ。テストっていうのがあるからベニちゃんが僕をもふもふしたがっている。


ベニちゃんは一度僕を騙したとはいえ街へ行かないと。


一回騙されたとはいえ忠義に篤いウサネコ族としては約束は守らないといけない。


ああでもご主人とも一人でおさんぽに行ってはいけないと言われている。


ご主人との約束も守らないと。


『みう~ん…(どうしよう…)』


「おはようミウちゃん。はい朝ご飯ですよ」


やって来たバニラはミウのお皿にカリカリを盛る。


「あれ?…ミウちゃん元気ないけどどうしたの?」


いつもなら元気よく鳴き声を上げるのにとバニラは聞いた。


『みう~ん…』


「何かいつもと違うわね…どうしたの?お腹痛いの?」


『みうみう』違う違うという鳴き声だ。


「ご主人様が心配?…大丈夫よ。もう治療は済んで体に異常はないから後は目を覚ますのを待つだけだってマスターが言ってたわ」


『みうみう』それもあるのだろうがちょっとちがうという風な鳴き声だ。


「…やっぱりナナシ君のご飯の方がいい?」


『みうみう』さっきと同じ。


「うーん……わかった!おさんぽ行きたい?」


『みう…みう!』それだとポンと手を叩く。


ミウはバニラにすり寄り背中に乗せようとする。


「あっダメよミウちゃん」


『みう~?』


「ごめんね。私はまだお外へはいけないの」


『みう~』耳をぺたんと分かりやすくしょんぼりしている。


「そんなにおさんぽ行きたいの?………そうだ!ちょっと待っててね」


そういうと屋敷に飛び込んでいった。


ミウは耳を澄ませる。


ご主人の寝息。どたばたと音が聞こえる。階段上ってドアを開けて何かガサゴソ…階段を下りて戻ってまいられる。登るときと比べてずいぶんゆっくり。


ウサネコ族の耳にかかればこれくらいの探知は朝飯前なのである。


「おまたせミウちゃん」


軽く息を切らしてバニラはシクステンをお姫様抱っこしながらで戻ってきた。


抱きかかえられてきたシクステンは寝間着で愛用の黒のコートで包まれていた。

シクステンは小さく寝息を立てている。

目にくまができていて今がいつぶりの睡眠なのかわからない。


「たまにはマスターも日に干してあげないとね。マスターと一緒なら大丈夫よミウちゃん」


『………』


バニラには見えないがフレーメン反応の何とも言えない顔をする。


ミウは迷う。


この人何だか分からないにおいがしてちょっと…いやいや愛するご主人とお友達のベニちゃんとの約束を守るためには……………………………………しょうがない。


少々の葛藤の末、腹をくくったミウは伏せの姿勢になる。


『みうっ』やってくれと鳴いた。


バニラはミウの背中にシクステンを投げて乗せた。

それでもシクステンは目を覚ましそうにない。


「マスター落っことさないでね」


バニラは念の為落ちない様にぐるぐるとロープでくくった。


『みう!』


行ってきますと敬礼をするミウ。


「ばんごはんまでには帰ってくるのよ~」


『みう~!』


背中のシクステンに構わずミウは風の如く駆けだしていった。

全力で駆けだし20分後に町の門に到着。


「おう!久しぶりだな!」


元気よく声をかけてくれたのは門番さん。


「つまみの残りだけど食うか?」


わあい。お魚だ。…うんちょっとしょっぱい。


『みう~』いつもおやつをありがとう。ご主人?ぼくちゃんとお礼言えたよ?


さて約束のベニちゃんのところへ…入ろうとすると止められてしまった。


「おっとダメだよ身分証見せないと、ご主人はどうした?」


ふるふると首をふった。

今日はご主人いないので背中のコイツにやってもらおう。


まだ寝てる。


ゆすっても起きやしない。


起きろこら。


しっぽでべしべしと叩いても起きやしない。


ダメだ…どうしよう…。


『みゅ~ん…』


「だめじゃないか。一人でお散歩か?」


『みうみう~』首を横に振るミウ。


「どうしたんだ?今日はなんかいつもと…」


「何をやっている」


のっそりと現れたのは剣士のおにいちゃん。

いつもモフモフさせてあげると美味しいおやつをくれるいい人だ。


「おお…久しぶりウサネコ。元気だったか?」


懐からサッと魚の干物を取り出しひょいと投げる。

干物は放物線の最高点に達した瞬間ミウの口の中だ。


「…あれ?今日は一人?」


『みうみう』


トントンとしっぽで背中を叩く。


「背中?あれ…これシンさんのコート…」


コートをめくって中を確かめたガーキの声に怒りがこもる。


「この野郎…ウサネコ様に乗って出勤とはいつから偉くなった…」


貴族ではあるのでシクステンは一応そこそこ偉い。


「…ちょっと来て」


『みう?』


「はいそこに伏せー」


一瞬止めようとした兵士はガーキの一睨みで持ち場へと戻っていった。


ミウは堀のそばに横向きに伏せる。

くくり付けていたロープはいつの間にか切れていた。

ガーキはシクステンを包んでいたコートを外す。

シクステンがミウの背中の上で仰向けになり日に照らされ苦しそうに呻いた。

そしてガーキは鞘をシクステンとミウの間に差し込んで…。


「よっと」


どっぽーん。



「へっくっしょい!!」


『みう~』もー汚いなぁーという風にミウが小さく唸る。


「あ、悪い悪い…う~寒い」


不満そうな鳴き声を聞いてシクステンは謝った。

周りの視線が集まっていた。

それもそうだろう。

ミウの上でシクステンはパンツ一枚で体育座りで丈の短いコートに無理矢理包まっていた。水浴びをするにはまだ寒い。


「しかしなんでウサネコは町に来たんだ?」


ふむ。一応ご主人がお世話になっている。説明くらいはしてやろう。


『みうみう』「ふむふむ」


『みうみう、みう!』「ふむふむ、ふむ!」


『みうみう?』「いや?ちっともわからん」


『みうー』「まぁいいや。大方散歩だろ?」


体育座りから胡座に姿勢を変えるシクステン。


「とりあえずお前さんの背中に乗っていればいいんだな?」『みうっ!』


もうそれでいいよ。大人しくしていてくれ。

ギルドの建物が見えてきた。


「…あ、ウサネコそこ左曲がってくれ」『みうみう!』


「あとでなんか食わせてやるよ」『みうー♪』


いくつかの角を曲がって服の看板がかかったお店へと着く。


「ちょっとそこで待っていろ」


『みうみう!』


「わかったわかった早くするよ」


裸足でじゃりっと足音を立てて店に入っていく。


「ばあちゃんいるー?」


「あら?よく来た…まぁなんて格好だい!?」


「堀におっこっちまったんだよ」


「全くお前はその歳にもなって…あんたそのコートまだ着てるのかい?」


「これしかなくてね」


「これはあたしの傑作だけどあんたには小さいしいい加減古いんだから…稼いでいるんだから自分のを作ったらどうだい?」


「ばあちゃんここほつれているから直してくれないかい?」


「…はいよ。お前もあの人に似て聞かない子だねまったく。夕方に取りおいで」


「そりゃどう…へっきし!ばあちゃん適当に服もらっていくよ」


「ああそうだ。この間見せてもらったジャッシーとやらを見様見真似だけど私も作ってみたよ。ちょっと着てみないかい?」


『みうみう』


「どれどれ?色は黒か?…うんいい着心地だ」


シクステンは動きやすさを損なわず鎧を上回る防御力の性能に目を見張る。


「いくつか試したんだけど…やっぱりあの質感を出すにはアイギパーンの毛を使うしかなかった」


アイギパーンとは六ツ星クラスの羊と鬼を混ぜたような姿の魔物である。


「素材だけでも五百万超えるな…。加護も一級品。ばあちゃんの見たところだとあれは普段着なんだろう?普段着にしちゃ豪華すぎるね」


「どうやって作った物なのか私には想像がつかないね。あれだけの素材を使って縫い目は均一、これで加護をつけないなんて逆に器用なもんだよ。私も”裁縫師”の端くれ。気になるから本気になって色々調べてみたけどどこの服なのか分からなかったよ」


「ばあちゃんでも分かんないのか」


身につけていた衣類からナナシを探ろうとしたシクステンの目論見は外れてしまった。


「ああ、かかった材料費全部”賢者のフラスコ”に回しておいてくれ」


「馬鹿言うんじゃないの。わたしにはもう食べることぐらいしか使うことがないからね。お前も何かと入用だろう?」


『みうみう!』


「せめてこのジャッシー買うよ。いくらだい?」


「そんなんでいいならお前のクランの代表就任祝いにあげるよ。…あの人のクランを継いでどうだい?順調かい?」


「ああ、順調だよ。うちの新人がなかなか活躍しててね。三か月ほど前にこの町に来てギルドに登録したばかりだというのにもう二ツ星になった逸材だよ」


『みうみう!』


「その子がそのジャッシーを着てたっていう?…一体どこの子なんだい?」


「さあ…?話したっけ?うちの家の前に倒れていたんだ。それで身寄りがないようだからうちで…」


『みーう!みう!』ぽんぽんと石畳を叩く音が響く。


「なんだい外で猫が騒がしいねぇ」


「ごめんあれうちのだ。その新人がウサネコ飼ってるんだけど今日は散歩の代理なんだよ…」


「どれどれ?まあよ!?随分大きなウサネコだねぇ」


『みーう!みう!』


「…なんだい?なにか急ぎの用かい?」


「おい!うるさいぞ!」


待たせておいてその言葉に額に四つの角が浮かんだミウはシクステンを咥えた。


「こら放せ!」


『みふみふ!』


「何か急ぎの用なんだろ?ほら行っといで」


『みふみふ~』「はなせー!」


「また来るんだよ~」


シクステンにミウに引きずられながらギルドへ向かって行った。

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