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見習いナナシの仮面劇  作者: ころっけうどん
21/198

1-20話

『ねーご主人?なんだかみんなぼくの方見てない?』


「ミウが可愛いからじゃないの?」


『そっかー♪』


巨大なウサネコを連れた時期外れのウサネコのお面をかぶっている少年。

人の目を引くには十分だった。

ナナシは人の視線がミウだけでなく自分にも向いていることを感じていた。


ミウはご機嫌の表情で女の子に肉球を振る。

女の子は呆然とした顔で手を振り返してくれていた。


人通りが多くなってナナシはミウから降りて歩く。

ミウはナナシの半歩後ろをのそのそついてきている。


ナナシはため息をついた。これから借金生活が待っているので気が重い。

昨日はスリの騒ぎで稼げなかったので昇格の話が無くなってしまっただろうから。


ギルドに到着。


「ミウ。良い子で待ってるんだよ」


確か規則では大きな魔物は入れないはずだ。


『え~ぼくおるすばん~?』


「たぶんすぐだから。ほらいいこいいこ」


『知らない人についていったり食べ物もらったりしたらダメよ~』


ミウの見送りにナナシは躓きながらギルドの中へ入って行った。


朝なので人が多くシクステンさんは見つけられない。そういえばギルドで待ち合わせというだけで時間も場所も決めていないことに気付いた。


「あら?ナナシ君」


ウロウロしているといつもの受付のお姉さん。名前はまだない。欠伸をかみ殺して眠そうだ。


「ごめんなさいね夜勤明けで…昨日は来なかったけどどうしたの?」


「ちょっと色々ありまして…」


「そう?ああそうそう。昨日クレハから急用ができたって言伝を預かっているわ」


「クレハさんから?」


「『昨日は一緒に狩りに行けない。月末までの契約に反してしまったのでヒダルヒダルの情報料の私の取り分を違約金代わりににして欲しい』だって…」


お姉さんのやけに似た声色にドキッとする。


「クレハさんの取り分って預かってもらうことはできますか?お世話になったのでそこは山分けにしたいのですが…」


「良い子ねナナシ君は…大丈夫よ。私の方で責任をもって預かっておくわ。2階の右手の廊下の一番奥の205の部屋でシクステン様が待っているわよ」


「ありがとうございます」


おねえさんは仮眠室で一眠りしてから帰るそうで階段を上ったところまでは一緒だった。


ナナシは前と同じ205の部屋の戸をノックした。


「どーぞー」


入ると本を片手にサンドイッチの朝食を取るシクステンさん。


掛けるようにすすめられてサンドイッチもすすめられた。


折角なので今回はいただく。うん、うまい。


「記憶は戻ったかい?」


「いえ…まだ…」


「そうか…私もいくつか知り合いに当たってみたが心当たりはないそうだ。まぁおいおい見つかるだろう。ところで上手くいったかい?」


ダメだったことを伝えるとシクステンさんからは予想してたかのようにすぐ返事が返ってきた。


「そうか…。まぁのんびり働いて返してくれるかい?悪いようにはしないさ」


「…はい」


しばらくの沈黙。


「半年勤めてくれれば欠乏症の治療費も割り引くよ…」


ドアをノックする音で中断。

シクステンさんが開けるとギルドの職員の制服を着たお姉さんがいた。


「失礼致します」


「おや?…何かあったの?」


「ご報告させていただきます。シクステン様、ナナシ様おめでとうございます。ヒダルヒダルの目撃情報提供及びに昨日の窃盗犯の逮捕協力の功績を持ちまして一ツ星への昇格が決定致しました。こちらが情報料になります。お納めください。並びにシクステン様。代表を務められておりますクラン”賢者のフラスコ”の一ツ星への昇格を報告させていただきます」


「あら?ナナシ君見事クリアじゃないか」


拍手をするシクステンと呆然とするナナシ。


「では今後もギルドへの貢献をよろしくお願い致します」


丁重に頭を下げてお姉さんは出て行った。


「約束通り魔力欠乏症はタダで治療しよう。……ところでナナシ君。これからどうする?」


「これからと言いますと…?」


「いやこれで借金も返し終わって治療も始まる。それで君がうちのクランにいる理由がないと思うが…君さえ良ければこれからもうちで働く気はないかい?」


「まだ居てもいいんですか?」


「大歓迎さ。うちのクランの名を上げるには是非ともいてもらいたいところだよ。とりあえず治療のためにいったんうちに戻ろう。今から戻って大丈夫かい?」


「はい!」


サンドイッチを食べきって部屋から出た。


シクステンさんはあの屋敷に住むことを提案してくれた。ありがたい。


孤児院に戻るのもちょっと考えたけどミウの場所がないと思った。


あれだけ広い屋敷ならミウの場所もあるだろう。


「あの…シクステンさん」


「ん?」


「その…ミウもいいんですか?」


「ミウ?…ああもしかしてウサネコ?」


「そうです」


「うん、別に一匹くらい構わないよ。そう言えばあのウサネコはどうしたんだい?」


「外で待たしてありますよ」


「外で?何でまた…」


腑に落ちないシクステンは頭をかいた。


「まあいいや。いったんうちに戻ろう」


シクステンとナナシは部屋を出た。


「ところで渡した薬は使ったのかい?」


「えっ?ええ…」歯切れの悪い返事を返した。


「ちょっと失礼…あの薬本当に使ったのかい?」僕の体の確かめるように触って言った。


「おーい!この子の飼い主はどこだー!」


何だろうと二人は顔を見合わせる。


階段をロビーが見えるところまで降りるとそこには人だかりができていた。


「こいつはまさかキムンカムイか?」


「えっ?これクマか?でかいけどウサネコじゃあ…」


「バカ!こんなでかいウサネコがいるか」


…ものすごく嫌な予感がした。


「なあ?頼むよ?いい子だから外へ出てくれないか?」


『みゅ~ん…みゅ~ん…』


ロビーの真ん中で涙を浮かべいやいやと首を振るミウがいた。


「あれは…キムンカムイかな?珍しいな。ずいぶん人になれているみたいだけど」


「キムンカムイ?」


「森の主と称される上級のクマの魔物さ。丈夫な真っ白な毛皮で力も強いし魔法も扱う。凄いな、気性の荒いあれをあそこまで飼いならしているとなるとどこの腕のある”魔物使い”だろう?」


『みう?みうー!』


ナナシを見つけたミウがのそのそと人ごみをかき分け寄ってくる


『みうー!みうー!』


ナナシにすり寄りながら不満げに鳴く。


言葉が分からないのでナナシはお面をつけた。


『ご主人ずるいよ~。一人だけおいしいもの食べて~。ダメって言ったじゃんかよ~』


ミウは鼻をナナシの顔にあててぶうぶう言った。


「…わかるの?」


『わかるよ~。ウサネコの鼻と耳はすごいんだよ~。サンドイッチ食べたでしょ~?ぼくの分は~?』


シクステンは茫然として持っていた本を床に落としていた。


「あっほらミウ…今日からこのお兄さんのところでお世話になるからちゃんとあいさつするんだよ」


ミウがシクステンの臭いを嗅いで顔をしかめて挨拶をした。


『よっ!』


ミウの肉球を見せての挨拶に呆然としたままシクステンは手を上げて挨拶を返した。



ギルドから怒られたナナシとシクステンは早々に町を出た。


ぶうぶうと不満の鳴き声を上げていたミウは、おやつをもらって上機嫌に戻っていた。


「あの薬をまさかウサネコに飲ませるとは…」


シクステンの表情は頭痛をこらえているようだった。


「すいません…」


しおらしく謝ったが後悔はしていなかった。


「まぁ…やってしまったものはしょうがない。きっとウサネコにはあの薬の効き目が強すぎたんだろう。それでこんなにでかくなったんだろうな」


いくつかシクステンの口から専門的な話が出たがナナシにはわからなかった。


ミウが無事だった。それだけで十分なのだ。記憶は…まあそのうち戻るだろう。


「乗り心地はイマイチだな」


ミウの背に乗ってシクステンが呟く。


『だったら降りろー!』


急ブレーキがかかり二人が投げ出された。


シクステンは何とか着地。ナナシは不器用な着地となった。


「だめだ、ずっと乗ってると尻が痛くてしょうがない。そのうち手綱と鞍でも買ったほうがいいよ。良い物を買えばこいつの能力もあがる」


ナナシも腰のあたりに手をやる。乗っていて跳ねると衝撃がお尻に来て痛い。


シクステンが歩きだしナナシがそれに続こうとした時だった。


『あぶなーい!!』


「もがっ!?」


突然ミウがナナシにのしかかられて押し倒された。


シクステンにはナナシの手しか確認できない。


『ご主人!だからそっちはだめだよ!あぶないよ!臭いのがいるよ!?』


「もごっ!もごっ!」


這い出ようとしているナナシをミウは肉球で押さえつけている。

傍から見た姿はクマか何かの猛獣に襲われているようにしか見えない。

もがいている手が段々と勢いを無くしていく。

手が痙攣し始めたのをみてシクステンは止めに入った。


「おい」


『なんだよ!』


シクステンには言葉が分からないが不機嫌そうなのは分かる。


「お前のご主人が死にそうだから離してやれ」


下を指して言った。


『…みう?』


肉球の押さえつける力が弱まる。ナナシはなんとか肉球の下から這い出した。

息も絶え絶えな姿を見かねてシクステンが回復薬を渡す。


「…何が危ないって?」


回復薬を飲みながらミウを睨め付けてやる。


『ほら!あっちあっち!くさいのくさいの!今日はおねえちゃんいないんだよ!?』


肉球を指す方に目をやる。向かっている方向まっすぐだ。

餓鬼がいるらしいが…どこ?

パッと見た感じでは分からない。

手をかざして目を凝らす。

遠くに黒っぽい影が動いている気がする。


「…あっちになんかあるのか?」


「餓鬼がいるみたいです。あの黒い点がそうかと」


「どれ?」


シクステンさんも同じように目を凝らすが見えないようだ。


「…一匹か?」


「たぶん」


再度目を凝らして確認して言った。


近くに木が生えている。そこ隠れていたとしても群れではないだろう。


今更一匹ぐらい大丈夫だ。


「じゃあいいや、いこう」


シクステンさんも同じ判断のようだ。


『あー!!』


一歩進んだ瞬間またミウが騒ぎ出す。


「ミウ!」


叱ると弁解するようにすり寄ってきた。


『ご主人!危ないからあっちにしよ!?ねっ?ねっ?』


そう言って指すのはおやつの木の実をくれるトレントの住む森がある方。


「今度は何だって?」


イラつき始めたシクステンさんにそのまま伝える。


「餓鬼が危ないだって?…このデブネコの方がよっぽど危ないんじゃないか?」


『なんだとー!?』


毛を逆立てて唸り声をあげ威嚇するミウ。もうクマが威嚇しているようにしか見えない。


「…やる気か?」


シクステンが懐から取り出したフラスコには紫色の液体が波打っていた。


「こら!ミウ!」


怒られたミウは伏せたまましょんぼりと威嚇を止めた。

とりあえず言うことは聞いてくれる。


「いや、どう考えたって今ならデブネコのが強いだろう」


『デブネコ言うなー!』


今にも泣き出しそうなので撫でて宥めてやる。

シクステンさんの言う通り今ならミウの方がずっと強そうである。


「ミウ、大きくなったから餓鬼ぐらいばーんとやっつけられるんじゃないの?」


『ばーん…と?』


軽く振るったであろうミウの前足から空気の唸る音が聞こえた。


「試しにやってみたらどうだ?」


シクステンさんに言われ近くにある木まで移動。ミウはナナシの陰に隠れるようについてくる。


「よし、ミウ行け」


『ぼく!?』


「大丈夫だって。それだけ大きくなったのならものすごく強くなってるって」


『…気付かれたら?』


「大丈夫大丈夫、すぐ助けに行くから」


剣を見せていつでも抜けるように準備をして見せる。


『…怪我したら?』


「あのお兄さんがすぐ治してくれるって」


『…う~』


言い訳の無くなったミウが渋々足音を立てないようにのそのそ進んでいく。一歩進むたびにちらちらとこちらを振り返る。いけいけと合図をするとそのうちいい加減諦めたようだ。振り返らずに餓鬼の背後を取った。無論気付かれていない。ミウが大きく前足を振り上げた。最後にまたこちらを振り向いたので頷いた。


『…えーい!』


ドスンと音がした。そのあとに小さく何か潰れる音がした気がした。


前足を下ろしたまま固まっているミウにナナシは駆け寄った。その後をシクステンは歩いて近づく。


「ミウ、大丈夫?」


とりあえずナナシは声をかける。振り下ろされた前足の周りはへこみ血が飛び散っている。嫌なにおいが鼻に突く。


『…うん』


恐る恐るミウは前足を上げてそばの土に前足をこすりつけて拭いた。餓鬼は原形をとどめていない。予想通り見ていなきゃこれが餓鬼とは誰も分からないくらいに潰れていた。


「…餓鬼じゃ腕試しにもならんだろ。今度はこの木に一発やってみたらどうだい?」


シクステンは隠れていた木の幹を指す。ナナシとミウは互いに頷きあった。相手がタダの木である分、今度はミウも乗り気なようだ。幹に軽く肉球を当てて狙い定める。大きく振りかぶって肉球を叩き付ける。


ばきっ!


肉球の当たった個所がえぐり取られた。支えを失った木がバキバキと音を立てて倒れていく。


「…本当のクマ顔負けだな。怪力に加えて五感での探知能力と刃も通さない程の鎧みたいな毛皮。…ここらへんの魔物じゃ相手にならないだろうな」


『…ご主人?ぼく強くなった?鬼のおねえちゃんになら勝てるかな?』


肉球をもきゅもきゅさせながらミウが言った。


「うん、今なら勝てるかもよ」


ナナシがあごの下をなでてやると気持ちよさそうに鳴いた。


「油断するなよ。そのデブネコは強いけど弱点が無いわけじゃないからな」


そう言うとシクステンは先ほどのフラスコを取り出し栓を抜いた。


『みゅあー!!!?』


ミウが鼻を押さえて蹲る。


「何ですそれ?」


ナナシの鼻にも微かにツンとくる刺激臭が届いた。


「護身用の催涙剤だ。鼻がいいやつには効果覿面だ。躾け用に薄いの作ってやろうか?」


『だっ!だめだよご主人!』


「…わかったわかった。いい子にしてるんだよ」


『あい!』


「ほら行くぞ」


シクステンとナナシは並んで歩いてその後ろをのそのそミウがついていく。

他愛のない話をしているうちに森の入り口についた。

案内の為シクステンが先に歩いていく。


「…ん?」


ナナシは振り向いた。


『どうしたの?ご主人?』


「いや…何でもないよ」


穏やかな風に乗ってどこからか声が聞こえた気がした。


頑張ったね


そう聞こえた気がしたのだった。

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