8-28話
「カエルさん?」
進もうとしている先から下手なカエルの鳴き声が聞こえてくる。
産声ではなく断末魔の叫びのような引きつった苦しそうな声だ。
「…カエルか。跳ねると厄介な相手だな」
姿はまだ見えないがクレハはすでに敵として見据えていた。
聞こえてくる先にあるのはダンジョンの出入り口。
きっと多分最もいて欲しくない場所に陣取っている。
警戒度を上げる。周囲に魔物はいない。敵の居場所は概ね想定がついている。その状況では体力を消耗してしまうだけかもしれない。
魔物とも遭遇しないまま祠とそして化け物の姿が見えてきた。
「アレがカエル?」
「ナメクジとか芋虫みたい」
嫌悪感を抱かせる見た目だ。
「あれあれ」
ベファナが化け物の方を指さしてナナシの袖を引く。
「どうしたベファナ?」
「だれかのうえに…へびさんとかえるさんとむしさんがたくさんのってる」
ベファナの言葉を聞いて魔物が見当たらない理由が分かった。
あそこにみんないるからだ。
ヘビ、サソリ、カエル、etc。
それら人から忌み嫌われる生き物をかき集めて混ぜ合わせる。そうすればあんな生き物が出来上がるんじゃないだろうか。
爬虫類と両生類、それに昆虫も混ぜ合わせた結果はぬめぬめとナメクジのような体だ。変態の途中で生まれたみたいだ。
足は多足。棘やら鱗やら虫の目のような器官が体のあちこちに生えている。
怪物は引きずるように動いていた。
「デカいせいか動きがとろいな」
血が騒ぐのかクレハの言葉遣いが乱暴になりつつある。
すでにやる気のようだ。金棒で軽く自分の肩を叩く。
口からはげぼげぼと何かを吐いている。
粘液を滴らせて這っている。滴って地面に触れた粘液からはシューシュー煙が上がっている。
『みう~』
ミウだけじゃなくみんな思わず顔をしかめる。
うっすらと体に良くなさそうなすえたにおいが漂ってきた。
「今回の仕事はあんな種類もわからないようなのをどうこうすることじゃないと思ったんだけどね」
そう言いつつアリスは鎖鎌を抜いていた。
「あれは退治しないと危険だ。脱皮したばかりの今が好機だ」
「貴女の役目はナナシ君の護衛よ」
「分かってる」
クレハは盾と金棒を構える。
まとっている雰囲気が盾でぶん殴りに行きそうだ。
「燃やす…の?」
ベファナが不安そうに言った。そういいつつ手のひらに一瞬火を灯す。
燃やすのが嫌なのではなくあの魔物の見た目が嫌なのだろうきっと。
3人ともやる気だ。
出入り口にいる以上あの魔物は障害になる。
ナナシだけが躊躇っていた。
「ナナシ殿、グズグズしてはられない。虫のような魔物だ。速く倒さないとアレは進化してしまうかもしれないぞ」
戦闘狂をごまかす為なのか事実なのか分からない。
やるしかないのだろうか?
ナナシも仮面をかぶり愛刀に手をかけた。




