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見習いナナシの仮面劇  作者: ころっけうどん
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8-21話

「よう、おはようさん」


『みうみう~』


いつものように身分証を見せると小さな舌打ちをされてしまった。


「ん…ああすまねぇな。いや当番が一人来なくてよ。さっきまでバタバタしてこれからまたちょっと忙しくなるだろうからついな」


体を鍛えている兵士さんでも風邪をひくこともあるだろう。

常に風邪ひいてるあの方は正規の兵士ではないのでノーカウント。


「休みの時は連絡を入れろっつってんのに…ウサネコ、見かけたら代わりにぶっ飛ばしておいてくれ」


『みう』


ポンと肉球同士を合わせて了承の意を示す。


兵士さんも良くも悪くも人間である。

時にはサボる人もいるんだろう。


「今日いない方ってどんな方なんです?」


「ドウだ」


名前に聞き覚えは無い。


「あのいつものヴィークの根暗なあいつだよ」


根暗と聞いてぼんやりと時々愛想の悪い兵士さんの思い出していた。

顔は覚えていなかった。


2日後。


いつものように尋ね人の掲示板をのぞいていた。


「あれ?」


新しく増えていた紙に見覚えのある名前があった。


”第15師団所属のドウ氏を見かけた方はギルドもしくは兵舎まで”


一昨日サボっててミウがぶっ飛ばしてくれと頼まれた名前だ。

あの兵士さんが行方不明になってしまった?

あのと言っても顔は朧気、名前も先日初めて聞いたくらいの接点しかない。


「どうしたの?」


アリスたちに掲示板に貼ってあった紙の話をした。


「逆恨みを買うことの多い職業だからな」

「気になるの?」


今日はウサネコ達の世話も人が足りているようだ。

とりあえず話を兵舎に聞きに行ってみることにした。

ナナシは3人につき合わせて申し訳ないと謝罪する。

女性3人は文句を言わない。

ナナシがやりたいことを応援するのが3人の目的と言っていい。


兵舎はすぐそこだ。

行ってみると心なしかいつもより騒がしい。


「おお、ナナシ殿今日はどのようなご用件でありますか?少々バタついていて申し訳ないであります」


ちょうど入口の所でハンスに声をかけられた。


「何かあったんですか?」


「行方不明の者が出たでありますよ。それでちょっと」


「もしかしてドウさんが行方不明と尋ね人の掲示板で見たんですが」


「そいつであります」


クレハさんの言う通り兵士たちは職業上逆恨みを買いやすい。

それ故に狙われるようなことがあれば結束して敵に向かう。

結束力は非常に強い。

事件性が高いと見たのか早い段階で市民にも情報の提供を依頼している。


出かける際は最低限どこへ出かけいつまでに帰るのかを報告させられる。

プライベートも何もあったものじゃないが危険を防ぐ意味もあった。


「何かあったんでありますか?」


逆に聞かれてしまった。


「特に何というわけでもないんですけどちょっと気になったものでして」


そう正直に答えるほかなかった。


「何をしてるハンス。宿舎へ調べに行くんじゃ」

「隊長殿!」


ハンスが敬礼を返す。


「ナナシ殿か。入隊手続きでしたらこちらで」


「すみませんそういうわけじゃなくて…ドウさんがいなくなったと聞いて」


「ナナシ殿も手伝ってくれるのか。ドウとは知り合いだったのか?」


「特別そういうわけではないんですが…ちょっと気になったものでして」


「そうか。タダというのは申し訳ないな。宿舎で食事位は取っていってくれ」


食事がもらえるなら今日の仕事として十分だ。


ドウさんは宿舎で生活していたらしい。

とりあえず宿舎に行ってみることにした。

何か情報が得られるかもしれない。


「部屋に行ってみるでありますか」


ハンスさんが部屋をノックする。

普段着の男性が顔を出した。

ナナシの姿を見て少し背筋を伸ばした。


「お、ハンス。それに…”怪獣使い”?何のご用で?」


「同僚のフアンであります」


「初めましてフアンさん。ドウさんが行方不明になったと聞いて捜索のお手伝いに参りました」


「そうか、ご協力どうも。ちょうどどこか行った手掛かりがないか荷物を片付けてたところだ。手伝いに来たなら机の方を見てくれないか?」


アリスさんと中に入る。クレハさんはミウと外でお留守番だ。


部屋の中を見回す。


二段ベッドだ。それが2つある。そのうちの1つには布団が乗せられていない。4人部屋なのに2人しかいないようだ。


「この部屋はドウさんと2人で使っていたんですか?」

「いや4人だ。あとの2人…この間の訓練でダンジョンワームに喰われちまった」


「失礼しました」小さく早く言って頭を下げた。


机の引き出しには鍵がかかっていた。

鍵というのは開けられないと困るし開けられても困まる。


「鍵はドウのやつが持ったままだ。もし開けれるなら開けてくれないか?」


アリスさんが任せてとヘアピンを抜く。

曲げて差し込んでガチャガチャ動かすと机のカギは簡単に開けられた。

”ぬすむ”のスキルの応用だそうだ。


引き出しを開けると書類が出てきた。

古い領収書。大盾と鎧の手入れ代で町の武器屋で支払ったものだ。期限までに出し忘れたか個人的なものだろうか。


書き損じの兵舎の日誌。各班で提出の義務があるそうだ。作成者の名前がドウさんの他にバズとギルと名前がある。これがこの間亡くなった同僚の名前だ。


「日誌って誰かが代わりに書いてもいいんです?」


「基本は班の中で担当を決めるか当番でやるであります。無論代わりに書くことはあってもその時は自分の名前で出すでありますよ」


なんで別の人の名前の書き損じの日誌が出てくるんだろう?


「…ドウさんじゃない人の名前の方が多いわね」


「ドウさんは何の職に就いていたんです?」


「”狩人”と”錬金術師”だよ」


「バズさんとギルさんの2人はどういう人だったんです?」


「年子の兄弟で前衛をやるだけあって2人ともガタイがよかったよ。2人とも”戦士”と”狩人”の職だった」


「仲は良かったんです?」


フアンの片付ける手が一瞬止まった。


「私もドウも同僚でもなきゃ関わってなかっただろうな」


そこまで聞けば十分だ。


「あまり良くなかったんですね」


「ドウは罠を仕掛けたり薬を作ったりが得意で直接的な戦闘向きじゃない。一応武器で弓とか短刀を使ってたが腕はイマイチだった。生産職に就いているなら修行がてら素材を採りに行くこともある。その時は大抵その班同士で行くもんだけどあいつらはよくドウにせびってた。私も少しは諫めたけど効果は無かった」


「前衛が強いところではよくある話ね。…あなたは平気だったの?」


うちも前衛の方が強い。


「こう見えて”聖職者”と”魔法使い”でね」


素行の良くない兄弟も邪険に扱えなかったようだ。


「そういえば…”怪獣使い”君はドウと何かあったのかい?」


「いえ?特にないですが」


「夜中君の名前を呟いているのを聞いたことがあるんだ。訓練が終わった日の夜だった。その前から寝言で言ってるのは聞いた気がする」


ふと夢のことを思い出した。

誰かが僕のことを羨ましい羨ましいと言っている夢だった。

まさかそんなとは思うけどあの夢に出てきたのはドウさんだったのではないだろうか?


「特に居場所の手がかりになさそうな物は無いでありますな。それならミウ殿ににおいを覚えてもらってはいかがでありますか?ここでなくともどこかで会えば分かるかもしれないであります」


とりあえず手がかりが無いからミウに頼ってみることにした。

部屋できていた上着を借りて外に出た。


『みうみう~』

「ごめんごめん。ねぇミウ?この人のにおいってわかる?」

『みう?みう~』


ミウは上着に鼻をひくつかせるとすぐに嫌そうな顔をした。


「どうしたの?」

『あぶない』

「え?臭いじゃなくて危ない?」

『カエルさんのにおい!』

「カエル?」


”危ない”に”カエル”で浮かんだのはモウドクフキヤガエル。

ヴォストック島にいたあの危ないカエルだ。


「なんでカエルのにおい?」


サバイバルで着ていた鎧じゃなくて普段の部屋着だ。

普通ならカエルのにおいはしないだろう。


「どうかしたのか?」


「この服からモウドクフキヤガエルのにおいがするってミウが」


「フキヤガエル?ここらには生息していないハズだ。何より時期が時期だ。ダンジョンの中でもないといないと思うが」


「ってことはダンジョンの中にはいる?」


ドウさんはヴォストック島にいるのではないだろうか?

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