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見習いナナシの仮面劇  作者: ころっけうどん
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8-20話

今日は”女狼の牙”の3人と食事だ。

シクステンからはたまには他のクランと親睦を深めてこいと軍資金をもらった。


夕方に中央広場で待ち合わせだ。


「お、ナナシ殿」「久しぶりニャ」「どうも」


「ハンスさんノワルさんゲンボウさんどうも」


前に一緒に出掛けた3人だ。


「先日の訓練では大活躍だったでありますな」


「運が良かっただけですよ」


言ってからこの間のあれは運が良かったのか悪かったのか良く分からなくなってしまった。


「調査は今も続けられているようであります。問題なさそうなんで次の訓練も開催されそうでありますよ」


「あれ?」


話ぶりによるとやっぱりハンスさんは訓練に参加していなかったようだ。


「ところでナナシ殿は訓練に誰に誘われて参加されたのですか?」


「…え?」


何を言っているんだろう?


「ハンスさんが誘ってくれたじゃないですか」


「いいえ?」


「だってこの手紙…」


ちょうど持っていた。すこし変な折り目のついてしまった手紙を見せてみる。


「これは…」


ハンスはもこもこの手で手紙を広げる。手紙の文章はそこまで長くも無いはずなのに何度も何度も読み返している。


「ナナシ殿…これは私の書いた手紙ではないであります」


「だって名前が」


「本当であります。だってナナシ殿に今これから手紙をだすところであります」


ハンスは懐から手紙を取り出す。

許可を得て手紙を開けてみる。

書いてある内容はほとんど同じだ。

前にもらった手紙と違うところは訓練の日付だった。

文字は…似ているような微妙に違うような。注意して見なかったら気付かない。そもそもハンスさんの字を知らないからこれがそうだと言われたら信じてしまう。


手紙をアリスさんとクレハさんに渡した。


「訓練は複数に分けて行われるであります。流石に全員を一度に参加させるわけにはいかないので交代でやるでありますよ」


そりゃそうか。

兵士さんたちには普通に仕事があるのだ。一度に全員参加なわけがない。


ハンスさんが僕をからかっているというわけではなさそうだ。


こんな手紙を書いて誰が得をするのか?


「訓練にクランを呼ぶ場合はどのような手続きが取られるの?」


「まずギルドから適当に候補となるクランが上げられるであります。ただクランに誘いをかける場合断られてしまうことが多いのであります。そうなった場合は兵士達の中で知り合いに声をかけるであります」


「どこのクランを呼ぶか話し合ったりするんですか?」


「世間話ではするでありますが会議の場などではしないでありますな。声をかけた後は面接があるのでそこでふるいがかけられるであります」


「おいハンス、もし一緒に参加してたら戦う可能性があったんじゃないのか?」


「同盟を組んでいただきたかったでありますよ。稼ぎたいわけではないでありますが死にたくは無いでありますからな」


「同盟は組まれないように色々細工があるみたいですよ」


「やっぱりそうでありますか。…ならこの手紙は誰が何で書いたのでありましょうか?詰め所で聞いてみるでありますか。この書類自体は正式な書類でありますので詰所の誰かなら知っていると思うであります」


詰所へ行ってみた。


ちょうどもらった手紙を処理した人と話すことができた。


「仲の良いクランの方を呼ばれたんだなと思いました。特に書類上の不備はありませんでしたので普通に処理をしてます」


「誘った人が自分の参加するのと別の日に参加をお願いすることってよくあるんですか?」


「…あまり言いたくは無いのですが誘ったクランが応じてくれると誘った者にはいくらか手当てがつきます。なので戦闘を避ける為に別の日に参加してもらうことはよくあることです」


…なおのことハンスさんの名前を騙る理由が浮かばない。

手当てが欲しいならハンスさんの名前を騙ったらその人はもらえない。


とりあえずどのくらいの罪になるか分からないが国の兵士を騙って手紙を出したことはれっきとした犯罪だ。


罪を問うとなるとまずこの手紙をハンスさんが出していないことを証明しなくてはならない。実証は難しい。ハンスさんが手紙を出す動機はあれどハンスさんの名をかたって手紙を出す理由がない。


報酬もギルドで確認してみるとちゃんと振り込まれていた。

書類が正式なものなら十中八九その第三者は兵士の誰かということになる。



「「「かんぱーい!」」」


”女狼の牙”の行きつけの酒場でジョッキを合わせる。

魔物の入店OKなお店で隅の方でミウもおつまみを堪能中だ。

周りのお客にも食え食えとすすめられてご馳走してもらってる。

アリスさんとベファナは3人とは合わないのかミウと一緒にご飯を食べている。


「まさかクレハがナナシの所にいたなんてな」

「そうねぇ元気だった?」

「おかげさまでな」


「知り合いだったんですか?」

「ああ、この町に来た時に少しの間厄介になっていた」


しばらくして酒も進み遠慮のない発言が飛び出してくる。


「奴隷だなんて何やらかしたの?」


「聞くな」


「まぁあんたのことだから騙されて借金かぶせられて首が回らなくなったとかそんなでしょどうせ」


「…いいなナナシ君の奴隷。代わって?」


「そーだ!ずるいぞお前」


「ナナシ君?私たちが奴隷になったら買ってくれる?」


「…」


「ナナシ君どうしたの浮かない顔して?ごめんなさいお店が合わなかった?」


「いや…すみません。この間の訓練でちょっと…」


「悩んでるの?悩んでるならお姉さんたちに話してみなさい」


ナナシは3人に話してみることにした。


「…分からないわね」


「ヒュプノさんは誰から誘われたんですか?」


「手紙は捨てちゃったからもうないけど差出人の名前は無かったと思うわ。適当に決められたんじゃないかしら。ループスが突っかかるから仲の良い兵士なんていないしねぇ」


「いいじゃないか細かいことは~無事だったんだし金も入ったんだし~。ほらナナシ~おごるからお前ものめ~」


アルコールを摂取する気にはならなかった。

せっかくの場でこの話をするのもなんだ。

話題を変えることにした。


「訓練でみなさんは誰か倒したんですか?」


「お?聞いてくれよナナシ~。アタイらにやたら絡んでくるやつらがいてさ~。ちょうど見かけたからぶっ飛ばしてやったんだ」


「印置いて逃げ出したから深追いはしなかった」


「ナナシ君たちは誰か倒したの?」


「倒しては無いんですが…ダンジョンワームに襲われて落とした印を拾ってその分の賞金はいただいちゃいました」


「あらツイてるわね。おねえさんにそのツキを分けて…クレハ分かったから腕をつまむのはやめてくれるかしら。あなたの力でやられたらシャレにならないからね」


「お客様?当店はそういうお店ではございませんので」


冗談も言える位クレハにも酒精が回ったらしい。

なんとかクレハに守られその日の食事は終わった。

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