8-11話
2日目。
本日から本番と言える。ダンジョン内の日の出から他のパーティを襲うことが解禁されるからだ。
稼ぐのが目的な人達は積極的に戦いを挑んでくるだろう。
いや戦いではなく狩りと言った方が適切かもしれない。
ちょっと考えれば罠を仕掛ける人もいればどこかで待ち伏せを仕掛ける人がいることが思いつく。
「積極的に戦う必要はないけどどうする?」
「…」
まだ決心がついていなかった。魔物とは戦えるけど人を相手にするのは苦手だ。
昨日言われて気づいたけど嬉しいことに無理に戦う必要はない。7日間生き残れば賞金がもらえるのだ。
「まぁケガするのも嫌だし私たちは出来るだけ逃げましょうか」
アリスがナナシの意をくんだ。
「わかった?ミウちゃん?ベファナ?」
罠や待ち伏せを回避するにはミウの耳と鼻がメインとなる。いざ戦闘となったら逃げる為にもベファナの火力は活躍するだろう。
『あい!』「うん!」
正拳付きを繰り出すミウと手から火花を出して見せるベファナ。
「…ほどほどにね」
キャンプを片付けてナナシ達は移動を開始した。
サバイバルで今のナナシ達の難点はミウの分の食料の確保が必要なことだ。
積極的に食料確保には動く必要がある。
昨日はどこのパーティも食料確保を行っているはずだ。もしかしたら昨日一日で7日分の食料を確保したところもあるだろう。今日は昨日より食料を確保する難易度が上がる。
よく観察するとヤシの実が採られていたり浜辺で火を焚いたような形跡があった。
昨日のナナシ達と同じように過ごした人たちがいる。
「!!」
ナナシは咄嗟に武器に手をかける。
背中にミウが当たった。
「どうしたの?」
「今…何かに睨まれたような気がして…」
探知でいうならアリスはナナシより種族や経験値から自信があった。油断していたつもりはないし見落としたとは思えない。
「ミウちゃん近くに誰かいる?」
アリスに言われてミウが鼻を鳴らして集中して索敵を開始する。
『みう~?』
森の方を自身なさげに指す。いるはいるけど距離がかなりあるようだ。
「とりあえず大丈夫だと思うけど…気のせいじゃない?」
「うーん…」
探知能力では自分も獣人の血を引いてるとは言えミウやアリスの方が上だ。
そう自覚があった。
2人が平気と言うなら気のせいだったのだろうか。
ぼてっ!
木からヤシの実が落ちてきた。
いや違う。
落ちてきたものから足が生えてそしてハサミが生えてきた。
「ヤシの実に擬態するササガニの変種ね。これだったんじゃないの?」
そうと言われればそんな気がする。
「…かな?ミウ気付かなかったの?」
潮風のせいでどうやらニオイと音に気づけなかったようだ。
ニオイを感じようとすると焦げたようなにおいがした。
「これ食べれるの?」
ベファナがササガニを仕留めていた。
今日のお昼ご飯が決まった。
この擬態するササガニはヤシの実を食べて育つ。このダンジョンの珍味と呼ばれるものだ。食べてみるとなんとなく高級感がある。
ミウもお気に召したらしい。
昨日と同じようにヤシの木を背にキャンプを張る。
今日はそんなに食材が採れなかった。
今晩からは魔物もそうだが夜襲も警戒しなくてはならない。
木の下で出来るだけ立ち上る煙を散らして手早く料理する。
昨日採った食材はまだ少し残しておく。
『ご主人もちょっとない?』
「今日はおしまい」
ぶうぶうと不満そうに鳴き声をあげるミウ。
ミウはナナシに背を向けてふて寝する。
どんなに抗議されても今日はこれだけと決めた。
アリスさんが一人で何か採ってこようかと言ってくれたがさすがに危険だ。
ナナシとベファナが見張りの番になった。
夜は長い。
耳を澄ますと何か遠くで物音が聞こえる。
草木のざわめく音。空気の破裂するような音。悲鳴。雄たけび。
静かに敵はもうすぐそこまで忍び寄ってきているかもしれない。
周囲は月明かりに照らされているからと言って安心できない。
弓矢や投石や魔法による狙撃。心配を上げればきりがない。
しかし常に気を張っていなくてはならないがそうも続けていられるものではない。
ヒマだ。
何もないことが望ましいのだけど何事もないと集中が切れてくる。
…ベファナは隣で眠っている。
ミウが寝言でもぶうぶう言っている。
”ウサネコのお面”をかぶって聞いてみよう。
『おしゃかな…おしゃかな…おしゃかな…いっぱい…』
サバイバルが終わったらたんと食べさせてあげよう。
しばらく食べられないと思うと自分も魚が食べたくなる。
焼くか煮るか何にしようかな。
『みーううううう…』
突然ミウが不機嫌そうに唸り声をあげた。
「どうしたのミウ?」
森の方を見据えたままナナシは警戒を強くする。
「敵は何人か分かる?」
アリスも目を覚ましていた。
『みうっ!!』
親の仇でも見つけたのかという勢いでベファナを乗っけたままミウが飛び出した。
「うわっ!!?」
茂みから声がした。ベファナの声じゃない。
「まっ待ってくれ!降参だ!降参!」
ナナシとアリスが顔を見合わせる。
「口で降参と言ってはいてもだまし討ちを仕掛けてくるかも」
ナナシは同意した。
2人は武器を構えたまま茂みをのぞいてみた。
『おいこら!おさかなもってるなら出せ!』
…良く分からないけどミウがカツアゲしてらっしゃる。
「助けてくれ~」
肉球の下敷きにされた男性が助けを求めていた。
「あなたはどこのクラン?」アリスが鎌を首筋に当てて男に聞いた。
「違う…私はギルドの職員だ。内ポケットの中に身分証がある」
「それなら何故こんなところにいるの?」
「その印を盗みに…」ナナシの首元の印を指す。
「焼いていいの?」
ミウから落ちて目を覚ましたベファナはご機嫌斜め。パチパチと手のひらに炎を発生させゆっくりと男の顔に近づける。
「…やれ。仕事が仕事だからやられても文句は言えない」
「ベファナ、ストップ。…ギルドの職員がなんでこれを盗みに?」
「否応でもクラン同士で戦いを起こさせる為さ。戦いが起きてくれないと訓練にならない。…君達を狙ったのは君達がどこかと組まれること防ぎたかったんだ。君達が積極的に他のところを攻めてくれればと思ったがね」
「「…」」
「あの…怪獣君をなだめてもらえないだろうか?」
『おさかなー!おさかなー!』
どうしてミウがこんな興奮してるんだろう?
「晩ごはん何食べました?」
「えっ?魚の干物を焼いたやつだけど…」
それが原因だ。
『おさかな!』魚と聞いてミウが舌を出して犬のように呼吸をする。
「怪獣君…干物あげるから…放してくれない?」
「持ってるんですか?」
「念の為保存食を持ってる」
ナナシは魚の干物×5を手に入れた。
『まだ持ってんじゃないの~?』
まだちょっとミウの追及は止まない。
職員さんが解放されるのはまだちょっと時間がいるのだった。




