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見習いナナシの仮面劇  作者: ころっけうどん
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7-21話

「この度はご迷惑をおかけしまして申し訳ございませんでした」


バニラは深々と頭を下げた。

しかしバニラは謝っているが機嫌が良さそうである。


晴乞いが成功したのか氷は解けて屋敷は今まで通り。


一体何があったのだろうか?

どう反応していいか分からなかった。


ショワンはちゃんと保護されていた。今はかまどのそばで眠っている。


クレハとアリスは打撲と軽い凍傷。

回復役を飲んで部屋の空気で徐々に温めていけばすぐに治る。

ベファナは風邪を引いたのか少し熱っぽい。

ナナシは少し重めの倦怠感。


ヤキトリもウサネコ達も怒ってはいない。

まぁご飯で万事解決である。


しかしミウだけがちょっと怒っていた。


「どうしたのミウ?そんなに怒って?」

『みうみう!』

「ごめんなさいミウちゃん…なんてお詫びをすれば…」


ナナシが宥めても収まらない。

おやつでも収まらない。

夕飯のメニューはおさかなでもダメだった。


埒が明かないのでナナシはお面をかぶった。


『なんで犬なんか作るの!作るならウサネコだよ!?』


…通訳するとこんな感じだった。


「ナナシさんミウちゃんは何と…」


「大丈夫です。あの時ウサネコじゃなくて狼を作ったからへそを曲げてるんです」


「まぁ…ごめんなさい。次は…次は絶対ウサネコさんにするわ!」


『みうみう』


ミウが偉そうに頷いた。


「…次があってたまるか」


シクステンはテーブルに頬杖をついてぼやく。

少し…どころか顔色があまりよくないのもあってすごく不機嫌そうだ。

氷漬けにされて上機嫌でいろというのは難しいだろう。


「えーと…」


ナナシは頬をかく。


「昨日はお楽しみでしたね?」

「ナナシ君、今初めてぶん殴ってやろうかと思ったよ」


…冗談は通じないらしい。

ご主人の危機にミウがやるか!?と肉球を握りはぁと息をかけている。


「はぁ…判ると思うがバニラもうちのクランに入ってもらうことになった。異論はないな?」


みんなが頷いた。

とりあえずシクステンさんが言うのだから異論はない。

言わなくても異論はないのだが。


「今後ともよろしくお願いします」


シクステンは懐から取り出した小瓶を飲んだ。


「ウサネコ、明日町まで乗っけていってくれ。バニラとちょっと行ってくる」


そう言って立ち上がった。顔色は普段通りの血色を取り戻していた。


ミウは目を細めて不満そうにぶうぶう鳴いた。


「マスター、できれば自分の足で歩いて、自分の目で見て景色を見たいのですが…」

『…みうみう?』


ミウが大丈夫だよ?とバニラの顔を覗き込んだ。

食事当番を引き受けることのあるバニラはミウの中で少々上の身分らしい。

シクステンは何もかも気に入らないというふうにため息をついた。



翌日シクステンとバニラは出かけていった。


バニラは両手を広げ、その身に朝日と風を浴びる。

駆け出したいのを抑えているようだ。

常人が迷う森の中を眼のおかげで迷うこともなく進んで行く。


森を抜けて平原に出たところでバニラは感動のあまり声を出した。

残念ながら今は生き物も植物もあまり活発でない時期だ。


シクステンはバニラの3歩後ろをついて行った。

寒そうにコートの袖の中に手を仕舞い込んでいた。

その中ではメスや薬品をすぐに放てるように構えていた。


道中何事もなかった。

バニラとシクステンではなく、魔物や盗賊にとって幸運だった。


パトリアの門の様子が見えるところまで行くとシクステンは面倒なやつがいると舌打ちをした。

その人は大量に着込んでマスクを装備。完全に風邪の患者のそれである。


このまま行けば会うことになるだろう。

どこか行くのを待っている余裕はない。

今日はシクステンにとっても寒かった。

シクステンとバニラが門に着くと少々のざわめきが起こった。


そのざわめきに反応してガーキはやってきた。


「やあシンさん…久しぶり。逮捕するから署まで来てくれる?」

「何の罪だよ」

「この寒いのに連れの人にそんな薄着させてるんだから犯罪だよ…。こちらはどなた?」

「夫がいつもお世話になっております」

「あの…失礼ですが気は確かですか?」

「ええ、大丈夫です」


「いい?シンさん?落ち着いて?知ってる?」


ガーキは1つ1つ区切って丁寧に言った。


「何を?」


ガーキは低く構えた。


「麻薬って犯罪なんだよ?」

「面白いことおっしゃる方ですね」「時折虚けたことを言う男でして…」


吹いていた北風よりも数段温度の低い風がガーキを襲った。


「さぶぅ!?」


風と冷気であっけなくガーキは戦闘不能になってしまった


「ほら…あったかいものでも飲め」


「う…う…助かった。死ぬところだった」


「主人のお友達とは言え、主人を悪く言われた以上仕方ありませんわ」


クスリとほほ笑むバニラ。

周りは引いて、一切3人の方を見ないようにして自分の仕事に取り組んでいた。


「シンさん…あの人は何者?」


「フラウだよ」


「フラウってことは…なにシンさん本当に結婚したの?」


「手続きなんかは全部これからだよ」


「ざま…よかったじゃん、おめでとう」


「何がざまぁだこのやろう」


「いや…だって大変でしょ?いろいろ」


「まあね。昨日もちょっと氷漬けにされた」


「…結婚って人生の墓場っていうけどほんとに行かないようにね」


「大丈夫だ。…たぶんきっと」


「まぁ式やるならちゃんと呼んでよ。ちゃんとお祝いはするからさ」


ガーキは手を合わせてなむなむと祈った。


「…ありがとね」


とりあえずガーキが心からお祝いはしているのだと伝わった。

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