7-17話
「以上が…バニラ嬢がシクステンに引き取られる経緯だ」
「…」
出会った時は杖を突いて歩いていて、目だけの問題と思っていた。
料理をして裁縫までしてウサネコ達をお風呂に入れて。
並大抵のリハビリではなかっただろう。
自分の経験だが少しの病み上がりの後体を動かすだけでも大変なのだ。
治療してくれたことに感謝して惹かれたのか?
それとも献身的な介護に惹かれたのだろうか?
今はともかくショワン…とシクステンさんを助けるのにどうしたらいい。
ギルドマスターは歴戦の猛者である。
何かいい知恵を授けてもらおう。
「もしフラウの方が怒ったらどうやって宥めます?」
「フラウが怒る?とすれば…まぁ旦那が構ってくれないとかそんなことだろ。…まさかあのバカなんかやらかしたのか?」
ナナシはちょっと目線をそらす。
「おい、教えてくれ。下手すると国際問題になりかねん」
ナナシが黙っているとギルドマスターが詰めた。
「えっと…バニラさんがクランに入るのを断ったみたいなんです」
「何だと?シクステンのクランにか?」
ギルドマスターははあと大きくため息を吐いて項垂れた。
空になったジョッキに口を付けた。傾けてやっと空だと気づいたようだ。
ミウのおかわりを運んできた女性に酒を頼んだ。
即座に却下された。
代わりに持ってきてもらった水を一気に飲み干した。
「どうしてこう厄介ごとばっかり…。バニラ嬢はどうしてる?」
「えっと…今ちょっと部屋に閉じこもってしまって…」
国際問題と聞いて大事にしない方がいいんじゃないかとナナシは思った。
「あいつ…やっぱりというかなんというかバニラ嬢に気に入られたのか」
視線を天井に向け何かを数えるように動かした。
「一国の王女がクランに入れるんですか?」
「あ?ああ…うちの国では別に禁止されてない。うちの王族だって自分でクランを作ったりどっかに入って修行したりする。まぁ…そのせいで厄介ごとも起きるがな」
どうやら経験があるみたいだ。こめかみをもみながら遠くを見つめている。
「あの…もしフラウと戦うとなったらどうします?」
戦うのは最後の最後の手段。目的はショワンの救出か無事の確認だ。
「どうしてそんなこと聞く?」
「今後の参考にですかね」
「まず対魔法使い用の装備とそれに類するスキルを持った仲間を揃える」
装着者のマナを奪い続ける腕輪や魔法を封じるスキルがあるそうだ。
前者はシクステンさんなら準備できるかもしれない。後者はあてがない。
どっちもダメだ。
「それがない場合は…」
「他の条件にもよるが…時期は?」
「今ぐらいの時期で…」「逃げる」
「ダンジョンの中で…」「最悪だ」
「向こうが準備をしている状態…」「どうにもならん」
「装備以外の条件を指定できるなら?」
「真夏の炎天下の屋外とか贅沢を言うなら砂漠、なんなら火山がいい」
「室内なら?」
「もう油撒いて火をつけて火事にするよ」
さすがにあの屋敷で火なんかつけたら後で殺される。
「ともかく今は天の時が悪すぎる。せめてこの時期でも晴れた日の空の元に引きずり出せれば可能性があるかもしれん」
「晴れた日…ですか」
今度はナナシが天井を見上げる番だった。




